scene.51 再びの約束
重たい瞼を持ち上げる。
身体は鉛のように重たい。
それでも……
「オーランド様!!」
「オーランド様!」
リリアナとフェリシアの顔が飛び込んで来た。
つまりここは天国でも地獄でもなく……
「よ…イテテッ…よお」
色々あったが、それでもまあ……生きているなら俺の勝ちだ。
「オーランド様!オーランド様!」
俺の手を握るフェリシアは涙と鼻水で酷い顔だ。冷静沈着、いつもの笑顔のフェリシアはどこに行ったのか……美しい髪の手入れも怠っていたのだろう、少し髪が痛んでいるように見える。
「おはよう、エリー」
好意、か。
フェリシアがオーランドに対してそう言うものを持っているのかどうかはわからないけど、それでも……
「オーランド様!おはようございます!おはようございます!」
フェリシアは泣きながら挨拶をしている。
好意の有無はわからないけど、それでも今目の前に居る彼女が俺を心配しているのは間違いない。そのくらいの事はどれだけ馬鹿な俺でもわかる。
フェリシアは今、俺の為に泣いている。
笑顔しかみせないゲームのキャラクターではない。
この優しさはきっと本物だ。
この想いは大切に受け取るべきだ。
「……よお」
そして、泣きながら俺の手を大事に抱きしめるフェリシアから視線を外し、フェリシアの反対側に視線を向けて軽く言葉を投げた。
「リリアナ、元気か?」
リリアナはベッドから少し離れた位置に立ち、泣きそうな顔で俺を見ていた。手も足も震えているが、泣かないなんて強くなったもんだ。
「私の事はどうしていただても構いません、どうか二度とあのような事はなさらないでください」
「言われなくても二度としねぇよ。で?元気か?」
「元気は……ありません」
「そりゃそうだよな!なんてったってリリアナ=フレスヴェルグともあろうものが瀕死のオーランド=グリフィアに全力を出して負けたんだからな!はっは!イ~ッテテテ……」
「い、いえ、そう言う意味では……」
「言うな言うな、全てわかる。フレスヴェルグは強いと聞いてな、いつか俺の地位を脅かすとばかりおもっていたが、大した事はなかった。リリィがリリアナだったとは思いもしなかったが、いやいや、俺も本気を出せばリリアナくらい簡単に倒せるってわかって安心したわ!はッイッテテ」
リリアナの愛剣マルミアドワーズで傷ついた悪役は死なず
全力で向かって尚、悪役はその上を行った。
作中最強と呼ばれるヒロインは、あの一瞬確かに悪役に敗北した。
確かに、リリアナがあの状況で俺を本気で殺せるとは思えないし
そもそも俺を無力化しようとしただけで殺意はなかった。
本気になったといってもたったの一撃だけだし
結局俺は死に掛けていてリリアナは元気だけど……
本気で戦って勝った、という結果だけあればいい
その結果だけあればいい。
俺はリリアナルートなんて知らないし
これであっているかわからないけど……だから、これでいい。
リリアナ=フレスヴェルグはオーランド=グリフィリアに負けた。
主人公はヒロインを助けに現れず
正義は悪に敗北を宣言した。
だから、リリアナ=フレスヴェルグの話はこれで終わりだ。
この世界のリリアナは悪役に敗北し、バッドエンドを迎えて決着。
馬鹿な俺にはこれが限界だ。
そして今……
隣ではフェリシアが泣いていて
「本当に………申し訳、ありませんでした」
視界の端には部屋から出て行こうとするリリアナが居る。
これを見送れば彼女は二度と俺の前に姿を現さないだろう。
オーランド=グリフィアに敗北したリリアナ=フレスヴェルグは逃亡し、悪役の前から姿を消す。何処か遠いところで死ぬ気だろう。リリアナがオーランドや主人公の前から消える以上、リリアナルートはこれで破綻するはずだ。
これで悪役の勝ちだ。
今ここに悪役の完全なる勝利は達成された。
だから…………
「……勝手に居なくなるなよ?敗者は敗者らしく勝者に従え」
部屋から出ていく前に声をかけた。
「で、ですが……私はフレスヴェルグで…」
ドアノブに手をかけたまま、こちらに振り向こうともせず
