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第三十八話 カラクリ

夢か現実か~。

作者もわけわから~ん!!

 空からは、太陽の光がギラギラと降り注いでいる。

 じっとりと汗を掻きながら、おかしな天気だと鹿目征十郎(しかめせいじゅうろう)は思っていた。

 昨日から、短い間隔で空模様がコロコロ変わる。一時間ほど前までは、暗く雨粒が落ちてきそうだったのに、今は晴天を取り戻していた。

 高く浮いている白い雲は、魔都になった土地を越えて奈良にやって来る。予想がたたない空模様の原因は、そのせいかも知れなかった。


 ひび割れが酷く凸凹(でこぼこ)の道路を、白い軽トラがバウンドする。

 スピードは出ていないが、荒い運転をしているのは武くんだ。助手席には千春が座っている。軽トラの荷台には鹿目と、それに添うように標準語を話すワンちゃんがお座りしていた。

 三人と一匹は、車に揺られて、ゆっくりと北上している。


『何を探しているの?』


 自分の事は、雪丸と呼ぶよう自己紹介を済ませた白いワンちゃんは、背中をじっと見詰める隣の不審者に問いかける。

 視線を咎められたような気がして、鹿目は慌てて答えた。


「い、いやね。チャック的な、もしくはジッパー的な物が背中に付いていないかと思ってな」


『おや? 僕の中に誰か入っているとでも思っているの? よくそんなので神使(しんし)を続けていたね。怪異は一杯あったでしょ?』


「そうだなぁ確かに……。でもワンちゃんが達者に話すのは初めてだなぁ」


『いい加減慣れて欲しいんだけど?』 


「わかったわかった。努力するよ。ウヘヘ……」


 鹿目は観念したように言った。

 ワンちゃんが、男の子の声を出して、小さく笑ったような気がした。咳払いをしてから、鹿目は続ける。


「ここは現実なのか?」


『知らないよ。そんなこと。気になるの?』


 雪丸というワンちゃんは、赤い舌を出してそっぽを向いている。通り過ぎていく風が、白い毛を撫でていった。


「そりゃ気になるだろ。信じられない事だらけだ。助手席に座っている千春なんて五歳だったんだぞ。それが今はどうだ」


 運転席の後方に付いている窓から、運転手と助手席に座っている者の後頭部が常に見えている。その後姿は、どうみても大人だった。

 これが夢だったら、どんなに良いことか。


夢違観音(ゆめちがいかんのん)という仏像が、夢殿の北、絵殿(えでん)の中にあったらしい。その観音さまにお祈りすると、悪い夢を良い夢に変えてくれるらしいよ』


「その観音さまに、お祈りして、都合の良い夢にしてもらえって事か? じゃあ今は悪夢を見ているって事になるんだな」


『だから知らないよ。夢かどうかなんて。でも、君の上司の天音さんは、ここは夢だと断言していたんでしょ?』


「ああ、そうだ。だけど、僅かに別の可能性が残るって、非常に微妙な言い回しなんだよな。なんだよ、別の可能性って」


 ぶつくさ文句を言う鹿目を、雪丸は面倒臭そうに見た。


『それは、こういう事じゃないかな? 夢にはね、二種類あると僕は考えていて、天音さんがまず疑ったのが、今のこの状況が、人間が睡眠中にあたかも現実のように見ている心像。それを強制的に見せられているのではと疑ったのだと思う』


「なるほど。だが、それなら俺も疑ったぞ。散々ツネってもらったが、効果がなかった。寝てんなら痛みで目覚めるだろ?」


『ふふふ。夢の中で、頬っぺたをツネっても駄目なんじゃないかな。それに、強力な暗示をかけられていると、ちょっとやそっとじゃ目覚めないよ。だから天音さんは、暗示を解くためにキーとなる物を破壊しに行ったのだと思うよ』


