表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/52

第四十七話 魔都が来る

はい。サヨウナラ。さよう……奈良 って……。プププ……。

とは、ならないよね!

「名を告げるは七星剣!! オブッ!」


 鹿目征十郎(しかめせいじゅうろう)は告げるなり、卒倒しそうになった。身体中のエネルギーが吸いとられて、干からびてしまいそうになる。国宝級のヤバいアイテムを取り出そうとしているせいだが、実行してしまうと、駆けつけない救急車を手配する羽目になりそうだった。


 襲い来る疲労感に耐えていると、千春が雪丸の白い体毛を掴みながら、背中によじ登って来た。鹿目と武くんの間に割り込んでくる。そこが定位置だと主張しているようだった。


「はあ……。くだらん夢見てたわ。さっさと終わらせようや、(みんな)


 うんざりしたように千春は言うが、声に怒りが混じっていた。


「俺も腹立ってるで。人の気持ちを踏みにじりよる。最悪の化け物やったな!」


 武くんも憤っている。

 (ひど)い夢をさっきまで見ていたせいだろう。


 あれ?

 俺も夢を見ていたっけ……。

 鹿目は思い出そうとした。

 武くんや千春は、鮮明な夢に晒されていたようだが……。

 俺は……間一髪で若い女性を助けたんだっけか? うん。見事に思い出せん。


「きよったぞぉ!!」


 鹿目が物思いにふけっていると、武くんの絶叫にも近い声で現実に引き戻された。

 雪丸に跨った三人が西の方を振り向くと、暴風が如く騒音を伴って、空から松の木が降り注いできた。空に屋根が出来たように、一瞬で大きな影に呑まれる。

 各々が適当に喚いた。


「えええええ!! 何じゃこりゃ!!」


「きゃああああ! 噓やんなぁぁ!!」


「やばい! やばい! 天変地異やで!!」


 雪丸が後方に跳ぶと、今までいた場所に巨大な松の木が逆さまに落ちてきた。

 一本だけではない。

 無数に、限りなく、天からの贈り物のように松は降り注ぐ。

 恐らく、立っていられないほどの振動がしているのだろうが、雪丸が激しく動き回るので体感することは出来ない。それが有難いのか迷惑なのかは微妙な所だが、とにかく、直撃すれば即死する事象に雪丸は正確に対応していた。


 ――魔都化の最終楽章。

 

 鹿目は、天を睨んだ。

 黒い雲が異様な速度で動き回り、様々な物を落としてくる。

 世界の頂点に君臨していた人類種が、その座から蹴落とされる瞬間。

 水も空気も、光や重力さえも存在しないという、化け物達の楽園【魔都】に、世界が塗り替えられていく。

 色々な段取りをすっ飛ばして、一時なりを潜めていた魔都化が、唐突に完了しようとしているようだ。

 

『法隆寺本体を叩くよ! そうしないと収まらない!』


 雪丸は軽やかに絵殿の屋根に登った。

 そこで全貌が見えて来る。

 遠く西の西院伽藍(さいいんがらん)の方から、土地の崩壊が始まっているようだった。巨大な黒いうねりが、建物や松を飲み込みながら津波のように迫って来ている。


「うおおお! 奈良が終わっちまうぞ!! 魔都が、すぐそこに見える!!」


 大崩壊を前にして、鹿目は、なんの忖度(そんたく)もなく言い放った。

 興奮して声が、不必要にビブラートする。

 黒いうねりの向こうの方で、雪丸とは関係ない、自然の雷が無数に落ちている。

 やがてそれは、地面と空を結んだまま消えなくなった。もう、滅茶苦茶だ。


「ここで踏ん張らないと、マジで終わるぞ! お前ら本気出せ! 法隆寺の野郎はどこいった!?」


 鹿目は、雪丸や残る二人に叱咤激励(しったげきれい)を飛ばし始める。

 わざわざ(わめ)き散らさなくても、心得ている面々は、とっくに法隆寺の姿を目を皿のようにして探しているのだ。今の鹿目は、無理難題を振りかざす、潰れかけた企業の中間管理職のようだった。


 だが、無理もない。

 西からは、荒れ狂う崩壊が急速に迫る。

 相変わらず空からは、通常ではあり得ない、様々なものが降り注いでいる。雪丸の背中に跨がっていなければ、ぶつかって、すぐに昇天していた事だろう。

 このままでは、鹿目達がいる東院伽藍も、やがて呑まれてしまう。

 雪丸は、絵殿より東の舎利殿に飛び移った。飛び移った瞬間、絵殿の屋根に松が刺さる。

 もう逃げる場所がない。

 雪丸が吠えた。


『居たよ! いたいた!』


「見つけたか! 何処だ!?」


『流れてくる屋根の上に居るよ!』


 鹿目は目を凝らした。

 地面のうねりを、滑るようにして大きな建物が流れてくる。あれは西院伽藍(さいいんがらん)の奥にあった大講堂(だいこうどう)だと鹿目は思い当たった。

 沢山の仏像を(まつ)ったその屋根の上に、罰当(ばちあ)たりな天女が舞い降りている。そこだけ微かに照らされて、陽が入り込んだように見えた。

 法隆寺だ。


「確かに居るが、アイツが辿り着くまで俺達がもつかだな」


『その辺は任せてよ。こっちからお出迎えしてやろう』


 と言いながら、雪丸は流れてきた松に飛び移った。そこで落ち着く事なく、次々と流れて来る漂着物の上を飛び回る。

 ついには空中を飛び出して、落下中の土壁を蹴った。

 一匹と三人は空を駆けていく。

 やたらと暗い濃厚な雲がかかった空を、稲妻と共に駆けていく。

 鹿目は興奮した声を出した。


「こいつはすげぇ! よしよし。じゃあ俺も本気を出すか。来い七星剣! 力を貸しやがれ!」


 悠久の時を、平然と越えて来た七星剣なら、法隆寺の時間操作に耐えて、喉笛に届くはずだと鹿目は思った。

 激しい眩暈(めまい)がする。

 鼻血も出放題だが、千春からティッシュでも貰おう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