scene.48 VS.リリアナ=フレスヴェルグ Ⅰ
悪役の直感はいつも外れる。
いつだって役に立たないしいつだって当てにならない
だけど、どうしてかな……
「よお……………会える気がしてたぜ、リリィ」
約束の路地裏にそいつは居た。
夏にも関わらず分厚いローブを頭から羽織った誰かが、居た。
一体最後に掃除をしたのはいつだと言いたくなるような悪臭を放つその場所に、積み上げられた瓦礫や角材に隠れるようにして、そいつは身を潜めていた。
「ごッごめんなさい」
俺が声をかけると同時に謝罪を返してきたそいつは、
またもや残像をその場に置いて俺の横を通り過ぎていこうとしたが……
「何処に行く」
並の人間では反応すら出来ないような速度で加速したそいつの腕を、俺は<纏>を展開する事なく掴んだ。
何も進展しなかったし、何も上手くいかなかった。
いつかくる破滅の日までに逃げる事だけを考える無様な毎日だった。
それでも、俺はこの6年間をただ遊んで過ごしたわけじゃない。
いくら相手がゲーム中最強のキャラクターと言われるリリアナ=フレスヴェルグであっても、6年も共に戦い6年も共に背中を預け、6年も共に生活をしてきた相手を二度も見失うような下手を打つような事はしない。
6年間共に歩んだ仲間の腕を掴むくらいは……俺にだって出来る。
「はッ、放してく、ください」
「放してほしかったら力尽くでやってみたらどうだ?得意だろ?」
「……い、嫌です。」
リリィが本気になればどうあがいたって俺では太刀打ちできないし、彼女が少し本気になれば俺の手くらいは簡単に振り払える。嫌なら逃げればいいと思ったが……
「はっ!おいおいおいずいぶん大人しくなったなリリィ?」
リリィは強引に腕を振り払おうとはしなかった。
「な、な……何がです」
「昔のお前だったら俺の顔面目掛けて拳を叩きこんでただろ。ずいぶん大人しくなったな、リリィ。どうした?俺を殴って逃げてもいいんだぞ?」
「嫌……です」
「……そうかい」
リリィは目を合わせず、ずっと地面を向いたまま震えていた。
どうして……こんなことになっちゃったんだろうな……
ローブ越しでもよくわかる女性の身体
悪役もヒロインもいつまでも子供ではない。
大人しくだってなる。しおらしくだってなる。
6年も経てば誰だって成長する。
この世界で唯一止まったままだった人間がいるとすれば………
腕を掴んだまま特に話すことのない時間がしばらく流れた。
「なあ………リリィ」
口を開いたのは俺だった。
「……はい」
「どうしてここに隠れてたんだ?」
「えっと……」
「ここが何処だかわかって隠れてたのか?」
「こ……ここ?」
そうか、覚えてないか……
でも……
ちゃんと覚えてたんだな。
偶然ここに隠れた。
そんな偶然はないんだよ、リリィ
「じゃあさ、あの約束って覚えてる?」
「や……約束は……沢山……」
「そうだな、沢山した。沢山したけど……俺とお前の約束はただ1つだろ?」
沈黙が流れ
「……わ……私は…誰よりも強く……」
待つこと数分、リリィはゆっくりと口を開いた。
「……なるほどな……確かにリリィは強くなったよな……」
忘れちまったんだな、リリィ
俺はお前に強くなれなんて言った事は一度たりともない。
「馬鹿な約束だったけど……俺とお前……オーリーとリリィの2人なら何となく出来るんじゃないかって思ったりもしててさ……」
最強になるってなんなんだろうな……
人がどれだけ強くなったところで軍隊には勝てない。
どれだけ強くなったところで国には勝てない。
最も強いって言うのはどういう事なんだろうか。
2人で最強になるってのはどう言う事なんだろうな……
よくわからない約束
どうすれば叶ったと言えるのかわからない曖昧な約束
それでも約束は約束だ
忘れたなら、思い出させよう。
「何故……俺の前から姿を消した。約束はどうする」
わかっている。
リリィが消えた理由は俺だ………俺のせいだ。
わかっている。
誰もが成長する中で唯一人………俺だけだ。
俺だけがこの世界で止まったままだった。
「わ………私が……………」
リリィは蚊の鳴くような声でぼそぼそと答えた。
「なんだって?聞こえねぇぞ?私は部下の体調管理も出来ないようなオーランド=グリフィアに愛想を尽かしたので退職しただけですって言ったのか?」
「ちッ!ちがっ!違い…ます……」
「じゃあなんだ?グリフィアよりもカラドリアの方が雇用条件が良かったから転職しますって言ったのか?」
リリィは俯きながらぶるぶると全力で首を振った。
「じゃあ……………なんでだ?」
俺が問いかけてから、時間が止まったかのような静けさがしばらくの間その場を包み込んだ。
1分だったか、10分だったか、1時間だったか……
眩い夕焼けの時間はいつの間にか終わり
王都には夜の帳が下りていた。
「……が、ナ……レ……ルグ……」
どれほど待ったか。
リリィはようやく口を開いてくれた。
「もう少し大きな声で言ってくれないか?」
「私が……わ、私の……私名前は、リリアナ=フレスヴェルグ……だから……オーリーが嫌いだって……オ、オーリーを殺さないけど、こ、殺すって……よ、よくわからなくて」
やっぱり、俺のせいだよな……わかってた。
本当にくだらない事を言った。
本当に馬鹿な事を言った。
だから、俺の言うべきことは
「そうか。まさかリリィがリリアナ=フレスヴェルグだったとは…………だったら仕方ない……」
ただ1つ
「この俺と戦え、リリアナ=フレスヴェルグ」
地面を向いたままだったリリィが目を見開いて顔を上げた。
ようやく……顔をあげた。
「いッ!嫌です!私はオーリーと戦いたくな──」
俺は悪役として止まってた時間を動かさなきゃいけない。
これまでサボりにサボって……
自分を騙して………騙し続けて……
目を背け続けて……都合のいい事ばかり考えて来た。
生存戦略の本当の意味に………向き合う時が来た。
「ダメだ。俺とお前………いや、リリアナ=フレスヴェルグとオーランド=グリフィアの戦いは今日ここで決着を迎える。リリアナが戦わないと言うのなら俺は今ここで自決する。良かったな、お前の勝利だ。それでいいなら戦いを拒絶してそこで頭を抱えて俺が死ぬのを黙って眺めていろ」
「な、何を言って──」
状況を飲み込めずにいるリリアナは俺の腕をようやく振り払い、恐怖と絶望に顔を歪ませながら一歩また一歩と後退っていった。次の瞬間には逃げ出してしまいそうなリリアナを逃がすまいと、
「私はオーリーと戦いたくなんてない!!そんな事をするくらいなら今ここで死にます!!」
戦う事を必死に拒絶して、今にも逃げようとしていたリリアナを逃がすまいと、
「それは許さん!!逃げるなリリアナ=フレスヴェルグ!!!この俺と本気で戦え!!リリアナ=フレスヴェルグウウウッ!!!!」
路地裏に響き渡る声で絶叫した俺は……
手に持った短剣を自身の腹部に突き立てた。
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