scene.06 入学式と確信する勝利
ラーガル学園は、王都から馬車で2日ほどの距離にある。
この学園には国内外から優秀な貴族の子息が集い、貴族だけではなく優秀な冒険者や魔術師が招かれる。
ラーガル学園が王都から少し離れた場所にポツンと建っているのは、学業に専念するためだとか、自立した精神を養うためだとか、貴族同士で結束を深める為だとか色々いわれているが、これと言って不自由するような事はない。
基本的には寮生活が推奨されているが、学園の敷地はかなり広大で中には貴族が建てた屋敷もちらほらとあるので、一部の貴族は別荘で生活するような感覚でしかない。
学校とは別に飲食店や鍛冶屋といった店も充実しているので学園と言うよりは小さな街と言うべきかもしれない。
もちろん、俺とリリィは寮生活だ。無駄な金は使わない。
「皆様、ご入学おめでとうございます」
学園の校舎の前にある広場で、新入生を歓迎する挨拶が行われている。
挨拶しているのはもちろん、ラーガル王国王女であり現生徒会長であるシャーロット=ラーガルだ。
「この佳き日、皆様方との出会いを心より歓迎し―」
シャーロットとケルシーは俺やフェリシア、マリアより年上なので一足先に学園生活を送っていたのだが、シャーロットは入学した直後から生徒会長をしていたとか。王女様だし、ゲームの世界だし、異世界だし、あまり驚くような事でもないのだろうが大したものだ。
シャーロットは攻略キャラではないがゲームでは一際存在感を放っていたし、やはり王女様と言うのは美しい。出来ることなら人一倍頑張っているあの人を支えてあげたいが……俺は死にたくはない。
18歳で成人の儀を迎える前に必ず国外に逃亡する……
俺がここに居られる時間は残り3年間だけだ。
◇ ◇ ◇
色々な貴族のおっさんが入れ替わり立ち代り忙しそうに挨拶が続き……
「続きまして新入生代表、オーランド=グリフィア。前へ」
俺が挨拶する番になった。
適当に繕った言葉、心にもない言葉、どう言えば皆が喜ぶか、どう言えば皆がやる気になるか。口はスラスラ動いた。
グリフィア家の俺がどう振る舞えば模範になるか………ただ死にたくないと言う理由だけで国を捨てる癖に、今ここにいる全員を裏切るくせに……どの口が言うんだろうな………
そうして、新入生を代表して美辞麗句を並び立てる傍らで……
俺の意識はただ1人の生徒に向いていた。
あいつだ……
見つけたぞ…『グランドフィナーレの向こう側』の主人公……
ギルバート=スタイン……
遠くから見てもわかるほどに美しい…いや、遠くから見るからこそ尚その美しさがわかる輝ける金の髪に、挨拶をしている俺を真っ直ぐに見据える瞳もまた美しい金色だ。金の髪に金の瞳、何処と無くシャーロットを連想する色だな。
それに顔も……す、凄いな……なんちゅうイケメンだ……同じ生き物なのか?そりゃ王女だって一目見て学園に招待したくなるわけだ。
自分で言うのもなんだが、オーランド=グリフィアだって前世基準から考えれば相当なイケメンだとは思う、いや、思っていた。
ざっくり切った亜麻色の髪もこの6年間でまた伸びてきたので綺麗に手入れして、フェリシアに貰った紫色のリボンでしっかりまとめてある。やや三白眼気味の黒の瞳は悪役っぽいっちゃぽいが、それでも十分イケメンだろう…………なんて自惚れていた。
しかしそれもギルバートに比べれば道端に落ちている馬の糞だ
あれは次元が違う。
あれはシャーロット王女のような完成された美だ。
だが、これで安心した……
勝った……これは勝った!!
あいつなら確実にヒロインを落とせる!!
あれ程の男に言い寄られて落ちない女がいるだろうか?いやいない!
強く迫られたらもしかしたら男の俺でも落ちるかもしれない程の圧倒的な美だ。まだ話していないからギルバートがどんな性格をしているのかはわからないが、ゲームのテキストではどのルートに進んでもかなりの好青年だった記憶がある。
「―これをもって私からの言葉を締めさせてもらいます」
代表の挨拶を終えてから、ハッとした。
重要な事を言っていなかったと。
あの超級絶世美少年主人公ギルバートは、学園生活の最初はかなり苦労をする。1年パートと呼ばれるその大部分は自分磨きと各ヒロインとの好感度稼ぎをするわけだが……ゲーム一周目の彼は何のとりえもない本当にただの平民なので能力値が軒並み低い。この世界の主人公が何周目のステータスかは知らないが、それでも苦労はするはずだ……
オーランドだけではなく、多くの男性貴族が彼へ辛く当たるからな。女性の貴族に辛く当たられた描写はなかったが、そりゃあこれだけのイケメンなら納得だ。逆に男性貴族がギルバートに辛く当たっていた原因もあの顔か……男の嫉妬は見苦しいとは聞くが……なるほど……
ゲームと同じく周囲からの強烈な当たりに苦労しつつ1歩ずつ成長してくれるのも構わないのだが、出来ることなら無駄な苦労は背負わないでほしいし、可能であればさっさと攻略ヒロインを決定して貰いたい。
ギルバートが誰を落とすのかさえわかればそれ相応の対応が取れるし………なにより……立場の弱い人間に辛く当たる奴が俺は嫌いだ。反吐がでる。
よし……そうだな
「……いえ、1つ言い忘れたことが御座いました」
締めた言葉を再開するのは礼儀としては最低だが、
俺の評価が落ちる事くらいはどうでもいい。
それよりも……
「ラーガル学園は教育の場です。そして、教育には身分による貴賎はございません。本日この場に集まった皆様はとても優秀な方々です……私が全てを語らずとも言葉の意味を理解していただけると信じております。ですが、もしこの言葉の意味が理解できていない者を私が目にしましたら、その時は覚悟なさってください」
貴族や平民、ステータスによる区別はしてもいいが、
それらによるくだらない差別は絶対に許さない
主人公の恋路を邪魔する奴は俺が全員ぶちのめしてやる。
心配しなくてもこの学園にいる程度の生徒なら誰にも負けないだろう。俺が戦うとして苦労する相手は俺の専属側仕えのリリィと、マリア&アイリのコンビ………それに、挨拶中には見つけられなかった今はまだ未知数のリリアナ=フレスヴェルグと来年入学してくるアイリーン=ラタトシアくらいか。
こいつらとの敵対は注意だが……特にアイリーンはオーランドの出自にたどり着く女だからな、マリア=カラドリアがバグっている現在、最も警戒しているヒロインだ。
故に、こいつは見つけ次第殺す事も視野に入れている。大丈夫のはずだ。アイリーンを攻略するには並大抵のステータスでは不可能だしどの道ギルバートとは結ばれないだろう。
だから、入学してきたばかりのアイリーンを人知れず暗殺するくらいは問題ないはずだ。あいつの口封じさえしてしまえば俺は18歳までは安泰だ……何も問題ない……
もう何人も賊を殺してきた……今更罪のない人間を1人2人殺した所で俺の地獄行きは変わらないだろう……
ギルバートをじっと見て、彼に笑いかける。
安心しろ、お前は何も気にせずここで勉強をして、
誰にも邪魔される事無くヒロインと恋を育め。
お前の邪魔をする奴は俺が陰ながら排除してやる。
だから、お前は俺に関わらないでくれよ?
気のせいか、ギルバートも俺に笑いかけてくれたような気がした。
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