クラスメイトです。
「ここが、噂の……」
とある町の、部落の神社。
それはごく普通のものであり、その部落を守るために建てられた神社。
俺が生まれるずっと前からあるようで、外観からもかなり古い。
周りにはその部落の公民館があり、近くには子供が遊ぶための遊具がある。だけもう誰も遊んでいないのだろう。滑り台の滑る場所は雨風で汚れていて誰も使っていないのが分かる。
この神社の近く人が1時間に一回通ればいいぐらい。
本当に少ない時は3時間ぐらいは通らない。
そんなありきなりな神社にどうして俺がいるのか。
……どうしても、助けて欲しいことがあるからだ。
それは"神頼み"の為に来たわけではない。
ただ、ネットの噂で見つけたのだ。
ーー助けて欲しいなら、角の生えた犬を見つけてーー
初めはもちろん馬鹿らしい。なんてしょうもないイタズラだと思った。
だけど日に日にその考えは変わっていく。もし、本当に、そんな犬がいたらこの状況を助けてくれるのではないかと……
誰にも言えないこの悩みを。もしかしたら救ってくれるかも。
なんの根拠もない。むしろそんな犬を探すようなら頭がおかしい奴だ。
でも、もう周りからはそんなおかしい奴だと思われている。
だったら……周りの目なんて気にしてる場合ではない。
それから毎日探した。
どうやらその犬は必要だと思われるところに現れるらしい。
日本全国。何処にどう現れるか分からない。ただフッと現れるその犬を追いかけていけば神社へとたどり着く。そこから"とある場所"へいけるようだ。
とある場所。一番知りたい所だがどんなにネットを探しても見つからなかった。でもいける。その犬さえ見つかれば行けるのだ。
だから探した。あてもなく。何処にいるのかという手がかりもない。
これもネットで探したけどなんにも手がかりはない。
本当に雲を掴むようなことをしないといけないのだ。
初めのうちは頑張れる。どうにかしても見つけたい気持ちがあるから。
だけどそれも毎日やっていれば薄くなる。なんでこんなことをしているのかと。本当にこんなことして見つかるのかと。そしてこの噂は本当なのかと疑ってしまうのだ。
そうなってしまえば後は簡単にやめてしまう。
あれだけ見つけてやると意気込んでも、これだけ止める理由があると自分に言い訳して止めてしまうのだ。
俺も止める気だった。もう一ヶ月探しても見つからない。
もっと他にも方法があるんじゃないかと言い訳を探していた。
だけど、そのたびにあの言葉が脳裏を過ぎるのだ。
『信じるものは救われるんです。と誰かが言ってた、気がする』
なんとも曖昧な言葉。自分の言葉ではないし、他人の言葉、でもないかもしれないなんて……そんな心に響くわけでもないのに、なんでだか思い出してしまうのだ。
他人だから、それさえも言っていないかもしれない言葉。
だからこそ、なんか信じれるのかもしれない。その言葉を。
どうしてもその言葉が離れなくてそれからも探し続けた。
馬鹿らしい。アホらしい。もうどうでもよくなってくる……
なのに、なんでこんなにも探しているのだろうか……
そんな風にもうわけもわからないまま、いままで通ったことのない裏道に入った時だった。頭もボォーとして視界も悪いなか、フッと何かが目の前を横切った。
野良猫?いや、大きさ的には野良犬かぁ……
何処にでもいる犬だ。なんかちょっとだけ頭になにかあったような……
「…………犬ッ!!?」
一気に意識が覚醒した。
まさか本当にいるなんて!!未だに半信半疑だがとにかく逃すわけにはいかない。急いで犬の後を追いかけることにした。
それから本当に知らない道を歩いていった。
その犬に追いつきたいのに絶妙に背後姿を見せたら曲道に入ったりしている。本当に例の犬なのか?と思ったがこんなにタイミングよく姿を見せてまるで俺を導いているような感じはやっぱり普通ではないと思った。
そして、たどり着いたのがネットで出てきた神社。
その外見は古く何処にでもあるような神社。だけど犬が導いてくれた神社だ。きっとここから"とある場所"へ……
そう考えているとその犬のは神社の縁の下へと入り込んでいった。
まさかと思い追いかけて縁の下を覗き込んで見たがもう犬の姿はなかった。
もしかして……神社の縁の下に入るのか!?
