scene.09 会えない主人公と企業秘密
2日目からは早速授業が始まり、早くも1週間が経過した。
しかし、1年の授業はどれもこれも既に履修済みの退屈な内容で、俺が習うような事は何もなかった。
ラーガル学園は選択授業となっていて、何を選択して受けるかは生徒の自由で、しかも必修科目が存在しないし出席日数なんてものもない。伸ばしたい分野を只管に特化させていく教育方針であり、テストも選択した科目のものさえ合格していれば問題ない。
大変に緩い教育機関のようだ。もちろん学年があがれば専門性があがるので問題は難しくなっていくので簡単の一言で済ませる事は出来ないが、それでも得意分野を特化させると言うのは良いものだ。
主人公がどの授業を選択しているのかを調べたいのだが、どうにも俺が選択している授業ではまだ会えていない。語学、数学、神学、魔導学、地学、政治、歴史、実技を適当に満遍なくローテーションで回しているのだが、ギルバートは一度も見ていない。あいつは何の授業を選択してるんだ?
そんな事を考えながら魔導学の授業を頬杖をついて聞いていると、
「オーリー、今更こんな授業を受けて意味がありますの?」
隣の席に座っているマリアがヒソヒソと声をかけてきた。
何をどうやっているのかはわからないが、マリアは教えても居ないのに俺の選択する授業の全てで一緒にいる。どの授業を受けるのかは事前に決めるのでそうそう一緒の授業になることは無いはずだが……偶然か?いやそんな偶然はない。
しかし、リリィにすら好きなものを選択して受けろって言って俺が受ける授業を教えていないし、俺以外に俺が何の授業を選択しているかなんて知っている人間はいないはずなんだが……毎回隣にいるんだよな。
「授業に集中しろ」
しかしまあ、マリアの言う通り授業を受ける意味なんてねぇよ……
俺だって授業なんて受けてないで折角だから学園ダンジョンを周回したい。しかし、その前に主人公がどのヒロインと接触するのかを確認したくて、こっそり観察しようと思って授業にも真面目に顔を出している。だと言うのに、この一週間は一度も同じ授業にならなかった。
主人公が誰を落とすのか、誰を攻略するのか、この世界が一体どのヒロインのルートに進むのか、それを見てから色々と動きたいというのに……
あ、そうか?
「なあマリア?めっちゃカッコイイ男子いるだろ?あいつが選択してる授業とかってわかるか?」
マリアと主人公の接触は早かったはずだ。
なんせコイツは面食いの超肉食系、いや百獣の王系女子。超イケメンの主人公に大金を払って奴隷契約を結ぼうとするイベントはとっくに終わっているはずだ。
奴隷契約イベントは最初期に発生するヒロインとの出会いイベントの1つで、金を積んで入学したでもなく、平民出身で何の実績もなくのほほんと授業を受けている主人公にマリア=カラドリアが絡んでくる出会いイベント。
『あなた……私の奴隷になりなさい。そうすればもっとマシな暮らしをさせてあげますわ』
マリア=カラドリアは出会ってそうそう挨拶もなく一言目がこれだった。俺はギャルゲーなんて初めてだったが、マリア=カラドリアが変なキャラクターだとすぐにわかった。
一応選択肢で奴隷になる事も出来るが、その場合は『主人公は幸せな奴隷生活を送りました』という感じの文章が出て終わりだ。ゲームオーバーとかではなく1つのエンディングとしてカウントされていた。
幸せな奴隷生活ってなんだよ!?と当時は思ったものだが……なるほど。ギルバートあの美貌だ……マリアのお気に入りの相手になって幸せな生涯を終えたに違いない。
「カッコイイ男の子……?オーリーの選択する授業をどのように調べているかの話ですの?企業秘密ですわ」
「いや……俺じゃなくて、ほら居るだろ?金髪金目のすげーイケメンが」
「はて……申し訳ありませんわ……この学園にオーリー以外の男がいることを失念しておりました…」
「いや嘘つけよ。周りにもいくらでも男子がいるだろ…てか、魔導学の先生も男だろ」
そう言って俺は黒板の前で何やら喋っている先生に視線を送った。
「その……お名前を教えてくださればお調べしますわ」
「じゃあ頼む。ギルバート=スタインっていう一年生で金髪金目の超美少年だ」
「そうですの、後でお調べしますわ」
なんなんだこの素っ気無い反応は?
もしかして本当にまだ接触していないのか?
入学から1週間も経過しているしそんなはずはないと思うんだが……ゲームのイベントが前後しているのか、もしくはこの世界ではマリアルートに突入しないのだろうか。
いや……まだ判断するには早いな。
とにかく、まずはマリアとギルバートに接点を持ってもらう。
もしかすると既に他のヒロインと接触している可能性もあるが、ギルバートと接触さえしてしまえばマリアは俺から離れて主人公に猛烈アタックを仕掛ける。そうやって主人公とマリアが行動を共にするようになれば、俺の自由時間は自然と増える。ダンジョンに修行に、いくらでも出来るようになるし、夜も安眠できる。
生徒会に所属させられたのは痛かったが、主人公にマリアを擦り付ける事さえできれば±0だ。
思い返してみれば……長い付き合いだったなマリア
今にして思えばお前と絡む毎日はそれほど悪いものじゃなかった。
もちろん、それ以上に良いものでもなかったがな。
主人公の事を調べてそのまま俺の元には返ってくるんじゃないぞ、マリア。なーに心配するな、アイリの面倒は俺が責任をもって見ておいてやる。
と言う事で、マリアは好きなだけ主人公と愛を育んでくるんだぞ!
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1部が未だにランキングに乗っていた事もかなり嬉しかったので、評価やブックマークや感想のお返しは2話投稿と言う形でm(_ _ )m
あと、1部に引き続き誤字脱字修正も本当に感謝しておりますm(_ _ )m