7人の旅人
まるでこの世とは別世界へと続いていそうな、穏やかで平坦な森が延々《えんえん》と続いている。木の吊り橋が架けられた川が一筋、この広大な森を縦断しており、計画的に植樹されたかのように整然と並んで見える木々が、柔らかい光と美しい影を落とす。色とりどりの野鳥が飛び交い、小動物が警戒もせずに駆け回り、小さな野生のお花畑に時々出会う。それらが幻想的な風景を創り出しているがゆえに、別世界へ・・・という気持ちにさせられるのだった。
その森を、七人の若い旅人が南へ向かっていた。
こう纏まって歩いていると、彼らを見かける誰もが一見、不思議な集団だと思う。そもそも、彼らには目立つ特徴が多くあった。五男一女一幼女。そして一頭の黒ヒョウ・・・ヒョウ⁉ と、たいていの者がまず凝視。それに見慣れたところで、今度は彼らの容姿に目がいく。
かなりの確率で、一番は最も長身の男性に。琥珀色の髪、瑠璃色の瞳、男にして世にも稀な美貌という言葉以外では表現しきれないような顔立ちの青年なのである。この中では最年長である彼の名はエミリオ。普段は穏やかに微笑むばかりの彼だが、ひとたび戦いに目を向ければ、その美しい顔で、刃広の大剣を縦横無尽に振るう屈強の戦士でもあった。
その彼と肩を並べている青年は、瞳が稀有な青紫色。隣にいる美貌の青年と並んでも、身長等そう大差ない彼は、歳も同じで名前はギル。気さくで親しみやすさを前面に出しながらも、相手を辟易させるほどの威厳と貫禄も併せ持つ。同じく大剣使いである彼は、弓術と馬術も得意とする、様々な武芸に長けた完全無欠の戦士だ。
この二人のやや前方を歩いているのは、金髪碧眼の青年リューイ。小さなナイフくらいしか備えていない彼は、アクロバティックな武術を体得している格闘家。見た目こそ立派な二十歳前後の男性なのだが、師匠である老人以外に人気のない、大陸最南端に広がるジャングルで育ったため、知能と精神年齢が十歳にも満たない少年並みである。ただ、身体能力と筋力は、屈強の戦士どころか超人的に育っていた。つまり謎の黒ヒョウ、その名もキースは、この青年の森(密林)の相棒だ。
そして、子供を除けば唯一女性である亜麻色の髪の彼女は、シャナイアという名の女戦士。現在は剣を手放し、右の腿にナイフを仕込んだベルトを装備しているだけだが、腕は見上げるほど確かだという。また、趣味特技として舞いをたしなむ踊り子でもあった。
その中で、一人だけ気品という言葉が似合わない者がいた。切れ長の瞳がより近寄り難さを感じさせてしまう精悍な容貌で、通称アイアスと呼ばれる組織に所属している傭兵。諸刃の片手剣を二本同時に操ることができ、戦闘能力においては最も高いと言える。それを証明する組織の紋章を額に刻印していながら、常に赤い布を結び付けて隠していた。あだ名はレッド。本名であるレドリーを名乗ることは、あまりない。紳士的(女性的)な響きが恥ずかしいという理由で。
その彼の逞しい腕の中で、すやすやと眠りに落ちている幼い少女がいる。健康的な小麦色の肌で、起きていれば活発に動き回るこのお転婆娘はミーア。この愛くるしい少女は、この中の誰と血の繋がりがあるわけでもなく、関係だけで言えば、レッドが訳あって連れ回しているただの年の差友達である。
そんな非凡な彼らを結び付けたのが、黒髪の少年カイル。彼は十代という若さで医術と呪術を駆使する少年名医であり、精霊使いだ。その肩書きから頭脳 明晰、冷静沈着というイメージを持たれがちだが、それに関することを除けば基本的に単純、楽観、能天気という性格。しかし、凄腕の仲間たちはみな、内心この少年に畏敬の念を抱いている。彼が呪術の勝負に臨む時、そこでは大迫力の超常現象が起こり、命を賭けた別の次元の戦いが繰り広げられることもあるからだ。それに、医師としての彼にも頭が上がらない。
カイルが、この仲間たちを次々と旅の道連れにしていったのには、もちろん理由がある。それは顔がどうとか、戦闘能力が優れているということでではない。
彼らはみな〝アルタクティス〟の、生まれ変わりだということ。
カイルは言った。
再び大陸の終焉が近づいていると。
その大陸とは、神と人間が共存していた大陸アルタクティス。
無論、彼らが今歩いている、この大地のことだ。
つまり、アルタクティスという言葉が持つ意味は、人によればこの大陸の名ばかりではない。大陸を危急存亡の秋から救い出した英雄たちを称した言葉でもある。
ところが・・・。
カイルから、「あなたはこの時代の救世主です。再び大陸を救うべく、その日に備えて僕と共に旅をしてください。」と唐突に告げられた誰もが、正直それを真に受けていない。今はたまたま、成り行きに任せてもそう困ることもなく、皆、カイルの熱意にも負けて承知してしまっただけに過ぎなかった。
ただ・・・この精霊使いの少年と関わってからというもの、彼らは度々、摩訶不思議で奇奇怪怪な出来事に遭遇するようになった。
そして、また・・・。
これは、そんな自覚無き英雄たちが成り行きのままに導かれゆく〝運命〟の一つ。