scene.43 スピード解決…?
グレゴリーに当たり散らしていた俺のすぐ後……
部屋の入口にはフェリシア=リンドヴルムが立っていた。
「グレゴリーはオーランド様に代わり引き続きこちらで指揮を執りなさい。」
「仰せのままに」
そうして、フェリシアはいつもの笑顔のままゆったりとした動きで部屋の中に入り、散らばっている報告書を拾いながら淡々と言葉を発し
「さあ、参りますよオーランド様。」
「何処に……行くんだ?」
「決まっているではありませんか、リリィを探しにですよ」
ダンスやエスコート以外で初めて、俺の手を取って歩き出した。
◇ ◇ ◇
そして、フェリシアに手を引かれ言われるがまま馬車に乗って移動した先は
「……カラドリア商会?」
王都にあるカラドリア商会の本部だった。
ダンジョンで蒐集したアイテムの鑑定をする為に度々通っているので建物はよく知っている。それに、ここにはマリアはともかくとしてアイリやマデリンさんも居るので、2人に会いにたまに顔を出したりもしていたから使用人や従業員しか入れないスペースについてもそれなりに知っているが……
「失礼いたします」
だからと言って、今のフェリシアみたいに当たり前のように何の許可も取らずに裏口から入って我が物顔で中を闊歩するようなことはしたことがない。
これは流石に怒られると思っていたが……そうでもなかった。マリアの部屋に一直線に向かう最中ですれ違う従業員はもちろん、よくマリアの周りにいるのを見かけるカラドリアの傭兵の皆さんは深々と頭を下げて俺とフェリシアを迎え入れていた。大丈夫なんだろうか……こんなガバガバなセキュリティーでちゃんと護衛できるんだろうか。
そして、とんでもなく広い建物の中をしばらく歩くとようやくマリアの部屋の前についたのだが…
「アイリ、こんなところで何をしてるんだ?」
そこには、俯き加減のアイリが立っていた。
「マリア様は今は就寝中です」
俯いて目を合わせる事なくアイリは呟いた。
元気がない……ような気がする。
そんなアイリの言葉を聞いた俺とフェリシアではあるが、そもそも俺はここに何をしに来たのかわからないし、マリアに会いに来たとしても、まだ早い気もするが寝ているなら仕方ないな。
なんて考えて、てっきり引き返して帰るのかと思った。
「そうですか、では部屋に入りますね」
「あ、あの、マリア様はご就寝中、です」
しかし、アイリの言葉を完全に無視したフェリシアは全く歩みを止めようとしなかった。
そしてそのまま、アイリの横を通り過ぎようとしたその時
バチン!という強烈な音と衝撃が響いた。音の響いた足元を見ると、高そうな絨毯ご黒く焦げプスプスと煙をあげていた。
そう……マリアの部屋に入ろうとしたフェリシアと俺の足元めがけて、アイリが攻勢魔術を行使してきた。初めて見るアイリの完全な敵対行動に正直なところかなり驚いたが………悪いのは強引に部屋に入ろうとした俺とフェリシアだ。
見るからに元気がないアイリの様子も気になるが、そもそも俺だって何しにカラドリアに来たのかわかってないし、ここは大人しく帰ろう。
「すまんアイリ、また後日改めて―」
そう思って口を開いたのだが……
「そう……アイリ、どうして嘘を付いたの?」
フェリシアはアイリの言葉を嘘と切り捨て、今まさにマリアの部屋のドアノブに手をかけようとしてた彼女はゆっくりと振り返り目を開きながら短い問いをアイリ投げかけた。
寝不足と疲労で頭は回らないが、やっぱり怖いと思った。
「あッ…いえ……嘘では、なく……」
「いいのよアイリ、私は怒っているのではないですよ。どうしてすぐバレるような嘘をついたのか、その理由を聞いているだけです」
「えっと……」
「ま、まあまあフェリシア……アイリにも何か事情が―」
「事情があることくらいわかっていますし、私はその事情が知りたいのですオーランド様。アイリ?貴女……リリィの居場所を知っているんじゃないの?」
