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scene.47 リリアナ=フレスヴェルグはもう一度



 さりげなく話をしてくれると言ったマリアは……


『おかえりなさいオーリー!お話がありますの!』


 全然ちっとも……


『リリアナ=フレスヴェルグがオーリーを殺すと言うのはどういう意味ですの?』


 これっぽっちもさりげなくなかった……



 それでも、マリアの話は回りくどくなくて良かった。

私が隠れていることを悟られないようにオーリーの意識を自分に集中させようといつも以上に迫り、質問は短くてわかりやすくて、2人の会話はよくわかった。


 だから、よくわかった。


『仲良くできる可能性はありませんの?』


 マリアの問いに答えるオーリーの言葉が……



『リリアナと仲良くできる可能性だが…………それは無いな。俺としてもそうできればと思うが、リリアナ=フレスヴェルグと友好関係を築く事だけは不可能だ。』

『俺はリリアナとは仲良くなれない。これは絶対だ。リリアナ=フレスヴェルグはいつか必ずオーランド=グリフィアを殺す』



 彼の心からの言葉だと言う事がよく分かった。



 ああ……これまでとても楽しかった。

 でも、これで御終い。

 楽しい夢はいつか覚めると聞いたことがある、本当だった。


 頑張って勉強をして、頑張って強くなって

 少しはオーリーの役に立てるようになったのかなと思ってた。

 彼の横に並べなくても、後ろに居る事くらいは許されるかな


 なんてね……



 ◇ ◇ ◇



『リリィ、いい?』


『フレスヴェルグを名乗る事はやめておきなさい。

 その名を嫌う者は大勢います。

 貴女はリリアナ、ただのリリアナです。

 うん、リリィと名乗りなさい。可愛いわリリィ!』


 わかった!


『でもね、リリィ……

 短剣(マルミアドワーズ)を握るときはフレスヴェルグでなきゃいけないの。』


 わからない!


『難しい話だけど忘れないで

 フレスヴェルグはどんなことがあってもラーガルを守るの

 傷だらけの名前だけれど……誰にも望まれないとしても。

 それでも、誰よりも強くならなくてはならないの。』

 

 うーん?


『ううん、今はわからなくてもいいの。でもね、

 きっといつか、フレスヴェルグを解き放つものが現れます。

 短剣(マルミアドワーズ)が輝きを取り戻す日が来ます。

 だからその日まで大切に――』

  



「ごめんね、ママ」


 私、ママの子供に生まれて幸せだったよ。

 でもね、私ダメみたい。

 フレスヴェルグなんかじゃなければ良かったって思ってる。

 大好きな人(オーリー)が、フレスヴェルグとは仲良くなれないって。



 思い出すのはいつだってあの日の夕暮れ


 綺麗なお姫様から庇ってくれた、オーリーの小さな背中

 私はオーリーを守るために強くなった

 オーリーに恩を返すためだけにただ強さを求めた



「ごめんね……ママ…ごめんなさい」


 

 なんかね……リリアナ=フレスヴェルグはオーリーを殺しちゃうんだって


 私ね、勉強頑張ったんだよ、ママ。

 いっぱい勉強してね、フレスヴェルグの話だって調べたんだよ。

 でも、でもやっぱり私はオーリーみたいに頭がよくないみたいなの。

 私ね、私やっぱり馬鹿だから、

 オーリーの言ってる事がよくわからなくて

 ママの事は大好きだけど、でもやっぱりオーリーも大好きでね……


 私はもうフレスヴェルグも短剣(マルミアドワーズ)もどっちも要らない。


 私が生きていることで大好きな人(オーリー)が死んじゃうなら……

 オーリーに嫌われるような未来を見るくらいなら……

 もういいかなって。ごめんね、ママ。

 今ならまだ間に合う。

 今ならまだ、私はリリィとして生涯オーリーの中で生きていられる。


 オーリーに嫌われてしまう。ただそれが嫌で、ただそれだけの事で……

 私の思考能力はまるで機能しなくなった。

 それ以外に何も思いつけなかった。それ以上の最善策が思いつかなかった。



 涙はとめどなく溢れて、空っぽになるくらい流れた。

 私は短剣(マルミアドワーズ)と謝罪のお手紙を残して、死ぬことにした。



 ◇ ◇ ◇



 それでも……


 最期にどうしてか……マリアにだけは挨拶をしようと思った。


 