子供ならともかくすでに大人の体型で狭い縁の下なんて……
どうしようかと辺りを見渡すと、一箇所だけ木材が腐食して崩れ落ちた場所があった。そこならなんとか入れるかもしれない。
持っていたバックを先に縁の下に放り込み、そのあと頭から肩をなんとか無理矢理入れ込んで縁の下へと入り込んだ。バックを手に取り這い付くように狭い縁の下を進んでいく。真っ暗な中をスマートフォンのライト一つで進んでいく。
「…どこに、行ったんだ……」
結構進んだのに、全然たどり着かない。
小さい神社の縁の下にいるのだ。いくら這い付くように進んでいるとしてももう端にたどり着きてもいいはずだ。
すると光が見えてきた。どうやら出口にたどり着いたようだ。
その光に向かって進んでいき、たどり着いた場所は……
「ここは……ヘブッ!?」
「なんじゃヌシは??誰が見上げていいと言ったか?」
暗いところから明るい場所へ出たのでまだ目が慣れていなくボヤケた景色しか見えないうちに、どうやら女性と思われる人から顔を踏まれたようだ。
「妾の散歩コースに侵入するなど…そんなにも殺してほしいのか??」
「ぼんなごどば……」
「言葉もマトモに言えぬか。憐れじゃの…」
これは間違いなく顔を踏まれているから上手く喋れないだけです!
と、言いたいがそれもゴモゴモと分からない言葉になるだけなので言うことも出来ない。
するとタタタッとコチラに向かってくる足音が聞こえてき
「何してるんですか天上院さん??」
「虫を踏んでおるのじゃ」
「それだと履物が汚れますよ〜」
「ふむ。そうじゃな。それはいかん」
ということでやっと踏んだ足をどかしてくれる。と光が僅かに見えたタイミングで何かチクチクしたものが顔に敷かれたあとに、顔に再び圧迫が
「良かったです。丁度茣蓙を持っていて」
「これなら汚れぬな。助かったぞ式守よ」
「お気になさらず、です!」
……結局踏まれた状態に変わりはないようだ。
どうにかしてこの状態を変えたいのだが……
「貴女達、何をしているの??」
「姉様」
「お姉さん」
……また、誰か来たようだ。
お願いだからこの状況をどうにかして!!
「虫がこの場所に入ってきので踏んでおるのじゃ」
「でも直接は汚いから茣蓙を引いたんですよ」
「そう。なら私は殺虫剤を持ってくるわ」
「ぼおおうッッ!!!!(ちょっと待って!!!!)」
見て!ちゃんと見て!!虫じゃないから!!
このままだと本当に殺虫剤を振りかけられる。どうにかしてやめてもらわないと!
「黙りなさい虫が。私に命令出来るのは"お兄ちゃん"だけよ」
「そうじゃ。虫如きか喋るなど烏滸がましいわい」
「いっそうここまま"ゴミ捨て場"に入れ込みますか??」
もう完全に虫、ゴミ扱い。
なんで俺がこんな目に合わないといけないんだよ!!
「はいはい。そこまでにして」
するとまた新たな人の声が聞こえてきた。
それも女性ではなく男性の声が。
「お兄さん!今まで何処に言ってたんですか!?」
「忘れ物を取りに学校だけど」
「どうして妾を連れて行ってくれないのですか??」
「目立つから」
「余計な虫がくっつかないように私達が隣で見張るべきだと思うわ。
そしたら私達もお兄ちゃんもハッピーよ」
「うん。全然思わないから。いいからとにかくその足を外しなさい」
その男性の言葉に素直に聞いたのだろう。
圧迫されていた顔が解放され、チクチクしていた茣蓙も外れた。
この人のお陰で助かった。のだが、なんか聞き覚えのある声だと…
というか、ついさっきまで聞いていたような……
少しずつ視界も良くなりその人の顔が見えてきた。
「ところで。踏まれるのが趣味なんて知りませんでしたよ」
「んなわけがあるか時崎ッ!!」
そこにいたのはクラスメイト。
そうここに来るまで、学校で別れてきたクラスメイトで、友達の時崎 一がそこにいた。