「…………………なに?」
「知っているのよ?リリィが失踪する前の夜にカラドリアに暑い夏の夜にも関わらず頭の上から分厚いローブを被った客人が訪ねてきたでしょう?お客人は赤い髪だとか……女性ものの靴を履いていた…とか。私……知っているのよ?」
「えっと……でも…」
アイリは何かを知っている。
「アイリ…それはリリィだったのか?違うなら違うと言ってくれ、それでも何か知っているなら教えて欲しい……頼む……お願いだ、なんでもいい……」
フェリシアの言葉を聞いた俺は彼女の手を離し、代わりにアイリの手を取った。そしてそのままアイリの手を額に当てて目の前に跪くようにして懇願した。
もはやよくわからない。頭が上手く働かず思考が安定しない。自分が今何をやっているのかもよくわからない……それでも……
何故フェリシアがそのような事を知っているのかわからないし、その疑問すら頭には浮かばなかったが、それでもフェリシアの言う言葉が事実であればきっと何かのヒントになると思った。
「マリア様は…ご就寝中……です」
しかし、俺の懇願も虚しくアイリは口を割ろうとはしなかった。
真っすぐに目を見る俺から視線を外してそう呟いた。
フェリシアに連れられてカラドリア商会に来て、今の話を聞いて、突破口がここにあることは間違いないと思う自分がいるが……それと同時に、カラドリアの人間に口を割らせることがどれだけ困難なのかもわかっている自分もいる。
アイリが言い淀み、嘘を付いてまで喋らないと言う事は、その命令を下したのは恐らくマリアだ。アイリはカラドリアの客人であるが、それ以上に今はもうマリアの仲間であり忠実な部下だ。マリアの命令であればたとえどのような拷問を受けた所でその口を割ることは……決してないだろう……カラドリアの人間とはそういうものだ。
リリィは死ぬほど大切だが、だからと言ってアイリを傷つけるようなことは俺には出来ない。どうやって隠している情報を割らせようとかと考えている俺の横で、
「そう……どうしても話してくれないのね……仕方ありませんね」
フェリシアは軽い溜息を洩らし呟いた。
そして、ゆっくりとアイリに近付き、俺に聞こえない声量でアイリに何かしら耳打ちをした。
それは本当に短い耳打ちで、恐らくは一言二言しか言っていないであろう耳打ちだったと思う。
しかし、フェリシアがアイリに何かを言った直後
「いいんですか!あ……えっと……はい」
それまで俯き加減だったアイリの顔はぱっと明るくなり、可愛らしい緑の瞳を輝かせながらフェリシアの方に向き直った。
なんだ?
何を言った?
「構いませんよ」
アイリから顔を離したフェリシアはまた笑顔に戻っていた。
何を言ったのだろうか。
「で、では、お二人とも部屋の中に……」
先ほどまでと違い、非常に足取りの軽いアイリがぴょこぴょこと動き、どうやって説得しようかと考えていたマリアのドアを呆気なく開けてくれた。
久々に入ったマリアの部屋の中は魔道具のおかげで涼しく、シンと静まり返っていた。
本当にここにリリィは居るのだろうか…
手掛かりはあるのだろうか……
そう思いながらだだっ広いマリアの部屋の扉を一か所、また一か所と開け放ちながら進んだところでようやく……
「リリィッ!!!!!!」
顔面蒼白になりながらベッドに座り、虚ろな瞳でゆっくりと俺の方を見るリリィを見つけた。
「アイリ貴女ッ!」
そして、その隣には目を見開いてこちらを見つめるマリアの姿もあった。やはり、部屋の前での足止めはマリアの指示か。
大規模な捜索クエストを組み大人数の部隊を編成して2週間近く探し回ったリリィは結局、主人公が最初に言った通り王都にいた。
王都のカラドリア商会本部、その中で最も安全で人の出入りが少ないマリア=カラドリアの部屋にリリィが居た。
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