「私はちょっと死んできますので、オーランド様の事よろしくお願い致します」


 それだけ言って去ろうとしたけれど


「自死は許しませんわ。私に任せないリリィ」

 

 マリアに腕を掴まれた私は、そのまま彼女の部屋に匿われた。



 翌日からは2人で沢山の古書を漁った。


 何故、オーリーがあれほどまでの確信をもってリリアナ=フレスヴェルグに殺されると言ったのか。その理由さえわかれば何とかなるはずだ、と。

 何故、会った事もないリリアナ=フレスヴェルグという名前を知っていたのか。その警戒心は一体どこから出てきたのか。それさえ解明できれば必ずオーリーを説得できる、とマリアは言った。

 どれだけ腹立たしい言葉を並べられても、どれ程の無礼を働かれても、貴族も平民も関係なく笑って流されるオーランド様がこれ程までに敵意を向けるのは異常です。原因があるはずだ、と。

 

 調べれば調べる程難しい話ばかりが出てきたけれど……

 結局、出てきたのはフレスヴェルグの悪評だけだった。



 フレスヴェルグはかつてグリフィア、アトワラスと並ぶラーガル王国でも最古参の貴族だった。ひとたび叫べば魔は消え去り、剣を振るえば大地は裂け、薙ぎ払えば山をも切り裂く赫灼の大剣の担い手であったと……そんな馬鹿な生き物が存在するわけがないのですが、フレスヴェルグはかつてはそれほどまでに強さの象徴だったようです。

 

 そして、いつしかその強さに溺れたのでしょう。


 没落の最後の引き金となったのはグリフィアの誇りであり盟友、今では伝説にのみ存在する幻獣グリフォン……『プリドウェン』と呼ばれるその誇りをフレスヴェルグの者が殺めたことでした。

 その瞬間にフレスヴェルグは終わりの刻を迎えたと言います。


 グリフィアの当主は七日七晩もの間泣き腫らし、王を説き伏せ、アトワラスを味方に引き入れ、周辺諸国に檄を飛ばし、次の七日間でフレスヴェルグに攻め込んだ。グリフィアはフレスヴェルグの人間を女子供も容赦なく皆殺しにし、その臣下や配下、一族郎党に至る全てを根絶やしにするまで止まらなかったと言います。

 フレスヴェルグも応戦はしたようですが、大局はラーガル王率いるグリフィアが優勢で、最強の盾と呼ばれるグリフィアを打ち破ることは出来なかったようです。


 グリフィアとフレスヴェルグの戦いは終わったが

 グリフィアは『プリドウェン』を失い

 フレスヴェルグは滅亡した。


 そして、ラーガル王国はその名を歴史から削り取った。

 


「やはり……これのことなのかしら……」


 いつも笑顔のマリアが必死の形相で調べている姿はとても珍しくて、そう言えば昔は何度も助けてもらったな…なんて思い出していました。


「おそらくは……私の罪は……フレスヴェルグの罪は生きている限り消えないのです。グリフィアはプリドウェンの恨みを忘れていないのではないでしょうか。やっぱり…やっぱりどうしようも……」


「い、いいえ!そんな事はありませんわ!オーリーは話せばわかってくださいますわ!」


「本当に……本当にそう思う?オーリー真剣だった……リリアナ=フレスヴェルグを敵としてしか認識してなかった……必ず敵対するって、必ず殺されるって。」


「それは……」


 マリアもわかっているはず。

オーリーとの付き合いは私と同じくらい長いのだから、わかっているはずです。彼が冗談で言っているのか、本気なのか。そもそも彼があのような冗談を言う人じゃないことくらい理解しているはずです。


 オーリーは本当に人を寄せ付けないけど、それは別に人が嫌いだからというわけじゃない。理由はわからないけど、オーリーは1人で居る事を凄く好んで、それと同じくらい誰かと一緒に居る事を喜んでくれる。

