scene.44 第四の刺客
リリィが見つかった嬉しさもあったし生きていてくれた安心感もあったけど、ようやく見つけた彼女は明らかに体調が悪そうだった。
「リリィ!」
だから、彼女の名前を呼びながら豪華なベッドに座る彼女に駆け寄って、手を取ろうとしたのだが……俺の手が触れる直前になってベッドの上の居たリリィはブレるようにして視界の外に移動した。
「ごめ……申し訳ございませんでした」
そしてただ一言……なにかに対する謝罪の言葉を述べると、リリィの身体は残像をその場に置いて俺やフェリシア、アイリの横を過ぎ去り、マリアの部屋のドアをぶち破り隣の部屋の窓を破壊して外に飛び出した。
疲労がたまっていたし頭も回っていなかったとは言え、あまりにも想定外の反応に一瞬思考は追いつかなかったが、
「リッ」
それでも瞬時に意識を切り替えた俺は即座に<纏>を発動し、ガラスをぶち破って窓の外に逃げて行ったリリィを追い掛けようとした。
状況はわからないし、今の反応と逃亡といい、俺はもしかすると相当嫌われている可能性もある。もしかすると追い掛けない方がいいのかもしれないが……それでも、短剣だけは返してあげたかった。俺の前から姿を消すにしても、大切なものだけは返してあげたかった。
そう思い、全身に魔力を滾らせ追いかけようとしたのだが…
「オーリー!待って!!」
同じく呆気に取られていたマリアが俺の手を掴んで妨害してきた。
「なッ!離せ!!今はお前に構っている暇はねぇんだよ!!」
しかし、今はマリアに付き合っている場合ではないで、俺はその手を振り払おうと力を込めて叫んだ。だが、どれだけ振り払おうと力をいれても、マリアは離れるどころかより一層身体全体で俺の腕に纏わりついてきた。
「マリア、貴女何をしているの?オーランド様が嫌がっておりますよ」
そして、そんな光景を見たフェリシアは全身に濃密な殺気を纏い目を見開いてマリアを睨みつけ始めた。マリアの返答など聴く気もないようで、鋭利な魔力を迸らせながら攻勢魔術を編み始め……
「お、おち、落ち着いてくだ、さい」
今まさにマリアを殺そうとしているフェリシアの前には必死に声を振り絞ったアイリが障壁を展開して立ちはだかった。アイリは泣きそうな顔になりながらも何とかしてマリアを守ろうと動いた。
リリィを追い駆けようとする俺、それを全力で止めるマリア、マリアを殺そうと魔術を編むフェリシア、マリアを守ろうとフェリシアの前に立ち障壁を展開するアイリ、部屋の中は一瞬にして混沌に包まれた。
「はッ……は、離しませんわ!いま追いかけてもきっとリリィはオーリーから逃げますわ!リリィを取り戻したいのでしたら話を聞いてくださいまし!!」
フェリシアが編み上げた必殺の魔術を前に、それでもマリアは俺の右腕を両腕で抱きしめるように必死に引っ張った。リリィを追走しようと必死な俺の顔のすぐ横から聞こえてくるマリアの声もまた、これ以上無いほどの必死さが籠もっていた。
マリアはリンドヴルムの覚醒状態にあるフェリシアの眼光を真正面から受け止め、尚も拒絶している。ここ最近はフェリシアに一切の抵抗を見せなかったマリアが、この時だけは俺の手を決して離そうとしなかった。
「………どういうことだ?マリアは何を知っている?」
リリィは心配だが、マリアの様子もまた無視出来なくなった。
リリィが逃げる理由………
リリィを取り戻す方法………
マリアは何かを知っている。
「そうですか……会って早々逃げられた今の状態では会話すらままならないですからね。構いませんよマリア、知っていることを全て話しなさい……今すぐに。嘘偽りなく。貴女の情報如何では今しがたオーランド様を妨害した一連の行動を不問にしてあげても構いません」
見ると、フェリシアも笑顔に戻っていた。
しかし、それでも隠し切れないある種の凄みが全身から滲み出ていた。『知っている事を今すぐに話せ』『嘘を付いたら殺す』と言うオーラを隠そうともしていなかった。
状況の変化に追いつけずに頭がぐわんぐわんと回り続けているが、フェリシアの気にあてられると恐怖心で一瞬にして気持ちが冷静になるので………これはこれでありがたい。怖いけど。
「オーリーも……まずは、落ち着いてくださいませ」
そんなフェリシアのオーラを一身に浴びながらも、マリアは何とか俺に冷静になるように促してきた。
「そうだな……リリィは生きていたんだ……焦るな…焦るな……」
冷静さを欠いた瞬間に勝敗が決まるとはよく言ったものだ。
