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第四十話 聖徳太子の呪い

さて、ようやく敵の本拠地に乗り込みましたよ!

調べれば調べるほど、法隆寺は色々な逸話があって面白い。

 世界遺産にもなった法隆寺を、聖徳太子の怨念を封じ込める寺だと言う人がいる。

 聖徳太子の一族が、太子の死後、蘇我入鹿(そがのいるか)によって滅ぼされると、疫病や災害が続き世が乱れた。

 これを太子の呪いだと受け取った時の権力者が、法隆寺を鎮魂の寺に仕上げたという筋書きだ。


 東院伽藍(とういんがらん)には八角形の夢殿が建てられ、聖徳太子等身の救世観音(くぜかんのん)(まつ)られたが、まるで何かを閉じ込めるように、像は木綿の布でぐるぐる巻きにされていた。その姿は異常である。

 また、金堂(こんどう)や五重の塔がある西院伽藍(さいいんがらん)の中門には、門の真ん中に柱が立っていて、人の出入りを邪魔している。

 その邪魔な柱の正体は、怨霊となった聖徳太子を外に出さない為の封印なのだそうだ。


 なるほど、そう言えば……。

 鹿目征十郎(しかめせいじゅうろう)は、遠くて近い過去を振り返る。

 十五年前に会った豊聡耳(とよさとみみ)、つまり聖徳太子は、五重の塔の下にある骨を取ってくるよう鹿目に頼んでいた。自分では中門を越えられないからだと言っていたが、そのような理由があったのだ。


『本当だと思うかい?』


 鹿目を首根っこに乗せて歩く雪丸が、道すがらそのような逸話を披露したので、鹿目は黙って聞いていた。

 非常に興味深い話である。


「なんだよ、それっぽい理由があるじゃねえか。豊聡耳が闇落ちしたのは、それが原因かもな。そのせいで人間も化け物も見境なく攻撃しているんだとしたら、世の中全てを恨んでいる感じがするぞ。……もし、そうだとしたら、お前は自分のご主人様を、一体どう扱うんだ?」


『…………』


 先ほどまで饒舌(じょうぜつ)だったくせに、鹿目の問いに雪丸はすぐに答えなかった。

 前を行く軽トラに遅れないよう、ただ歩いている。

 先導する軽トラの速度は遅かった。松の根がアスファルトを破って至る所に飛び出しており、躱しながら進むからだ。

 鹿目が、もう一度同じことを言おうとしたら、股ぐらの下から男の子の声がした。雪丸の声だ。


『和をもって(とうと)しとなす……』


「ん? わ? なんだそれ? 聞いたことがあるな」


『争いごとは止めなさい。話し合って解決しなさい。豊聡耳が定めた、十七条憲法だよ。もし豊聡耳が、君が言うとおりに闇落ちして魔王となってしまったのなら……。それはもう、僕が知っているご主人様ではないね』


「じゃあ、どうするんだ?」


『思いっ切り噛みついてやる』


「ウヘヘ。それがいい。神様の尻に噛みつくなんて滅多に出来ないからな」



 参道から氾濫したような松並木を越えた先にあるのは、法隆寺の総門である南大門だ。鹿目の記憶の中では、ラーメン大好きな化け物が擬人化の際に取り憑いていた門だが、軽トラと一匹が辿り着くと、焼け落ちてしまった跡だけが一同を迎えた。

 屋根も落ちていて黒ずんだ柱の残骸が、かろうじて確認できるだけである。そこにまた、松がしゃしゃり出てきて、景観を複雑にしていた。


 武くんが運転席のドアを開けて降りて来る。手には金属バットが握られていた。軽トラを挟んで左側にいる鹿目に話し掛けると、鹿目は巨大化した雪丸に跨がったままなので、自然と見上げる形になった。


「こっからは歩きやな。松が邪魔や。中門の前まで行って、東に進めば夢殿に着くで」


「中門か。同じく焼け落ちているようだ」


 雪丸に跨っているせいで、鹿目の視線は武くん達と比べると随分と高い。その分遠くまで見渡せるが、燃えた南大門を通り越して先に見えるのは、同じように焼け落ちた中門の残骸だった。

 更にその向こう、金堂や五重の塔といった背の高い建物も確認できない。恐らく破壊されて原型を保っていないのであろう。

 最奥の大講堂が無事かどうかは、松が邪魔をして分からないし、そもそも距離が遠すぎて鹿目の視力の限界を超えていた。


 兎に角、重要なのは「中門が無くなっている」という事実だ。

 雪丸の話が本当なら、聖徳太子の怨霊を封じ込める封印は、すでに解かれている。


「……ったく。しっかりしろよな。奈良を救うんじゃねえのかよ」


 十五年前に、呑気に笑っていた豊聡耳を思い出して、鹿目は文句を言った。まるで、つい昨日の事のように、はっきりと思い出せた。


 法隆寺の敷地に踏み込むと、荒れていた。

 燃えて崩れた瓦が散在しているし、境内を仕切る壁は、一部が倒れている。

 石畳を破って大きな松が所々に生えだしており、もう何年もの間、誰も手入れをしていない様子が伝わった。


 雪丸の横に来た千春が、(うらや)むような目で鹿目を見上げた。刺すような視線でもある。何か気に入らない事があるに違いなかった。


神使(しんし)。あんた楽そうやな」


「え? 俺?」


「そうや。雪丸の背中に自分だけ乗って、私ら歩きやん」


「代わろか?」


「え? いいの? 雪丸も大丈夫?」


『大丈夫だよ。皆で乗りなよ。その方が早い』


 雪丸がそう言うと、千春は瞳をキラキラと輝かせた。どうやら、大きくてモフモフとしている今の雪丸の姿は、千春の嗜好(しこう)のツボを刺激するらしい。普通なら武くんのように、警戒して一定の距離を保つものだが、千春は違って、雪丸の毛を撫でている。


 屈んだ雪丸の背中に、千春、武くんの順番でよじ登る。猟銃と金属バットは持ったままだ。雪丸の背中は広く、二人が跨がっても、まだ一人位なら乗れそうだった。

 雪丸が立ち上がると、白い体毛が伸びて二人の腰や足に巻き付いた。


「うわ! なんやこれ!」


「へぇ~! これなら少々無理しても落ちへんね! ちょっと温かいし、雪丸ありがと~!」


 びびる武くんを他所に、千春は興奮して、手の平で雪丸の背中を何度か叩いた。反応して、クゥンと甘えたような雪丸の声がした。


『では、しっかり掴まっていてね。飛ばすから!』


 鹿目の後ろにいる千春が、鹿目の腰に腕を回した。猟銃を手放してくれていたら、少しは落ち着くのに握ったままだ。

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