scene.58 明日へ歩く Ⅶ
ラーガル学園での俺の目的は何だったか……
なんだっけ……
主人公と仲良くなる?
主人公を強くたくましく鍛え上げる?
来るべきリリアナとアイリーンの攻略に備える?
ヒロインと仲良くなる?
いやいや違ったはずだ。
全然違ったはずだ。
「と言う事でギル、どうだ?」
グリフィア邸の一室でギルバートを壁に追い詰めて両手で囲い込むように逃がさないようにした俺は、彼の美しい顔を真っ直ぐに見て問いかけた。
「どう……と言われましても……」
頬を赤らめるギルバートはそんな俺から視線を外してしまった。
俺は当初の目的を思い出した。
もう逃げる選択肢を二度と取るつもりはないし、俺の周りの人達の為に世界を相手に戦うつもりで、ハルトの為にも俺の為にも生存戦略を完遂する事に一点の迷いもない。
「俺はお前の気持ちを聞きたい。嘘偽りのないギルの気持ちが……」
互いの吐息がかかるほどの距離
「そうは言われましても……僕は……」
ギルの嫌がることはしない主義の俺だが、逃がしはしない。
リリアナルートの全容を知らないからあれで完全に攻略できたとは思っていないし、そもそも隠しヒロインとやらがわからないので気付かないうちに喉元に刃が突き立てられている……なんて状況もありえる。
それでも、全容の見えない『グランドフィナーレの向こう側』を全て乗り越えて……必ず……ゲームを越えた最高の結末に辿り着いていせる。
「ギルだって15の男だ。正直になれ」
「そんな事……言われても……」
だが思い出せ!!
ハルトの立てた作戦に唯々諾々と従うだけの悪役ではない!
「気になる人くらい居るんだろ?さあ、早く喋って楽になっちゃいな」
主人公とヒロインをくっつける。
俺が考えていた作戦だって悪いものじゃないはずなんだ。
主人公がルートを確定させ、俺が問題を共に解決する。
問題を解決した俺は主人公とヒロインから感謝され、殺されない。
結果、俺は18歳まで生きられる。
18歳の成人の儀『神への宣誓』までに国を出る。
完璧な作戦だったはずなんだ。
ハルトは俺の事を馬鹿だ馬鹿だと言っていたが、そんなに悪くは思えない。
学園に行けばいい感じに勝手にくっつくだろうと考えていて作戦らしい作戦は何も考えていなかったし、何もかもが行き当たりばったりだったことは認めるが、いい感じの作戦だったはずだ。
しかし、冷静に考えてみればそんなにいい作戦か?これ……
そもそも作戦と呼んでいいようなものなのだろうか………学園に行き、ヒロインと主人公が出会い、その中の誰かといい感じになって、そんな2人を俺が陰ながら見守りつつ攻略のお手伝いをする。
うん、全部受け身だな。これで何かが動くはずがなかった。
薄々気付いていたが、俺は馬鹿だったのかもしれない。
「そんなこと急に言われましても……正直そんな余裕がないと言いますか……」
と言う事で、作戦は別にして実際の所どうなのかギルを問い詰めてみる事した。
もし主人公に好きな人がいるのであれば、それはそれで重要であることに変わりない。もし俺とギルで好きな人が被るなんて事態にでもなってしまうとそれこそ俺は一瞬で殺されてしまう気がするし、主人公の想い人を知っておく事は重要だ。
「そうかあ……うーん……ちょっと気になるくらいでもいいんだぞ?気になるな、仲良くなりたいな……って人、ホントに居ないのか?」
「仲良く……」
「ああ、誰かいないか?」
誰でもいい……今ならまだ俺は受け入れられる。
フェリシアと言われると少し複雑だが、まだ……なんとか……
「オーランドさん……でしょうか?」
悩む事しばらく……
「なッ!!!?」
ギルバートの放った言葉に驚愕した俺は、壁ドンで近付いていた身体を即座に引きはがしてギルバートから距離をとった。
「え?……あ!ち、ちがいますよ!?」
「ま、まあ落ち着け。俺とてお前の事は憎からず思っているがそれはあくまで男性として友として─」
「違いますって!ちょ、ちょっと落ち着いてください!」
「ああ、いや……みなまで言うな。俺はお前を否定しているわけではなくてだな、しかしながらこの問題を受け入れるには時間がかかると言うか─」
「ちょ!ちょっと聞いてくださいッ!!!」
突然の告白に心臓が張り裂けそうになった俺に、ギルが絶叫した。
◇ ◇ ◇
「なるほどな。まったく……紛らわしいんだよ」
近くにあった椅子に座り、2人での会話は続いた。
「勘違いしたのはオーランドさんですが……………とにかく、気になると言えばやっぱりオーランドさんです。どうして僕にここまで良くしてくれるのか……いえ、そうじゃないですね」
主人公が今現在気になっている人はなんと悪役だった
まあ、当然ながら恋愛感情やそういうことではなく……
「僕聞きました。オーランドさんは昔から王都の掃除をして……誰もやりたがらないようなクエストを率先してこなしては全身を泥だらけにしていた変わったお貴族様だったって……」
そりゃ、冒険者ランクさっさとあげたかったしな。
「その他にも貧民街での炊き出しと言うのをしていて、ダンジョンで取得した武器や防具は新米冒険者に分け与えて……」
炊き出しはリリィみたいにお腹空かせてる浮浪児が居ると可哀相かと思って始めただけだし、売っても二束三文にしかならない武器なら駆け出し冒険者に渡して使ってもらったほうがいいだけだ。
「冒険者ギルドで稼いだお金は孤児院に寄付されていて、実入りの少ないクエストや困った人のお願いを率先してこなす……オーランド=グリフィアはそういう人だって、王都の何処に行ってもそういう話しか聞きませんでした」
「おお、そうか。」
「どうして…………そこまでされるんですか?」
ギルは目を背けたままだ。
どうしたのだろうか……
「どうしてって言うか……そこまでも何も、俺は出来る事をやってるだけだ。ギルだってそうだろ?」
「……僕は……どうでしょう……あはは……」
ふーむ………
「だからなんて言うんでしょう……誰か気になる人がいるかという話なら、僕はやっぱりオーランドさんが気になると思います」
「そうかい……」
照れくさそうに笑いながら喋るギルはやはり超イケメンだった。
悪役は主人公に絡むものだし、主人公は悪役を気にするものだ。
何もおかしなところはないな……何も。
悪役はヒロインに絡むもので、ヒロインは悪役を気にするものだ。
何もおかしなとことはないな……何も。
おかしくはないけどさ……
はあ……
悪役じゃなくてさ……君たちさ……
ヒロインも主人公も……
もう少しお互いに興味を持ってくれよ……
最後までお読みいただきありがとうございました!
2部完




