1. 呼び声
少女は知らない場所にいた。
ここは、初めて来た洞窟の前。
珍しい蝶々《ちょうちょう》を追いかけているうちに、ここへと続く遊歩道を見つけて、偶然やって来たのである。
この森に住み初めてからは、少女は一人で村から離れた場所へ行ったことが無かった。遊び場はいつも、村の中の煉瓦小屋付近であったり、村の広場に累々《るいるい》と積み重なっている岩場であったり、村の近くの川辺であったりした。
少女は、この深い森の中にあるトラウという村の子供。そこへは二年前に移り住んできたばかりだ。その村人たちは、西の激戦地から逃れてきたのである。何十年か昔には、そこにまた別の村があった。
スラバ・・・という村だ。
今、少女の目の前には、口を大きく開けた洞窟ともう一つ、印象的な建物がある。それとよく似たものを、少女はずっと以前に見たことがあった。
それは〝神様のおうち〟。
ここへと移り住んでくる前のこと。その時にいた村の近くの町で、白いそれを見たのである。つまりそれは、大理石に白い漆喰を塗って造られた神殿だ。
だが今そこに見えているものには、それとは明らかな違いがある。周柱式で形は似ているが、材質がまるで違う木造のやしろだった。
少女は、不意に胸を押さえた。
実は、ここへとたどり着く少し前から、体に異変を感じていたのである。それが、だんだん気分が悪くなっているのだと気付いたのは、今になってのことだった。
中を見てみたくて、そのやしろへと近づいていた少女。だが気持ちが悪くなったことでその気が無くなり、帰ろうと背中を向けた。
待って・・・。
少女は、ふと立ち止まる。
お願い・・・ここから出して。
誰かに話しかけられているような・・・だが聞こえるものは何もない・・・妙な感覚。
これは何? 何だかとても、苦しくて切ない・・・声?
少女は振り返り、何となくやしろへ足を踏み入れた。そこで目を凝らしてみると、床に一箇所だけ不自然な部分がある。あとから手を加えて貼り直したらしい、二十センチ四方ほどの小さな石板が。もっとも、これは大人の見方。少女はただ不自然でなぜか気になると思っただけだったが、少し割れて欠けている箇所に指を差し込んでみると、簡単に外すことができた。すると、下は土だ。まだ気になり、少女はさらに素手で掘り進めていく。
何かに触った・・・固い物。
たちまち胸の悪さを忘れるほど興味をひかれて、さらに土を払い除けてみる。
そして現れた白い箱の中のものに、少女は恍惚と見惚れた。
それは、水晶の粒を繋ぎ合わせた真ん中に、水色の天然石をあしらった素敵な首飾りだった。
ありがとう。あなたはとても強いのね。お礼に、この子たちは抑えておいてあげる。でもそれが精一杯。首輪の呪いはそのうち・・・言うことを聞かなくなるわ・・・。