前世の記憶が蘇ってはや6年……
最初の1年こそ焦燥感に駆られていたが、それもここ数年は抑え込めていた。確かに、1学期は何も上手くいかなかったし何一つ進展のない時間を過ごしてしまったが……焦りは禁物だ。そう思っていたはずなのに……そんな事はわかっていたはずなのに……
まさか、目の前からリリィが居なくなるだけでこれほどまでに冷静さを欠いてしまうとは……そうだ、生きていたんだ。生存確認はとれた。後は話を聞いて短剣を渡すだけでいい。
落ち着け……落ち着け……
「ふぅ………すまなかった……マリア、知っていることを教えて欲しい。」
王都は今現在この数十年で見た事もない程の厳戒態勢であり、戦時下と同等の危険度の下でシャーロット様が動いているとグレゴリーは言っていた。
俺の我儘……グリフィアの権力に人脈……シャーロットという王族の力、ケルシー…はともかくとして、ダニエルと言うアトワラスの頭脳を使い完全な包囲網が構築された今の王都からリリィが何の痕跡も残さず脱出することは出来ないはずだ。指揮はあのグレゴリー先生だし、この2週間足らずで王都の色々な場所に足を運び王都に詳しくなった主人公だって居る。
だから、今俺がするべき事は情報を補う事だ。
そもそもの話、どうしてリリィが逃げたのか……それも、母親の形見であり死んでも手放さないと言っていた大切な短剣を残すような形での失踪だ。生半可な理由でアレを手放すとは思えない。
そしてようやく見つけたと思ったらまた俺の前から逃げるようにして姿を消した………
情報だ
マリアの持つ情報がカギになるはずだ。
「落ち着きましたの?オーリー」
ゆっくりと俺の腕から身体を離し、マリアが問いかけてきた。
「すまなかった……いや……色々と、本当にすまなかった……」
彼女はいつも冷静だ。
とても馬鹿に見えるし、実際に馬鹿なのかもしれないが……
頭の中で常に膨大な情報が動いている天才だ。
そして俺は……謝罪1つ碌に出来ない大馬鹿だ。
「構いませんわ。ですが1つお約束をしてくださいませ」
「約束?」
「ええ、私は今から知っている事を全てお話し致しますわ。その上でオーリーとフェリシア様が何をどう判断されるかはわかりかねますが……それでもどうか……リリィの言葉に耳を傾けてあげてくださいませ。いいえ……リリィを見てあげてくださいませんか?」
「それは………どういう……」
リリィの言葉にはいつだって耳を傾けてきた
いつだって俺はリリィを見てきた。
大切な仲間………こんなクソみたいな世界をそれでも頑張って生きて行こうと思えたのは、バカみたいな女の子……リリィに出会ったからだ。1人でも強く生きようとする彼女が居たから俺も強くなろうと思えたし、強くなるためにはどんなことでも全力で取り組んだ彼女がいつもすぐ側に居たから、俺はここまでこれたと思う。
「俺はいつもリリィの話を聞いて─」
「ええ……ええ……そうだと思いますわ。ですが、この約束が守れないのであれば私からは何もお話しは出来ません。きっと……リリィはまた逃げてしまいますわ」
理由はわからない。
マリアが何を知っているのかはわからないが……
「約束するよ。俺はリリィの話をいつだって信じるし、リリィの事をいつだって見ている。それはマリアの話をきいたって変わらない」
「私もリリィの事は憎からず思っております。その程度の約束であれば問題ありません」
俺とフェリシアはマリアの言葉に頷いた。
リリィは悪役の大切な仲間だ。
それはどんな事があったって変わらない。
「わかりましたわ、約束は必ず守ってくださいませ」
そして俺とフェリシアから軽く距離を取り、椅子に座りながら壊されたドアを見て軽くため息をついたマリアは……
「オーリーは仰いましたわよね?リリアナ=フレスヴェルグはいつかオーランド=グリフィアを殺す可能性がある……と」
ゆっくりと口を開き始めた。
「学園の何処かに居るリリアナ=フレスヴェルグとはどうあっても友好関係は築けない、それだけは不可能だと」
マリアの言葉は何処か他人事のように耳の中に入り込み
「いいですのオーリー……オーリーの専属側仕えでありパーティーメンバーのリリィ……彼女こそがリリアナ=フレスヴェルグです。リリィの本名はリリアナ=フレスヴェルグ……彼女はフレスヴェルグの最後の生き残りですわ」
目の前が真っ白になった。
お読みいただきありがとう御座います!
誤字脱字の修正ありがとうございます!




