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scene.56 明日へ歩く Ⅴ



 思い出すのはいつだってあの日の夕暮れだった


 お姫様から庇ってくれたオーリーの小さな背中

 守られているばかりの自分をやめようと決意した日

 いつだってあの日を思い出して頑張っていた

 泣きそうな顔をしながらそれでも私を選んだ彼を



 今度は私が守らないといけないと……そう思っていた。




『じゃあさ、あの約束って覚えてる?』


 私は脇目もふらず強さを求めた

 オーリーをあらゆる外敵から守り抜くために

 拾って貰った恩を返す為に


『ふざけるなよリリアナ……約束1つ守らずに!最強になるって約束は嘘だったのか!この嘘つきやろうが!お前に僅かでも約束を守る気概があるなら今ここで最強を証明しろ!舐めてんじゃねぇぞリリアナ!!』


 もう二度とオーリーに悲しい顔をさせない為に

 完璧な強さを身に着けたつもりだった…



『俺は誰よりも強くなって1人で生きていくつもりだし、リリィだって誰よりも強くなって1人で生きていくんだろ?』

『最終的にはお互い1人で生きていくにしても、ダンジョン攻略を開始するならしばらくはパーティーで行動したほうが効率はいいだろ?』


 どうして……忘れていたんだろう……

 

『じゃあ決まりだ。俺とリリィは今日からパーティーだ』


 私達は2人で誰よりも強くなる、そういう約束だった。


 オーリーはずっと………ずっと………


『そんな顔すんなよ、俺達は2人で最強になるんだろ?』


 出会った時からずっと…


『お前は俺のパーティーメンバーだろ?だったら…冒険者なら仲間を守るのは当然だろ!逆にお前だって俺が困ってたらちゃんと守れよな。そんだけのことだろ』


 私の事を仲間として見ていてくれていた。

 彼は一度だって私に強くなれなんて事は言わなかった。

 いつだって必ず……2人で……


 いつの間にかオーリーが見え無くなっていた。

 美しく成長する彼に……

 逞しく成長する彼に……

 多くの人が尊敬の眼差しを向ける彼に……

 どんどん遠い人になってしまう彼に……

 有りもしないオーランド=グリフィアの虚像を創り出していた。


 彼は初めからずっと、私の横に居てくれていたのに

 ずっとずっと、仲間であると言ってくれていたのに

 私達は2人で最強になると約束したのに……

 

 一人で取り乱して、一人で逃げ出して、一人で強さを求めて、頼まれてもいないのに勝手にオーリーを守るだなんて息巻いて……

 勝手に創り上げたオーリーの虚像を追いかけて、勝手に彼の強さを推し量って……


 前なんて見なくて良かった。

 後ろなんて振り向かなくて良かった。

 上なんて見上げなくてもよかった。


『……わかったら1人で突っ走んなよ』


 オーリーはいつだって私の横を歩いてくれていた。

 ずっと……私と同じ目線に立ってくれていた。



 やっぱり馬鹿だなあ………私………



 ◇ ◇ ◇



 少し力を込めて振りぬいた拳がオーリーの額にヒットした。


「イってぇぇえええ!!!」


 私に打ち抜かれたことで、オーリーは声だけその場に残してグリフィアの広い庭を端から端まで転げまわる様にして吹き飛んでいってしまった。

 <(まとい)>も展開されていたので万が一にも怪我はないと思いますが……それはもう豪快に地面を転げまわってしまったオーリーは、勢いよく立ち上がって私の下まで素早く戻って来た。



「オーランド様、組手は真面目にしてください」


 とても元気そうなお姿に安心したので、私は一言だけ述べて早々に組手に戻ろうとしたのですが……


「やってるわ!!リリィが強すぎんだよ!」


 オーリーはどうにも怒っていました。


「そんなはずは御座いません。オーランド様であればあの程度容易く避けられるはずです、最強を目指すお覚悟が足りていないのではないでしょうか」


「いやまあ……そうなんだけど……にしたってもう少しこう?いい感じに鍛えてくれると助かるんだが……」


「何を仰っているのですか……先ほどから私は6割も力を出しておりません。これ以上手を緩めてはオーランド様の成長の為になりません」


「ろ、ろく!?まじかよ!!全然見えないんだけどリリィの動き!」


「お喋りはここまでです……参ります」


「ちょまッ!!!」


 再び5,6割の力をもって、今度はオーリーのボディ目掛けて足を振りぬいた。かなり大ぶりな一撃なので当然回避してくるとばかり思ったものの……


「ぐぇええッ!!!」


 身体を折り曲げたオーリーは再び声を残して庭を転げまわっていってしまった………一体どういう事なのだろうか。

 面白いくらいにゴロゴロと転がっていったオーリーが、今度はお腹を押さえながらやはり素早く戻って来た。リカバリーが速いのは素晴らしく思うものの……



「オーランド様、久々の戦闘訓練と言う事もあって身が入らないのでしょうか?」


「そんなことは無い……俺は至って真面目だ。いつだって全力で戦っている」


 不格好な構えをしながらオーリーは答えた。


「そんなはずは御座いません。オーランド様は私の上を行かれた方……あの日、私の喉元に短剣(マルミアドワーズ)を押し当てた動きは大変美しかったです。さあ、オーランド様……本気で死合ましょう」





 あの日、腹部に短剣(マルミアドワーズ)を突き立て満身創痍だったオーランド様を私は侮った。もはや死に体となった彼に私の一撃を回避できるはずがない、と。

 治療の為にも急ぎグリフィア邸に運ぼうと思いせめて一撃をもって確実に沈めようと全力で放った私の一撃はけれど……一切の無駄なく躱された。


 最低限の力をもって最小限の動きで、最高効率によって稼働する完璧な体捌き。私が追い求める最強の姿………ただ速く、ただ強いだけでは決して到達できない完美なる武の頂……あの日、あの瞬間、私は彼に頂を見た。急ぎ迎撃しようと動いた時にはもう遅く……私の喉には愛しい傷がついていた。



 思い上がっていた。

 私は強くなったのだとばかり思っていた。


 グレゴリー様の底すら見えてきた私にもはや外敵など居ようはずもないと思っていた。長く伸び悩みを見せておられるオーランド様の遥か上に立っているとばかり思っていた。いついかなる時も、いついかなる敵からもオーランド様を守れるだけの強さを手に入れたと……自惚れていた。



『お前の負けだ……リリアナ=フレスヴェルグ』



 喉に当たる愛しい人の切っ先が教えてくれた。

 

 お前は弱いと。最強など夢のまた夢だと。





「待て待て待てまッッ!!」


 再び、次は全力で打ち抜いた拳はやはり………


「ってええええ!!!」


 オーリーの頭を容易く打ち抜いてしまった。



「……やはり……まだ体調が戻りきっていないのでしょうか……」


 

 再度庭を転げまわって飛んでいくオーリーを見て、私は呟いた。

 そしてまた、オーリーはすぐに立ち上がって私に向かってくる。


 

 それが少し面白くて


「ふふ」


 私は数年ぶりに、少し笑った。




 もう上を向くのはやめる事にした

 もう前だけを見るような事もしない

 ありもしない虚像は粉々に壊した


 だって、私の大好きなオーリーは

 いつも私の横で笑ってくれているのだから。

 ありのままの彼を見る事にした。



 私はリリィ

 オーリーの側仕えのリリィ

 オーリーのパーティーメンバーのリリィ

 オーリーの仲間である、リリィ


 これからもずっと。


お読みいただきありがとう御座います!

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