「ふむ。それで失敗したと……。キーというのは何だろうな? 俺達は覚めない夢の中にいる? 何処かで仲良く眠っているのか? え? じゃあ、誰が夢の中の登場人物で、誰が観覧者なんだ? 夢見ている奴と、演じてる奴の線引きはどうするんだ?」


『さあ……? そんなの僕に聞かれてもね』


「オイオイ、分からないのか。天音大佐や、俺達は同じ夢を見ているのか? 千春や武くんは、夢の中の登場人物……? それはそれで、また信じられないな」


 鹿目は重い溜め息をついた。

 賢そうな雪丸が、色々と仮説を立ててくれるが、鹿目の頭の中が追い付かない。


『言ったでしょ。夢には二種類あるって。寝ている時に見る夢と、そしてもう一つ。……将来こうありたいという願望であったり、目標であったりを、例えば夢と表現することはないかい?』


「ん? 将来の夢……。まあ、言うな。昔からの夢が叶った~とか言ってる人は、たまに居るな」


『だろ? だったらこの世界は、誰かの将来の夢なのかも知れないよ。誰かの願望通りに作られた世界』


「誰かって……。豊聡耳か?」


『うーん。この場合は違うと思う。もう一人いるでしょ。怪しい奴が』


「もう一人って……。あっ! 法隆寺の野郎か!」


 鹿目の表情が明るくなる。

 雪丸は話し疲れたように、大きなアクビをした。


『君の車は錆びだらけだったね。法隆寺の仕業でしょ?』


「ああ、そうだ。腹がたつ。いきなり攻撃を受けたんだ。俺じゃなくて車に。あいつら車ばっかり狙いやがる」


 今度は、鹿目にもはっきりと分かるぐらいに、雪丸は声に出して笑った。思わず吹き出してしまったという感じだ。


『ふっ。またまた推測だけど。法隆寺は時間を操る化け物だと、僕は思っている』


「時間?」


『君の車を初めて見たときに受けた印象は、随分と古い車だな、だったよ。まるで何百年も雨風当たる屋外で放置したようだとね』


「いやいや、一瞬だったぞ」


『だからさ。法隆寺が時間を進めたんだよ。きっと』


「ま、まじかよ……」


『絵殿にあったと言われる夢違観音。法隆寺の時間を操る能力。これらが合わさって、今の奇妙な世界を作っている。なんて考察はどうだろうか神使(しんし)? 割と核心をついているような気がするんだけど』


 雪丸の黒い目が、じっと鹿目を見詰めている。きっと雪丸の考察が、正解なんだと鹿目は思った。


「ということは……。必然的に俺達のタイムスリップは法隆寺の仕業になるな。かぁ~。そんな化け物とやり合って勝てるのかよ、まったく! 強敵だぞ!」


『たしかに。もし、そうだとしたら強敵も強敵。世界最古の木造建造物を擬人化の材料にしたのだから、その権威を受け継いで、相当格の高い化け物になったと考えて間違いない。正直僕も、勝てる気がしないね』


「やっぱり、そうなんだ……。ウヘヘ……」


 諦めて鹿目は項垂れた。だが、一つ気になる事があって顔を上げた。


「あとは豊聡耳が、何で魔王化して、奈良県民を襲ったかだな。生き残った人達は、誰も法隆寺の事なんか言っていない。全員が、今の現状を豊聡耳のせいだと言っていたぞ」


『そうだね。僕の主人は呑気な人だけど、人々に危害を与えたりは絶対にしないと思うんだ。きっと訳があるよ』


「なるほど。そこまでは分からないんだな」


『何を言ってるの? 分かってなんかないよ。全部推測。君が勝手に信じているだけさ』


 鹿目が何か言い返そうと口を開きかけると、運転席の窓から、武くんの大きな声がした。


「二十五号線に出るぞ! もうアイツ等の巣みたいなもんや! 怪鳥(イカル)がアホほど飛んでるで!」


 見上げると太陽を背にして、黒い影のような鳥の群れが旋回をしていた。数十はいるだろう。いきなり戦闘になりそうだと鹿目は思った。

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