リリアナは俯きながら話していた。
「もういいんだよ…………それは。そもそも、お前はリリアナ=フレスヴェルグとか関係なく俺の専属側仕えだろ、何勝手に職務放棄してんだよ。それともグリフィアで働くのが嫌になったのか?」
悪役の勝利は確定した。
だが、俺は単純な勝利など要らない。
──悪役が目指すのは
主役を倒してはい終わり……
敵を殺してはい終わり……
国外に逃げて長生きする……
国や婚約者を捨てて生き延びる……
そんなくだらない勝利は要らない。
そんな無意味な勝利はクソ食らえだ。
「嫌では…………ありません」
「じゃあ……それでいい」
──誰一人欠ける事なく誰もがみんな幸せになれる
「て言うか……そもそも、お前約束破るつもりか?」
──大団円の更に向こう側にある
「約束?」
「……俺達が一番初めにした約束はなんだ?」
「こ、言葉遣いに気をつけ……る?」
「違う」
「……勉強を頑張る?」
「それも違う………はぁ………やっぱり忘れてるんだな」
俺は軽く溜息をついた。
「申し訳……ございません………」
俺はもう迷わない。
俺はもう逃げない。
俺はもう諦めない。
リリアナ=フレスヴェルグでも構わない。
何度だって倒すし、何度だって捕まえる。
悪役が欲張って何が悪い。
悪役が見苦しくて何が悪い。
何処かにあるかもしれない最高の結末を目指して何が悪い。
そもそも、俺がこの世界で仲間にしたのは……
俺が知っている女の子は……
「……思い出すのはいつだって……あの日の約束だ」
自分が何者であるかを思い出させてやるよ。
「………あの日の、約束?」
俺とお前の約束を思い出させてやるよ。
「俺は誰よりも強くなって1人で生きていくつもりだし、お前だって誰よりも強くなって1人で生きていくんだろ?」
俺は、懐かしい言葉を呟いた。
彼女にとってそれほど重要な会話ではなかったのだろう
子供の頃の会話なんて覚えている方がおかしいもんな……
「最終的にはお互い1人で生きていくにしても、ダンジョン攻略を開始するならしばらくはパーティーで行動したほうが効率はいいだろ?」
でも俺は、一度も忘れたことは無かったよ。
お前は……この世界で出来た最初の仲間だったから。
俺はお前ときっと上手くやっていけると思ったから。
そして、お前も………
俺がそこまで言うと、まるで何かを思い出したかのように
「……うん……うん……」
『うん……うん!』
勢い良く振り返って、こちらを見た。
「じゃあ決まりだ。俺とリリィは今日からパーティーだ」
驚きながら俺を見つめる彼女にあの日の言葉をもう一度
オーリーと女の子が仲間になったあの日の言葉をもう一度
「うん……うん……そうね………そうでした…………そうだった」
『うん……うん!そうね!わかったわ!』
震えた声を漏らしながらリリィはドアから離れ、そっとベッドに近寄ってきた。そしてそのまま、フェリシアが掴んでいる反対の手を握りしめて、言葉を続けた。
「オーリー……私達は2人で………2人で誰よりも強くなる……そういう、約束でしたね」
『オーリー、私達2人で誰よりも強くなるのよ!いいわね!』
久しぶりにリリィからその言葉を聞いた気がする。
美しく成長した最強のヒロインに、懐かしい面影を見た。
「なんだ、覚えてるじゃん……わかってるなら、仲間を置いて1人で突っ走んなよな。約束は絶対なんだろ?」
オーリーもリリィもまだまだ弱い、最強には程遠い。
約束はまだまだ有効だ。
「頑張って2人で最強になろうな、リリィ」
そう言って、泣きながら笑っているリリィに笑い返した。
リリアナ=フレスヴェルグは悪役の前から逃亡
オーランド=グリフィアはリリアナの上を行き生存
そして、悪役の手元にはリリィという仲間が残った。
ラーガル学園一年の夏休み
茹だる様な暑さが続くそんなある日
最強のヒロインはこの日、悪役の手に堕ちた。
物語は1つ目の悪役の勝利を迎えた。
悪役転生者の生存戦略 第ニ部 二章
1つのバッドエンド・完
お読みいただきありがとうございます!
誤字脱字修正感謝です!
もう少しだけ続くんです