 滅多な理由が無い限りオーリーは人を嫌いにならないし、悪口を言わない。そんな人だから私のようなどうしようもない子供を大切に扱ってくれたんだと思うし……この6年間、私はオーリーが誰かの悪口や陰口を言っているのを聞いたことも無ければ、嫌いな人の話なんてものも聞いたことが無い。


 オーリーの話は面白いけど

 誰かを貶めるような冗談は、決して言わない。

 誰かを嫌いだというような冗談は、絶対に言わない。


 だから、


「……マリア……ありがとう」


「なんですの……改まって」


「私、やっぱりもう生きて行く自信ないかな」



 好きになって欲しいなんて思い上がりはしていなかった。

 それでも、ずっとずっと、オーリーにお仕えして……

 フェリシア様とのお子が生まれたら、その子のお世話もして

 ずっとずっと、オーリーの少し後ろを歩いて

 彼の揺れる後ろ髪を見られるなら


 それならいいなって……


 それだけで良かった。



「馬鹿言いなさい。生きて行く自信なんてなくたって生きて行くしかありませんわ」


「でも、もう、生きる意味なくなっちゃった……」


「ああもう!!ごちゃごちゃとうるさい子ですわね……今はとにかく時間を稼ぎますから、その間に私が何とかオーリーを説得して見せますわ」


 いつもの調子で喋っているものの、マリアの表情は酷く暗かった。

 カラドリアは常に笑顔で居る一族

 全ての人の頂点に君臨する勝者の一族

 そんなマリアですら、オーリーの説得は無理だと考えている。


 日が経つにつれてどんどん沈んでいく私と

 それを只管に励まそうとするマリア

 食事は喉を通らず、睡眠は浅く


 このままゆっくりと死んでいくのかと思った。



 再会は唐突に訪れた。


 


「リリィッ!!!!!!」




 マリア以外が入ってこないはずの部屋に、アイリ、フェリシア様

 そして


「リリィ!」


 やつれ切った顔のオーリーが立っていた。

 目の下は隈が溜まり、

 見るからに魔力の流れは淀み、

 綺麗な髪を乱したオーリーがそこに立っていた。


 オーリーのそんな姿を目にして、口は上手く回らなくなってしまった。

 どうしてここに来たの?

 フレスヴェルグでごめんなさい

 リリアナでごめんなさい

 プリドウェンを殺してごめんなさい

 でも、私はオーリーを殺したりなんかしないよ?

 でも、でも、私はフレスヴェルグだから許せないですよね

 

 なんて言えばいいかわからなかった。



「ごめ……申し訳ございませんでした」



 合わせる顔なんてとうに無くした。

 オーリーは立派な貴族。グリフィアの嫡子で、ラーガルの誇り

 きっとプリドウェンに対して並々ならぬ尊敬があったに違いない。

 だからフレスヴェルグがどうしても許せなくて……

 一族郎党を皆殺しにされたフレスヴェルグが、いつかグリフィアを殺すと思ったのかな……



 私は<(まとい)>を展開させて最短距離でマリアの部屋を脱出した。


 窓から飛び出した王都は夕暮れに染まっていて…

 赤くて綺麗だった。



 後数刻、暗くなってから闇に紛れて王都を出よう。

 それまでは何処かで身を潜めていよう。

 そう思っただけだった。



 特に何かを考えていたわけではなかったと思う。

 偶然その場所に隠れただけだった。

 人気がなく、隠れるのに丁度良い場所。


 本当に、本当に……偶然のはずだった。

 




 でも、偶然なんてものはこの世には無くて……


 私と貴方の偶然は、ずっと前から必然だったんですね。


お読みいただきありがとう御座います!

誤字脱字の修正感謝です!

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[気になる点] 続きーーー!!!
[良い点] 幻獣、寿命かなにかで死んだとのかと思ってたら。 これは歴史からなくなりますね。 納得の理由。
[良い点] 更新ありがとうございます。 いいよー、不快を感じてストレスが発生してそれを和らげる脳内麻薬(中毒性激高)が出てきてるー。 素晴らしいー!これだから不快な表現はやめられへんのや。※後にス…
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