scene.05 これまでとこれからと Ⅴ
可愛いアイリとはしばらく会えなくなってしまう。
そう思っていたのだが……
「2人共何を仰っているのかまるでわかりませんが、アイリも学園には行きますわよ?」
「え?」
「え?」
俺とアイリは同時にマリアを見た。
「私は学園の敷地に別荘を建てましたので、そちらの使用人としてつれていきますのよ。どうしてアイリが知らないのかしら?ちゃんとお伝え………は、しておりませんでしたけども!おーーーほほほほほ!」
相変わらず自分の頭の中だけで問題解決する女だな……だが!
「だってさ。よかったなアイリ、学園の敷地内にいるならすぐに会えるぞ。マリアにしてはよくやったな」
ラーガル学園に行くのはどうでもよかったのだが、アイリだけは心配だったからな
「私はいつでもよくやっておりますわ!オーリーはどうしてアイリにだけそんなに優しいんですの!私がよくやったと思うのでしたらそれ相応の態度というものがございますでしょうに!」
全く……感情の起伏が激しいやつめ……でもそれもそうか……
「わかったわかった、何かしてやるよ。どうすればいい?」
「子供がほしいですわ!」
「アホか!!真面目に答えないと何もやらんぞ!!」
マリアってこんなキャラだったっけか……口を開けば下ネタを言って、気を抜けば寝込みを襲ってくるようなキャラじゃなかったはずなんだけどな……なにかしらの致命的なバグか?そもそもゲームは全年齢対応だからそんなに下ネタなんて無かったと思うが……
「じゃあキスしてくださいまし!」
「却下だ」
「ハグ!」
「ダメだ」
「チュー!」
「戻ってんだろうが!離れろ!このっ!!」
なんなんだよマジで!マリアのこのノリは!
さっさと好みの男を見つけて主人公とくっつくまではそいつらと遊んでればいいだろうが
「……まあ………手の甲までであれば……問題はございません」
そんな俺とマリアのやり取りに口を挟んだのは、
それまで様子をじっと見ていたリリィだった。
「じゃあそれにしますわ!」
その言葉をマリアが聞き逃すはずもなく即座に食いついてきた
「なんでリリィが……てか、なんで俺が……」
「あらあら?私がアイリを連れて行かなくともよろしいのですか?オーリーが大好きなアイリを折角学園にも連れて行ってあげようとした正妻としての余裕ですのに、お礼の1つも貰えないのならーあーどうしましょー」
「誰が正妻だ誰が………わかったよ。リリィがセーフっていうなら多分セーフなんだろうし…それにアイリを1人にしないであげるって言うマリアの優しさは素直に嬉しく思うよ。マリア……アイリを気にかけてくれてありがとう」
手の甲へのキス程度ならこの世界に来てからもう何回もやったし今更だ。
確かにマリアにやるような場面は一度もなかったが、
こいつだってパーティーで何回もされているだろう。
「はぁ……」
何かしらの反応がすぐに返ってくると思ったが、意外にもマリアの顔は真っ赤だった
ただの挨拶で真っ赤になるのは本当にやめてほしい……
俺までマリア相手に照れそうになるだろうが…
「……この手はもう洗いませんわ!!!」
何も言わないかと思ったら、突然右手を天に突き出し大声で空に向かって叫んだ。
「汚いから洗え」
やっぱり、マリアはマリアだった。
やはり酷い違和感だ。
どうにもみんなゲームの時とは様子が違う……
フェリシア=リンドヴルム
彼女はいつもニコニコと笑ってはいるが、時折鋭い眼光で全てを威嚇する時がある。
あれはフェリシアルート後半にならないと見れない、フェリシアルートのラスボス戦手前で発生する全ての能力値がとんでもなく上昇するいわゆる覚醒状態と呼ばれるやつだ。
しかし、まだ主人公と出会ってすらいないのに開眼するのはおかしい。あれは主人公と出会う事で自分を見つけたフェリシアがリンドヴルムの血……龍の血脈を覚醒させる話だ。龍はこの世界では神と同一視されている存在であり、流れ出者がいつしか龍と呼ばれるようになった。トカゲみたいなドラゴンは全く別種の生き物だ。覚醒の発動条件は強い心とかいう曖昧なよくわからんやつだ。
それに、ケルシー=アトワラスもそうだ。
ゲームでは序盤から中盤、主人公と打ち解けるまでの間の彼女は寡黙と孤高の2文字しかないキャラだ。
しかし、今のケルシーは非常に子供っぽいというか……16歳にもなるのに未だに俺の事を男として認識していないようで、マリア同様にすぐに抱きついてくるくらいだ。言動もハキハキと明瞭で、とてもよく笑う彼女の周りには多くの人が集まっている。
ゲームでは常に1人でいるはずなんだが……今の彼女の周りには男女問わずに沢山の人が居る。縁談も多く舞い込んでいるし求婚する者も多いとは聞いているが…それを全部切り捨てているとも聞いている。
キャラクターが崩壊している気がするが、だからと言って今のケルシーが嫌いと言うわけではない。むしろ良い。むしろ良いのだが……この変化が主人公との間にどのように作用するかがわからん……。
マリア=カラドリアに関しては……バグったとしか思えない。
ゲームの彼女はヒロインの中で最弱だったし、二言目には金で解決しようとするような女だった。
主人公だって金で買おうとしてたようなやつなのに……今のマリアはどう考えてもヒロインの中で一番強い。
そりゃ、まだ会っていないリリアナとアイリーンがどんな感じなのかはわからんが、それでもその2人に遜色ないくらいには強いはずだ。それに言動もまあ……かなりアレだ……。
金を払わないでも言う事を聞くときは聞くし、ゲームではことあるごとに金で解決しようとするキャラなのに全然金の話しないし……あんまりにも金の話をしないせいで最近はあいつがカラドリアの人間であることを忘れてしまって、ただの変態だと勘違いしてしまう事すらある。
それはそれで合っているのかもしれないが、やはりおかしい。
ま、いいか!
別に俺がなんかやったわけでもないのに、どうして俺があれこれ悩まないといけないのか。
勝手にそうなったなら仕方ない。
そういうのを考えるのは俺ではなく主人公の役目だ。
学園にいけば全てがどうでもよくなる。
俺はリリィと共に冒険に専念するだけだ。
明日はいよいよ学園へ出立だ。
お読みいただきありがとうございます!
振り返りはここでおしまいです、次から学園に突入ですm(_ _ )m
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