scene.41 最後のピース
考え得る限りの手を尽くしたが、何の成果もないまま数日が過ぎた
次々に積みあがる報告書に飛び込んで来る情報。
グリフィア邸の一室を指令室としてリリィ捜索本部を作った。
俺は1つ1つ積み重なる情報を基に可能性を思案する。
ただのちんけな悪役でしかない俺の頭ではどうしたって出来る事と出来ない事があるのかもしれないが……今回に限り俺は諦めなない。
「オーランド様、しばし休息を。指揮は私にお任せください」
報告書に目を通し地図に印をつけていく俺に、グレゴリーが声をかけてきた。
「ああ、もう少しすれば休もうと思う。ありがとう、グレゴリーも少し休むといい」
最悪の結末は常に頭の中にある。
ここ数日は睡眠を取る事すら煩わしかった。
冒険者ギルドではダンジョンへの攻略申請はなかった。
ダンジョンは所定の手続きを踏まなければ攻略は出来ないので、リリィはダンジョンの中には逃げ込んでいない。それがわかっただけでも大きい。流石グレゴリーだ。
門番から押収した出入履歴には予想通りリリィの名はなかった。
であれば、王都に居るのかと言うとそうではないだろう。
行き先を誰にも知られないため、正規の手続きを取らなかった。
そう捉えるべきだ。
もっとも、億が一にも王都に潜伏している可能性もあるので、そこは今シャーロットとケルシーに助力を請って貴族を含めた王都の家一軒一軒を虱潰しに探して貰っている。ダニエルは笑顔で引き受けてくれたが『この貸しは高くつきますよ』と言っていた。構うものか……リリィが死体で見つかるような事になるよりはずっといい。
後は念のためリリィと仲の良かったフェリシアにも手紙を送った。
フェリシアに手紙が届いたとしてリンドヴルムから返事が来るのはまだまだ先になるだろうし、それまでには見つけたいが……
結局、それから更に数日が経過してしまった。
希望的観測をしたつもりは無かった。
それでも、心のどこかですぐに見つかると考えていたのかもしれない。
◇ ◇ ◇
頭によぎるのは最悪の結末だ。
どうして短剣を置いて姿を消した……
何故いなくなった……
こんなくだらない世界でもやってこられたのは……
『私達2人で誰よりも強くなるのよ!いいわね!』
思い出すのはいつだって薄汚い路地裏での笑顔だ。
お前に好きな人が出来るのもいい……
俺から離れていくのも構わない……
俺を嫌いになったっていい……
なんなら殺しに来たっていい……
だけどこれは無い……それだけは許容できない。
よくわからない書置き一つ残して死ぬような真似だけは許さない。
「オーランド様、そろそろ一度お休みになられてください」
意識が朦朧としているところに、もう何度目かになる言葉がグレゴリーから聞こえてきた。
「少し黙っていてくれ……ああ、いや……俺が欲しいのはそんな言葉ではない。次は何をすればいい。どうするべきだグレゴリー?打てる手は打ったとは言うな」
リリィが消えて何日が経過したのか……
手掛かりは一向に見つからなかった。
捜査の手は王都の近隣の街まで伸び、グレゴリーの伝手を使って冒険者ギルドの高速情報共有システムを使って大都市部に破格の報酬をぶら下げてリリィの捜査依頼クエストまで出した。
俺だってそこまで馬鹿ではない……いくら調べても情報が開示されないグレゴリーについての推測くらいはしたことはある。グリフィアが……父上が家庭教師の依頼を頼むような相手。上級冒険者<口>にまで至った俺に尚開示されない名前。そしてなによりあの隔絶した強さ……大方の予想はついている。
だから、グレゴリーに無理を言って冒険者ギルドまで動かして貰った。だが……
「申し訳ございませんオーランド様。私に打てる手は現状御座いません。後は各地に散った部隊からの情報を待つしかなく―――」
「うるさいッッ!!!!そんな事を聞いているんじゃないッ!!!!次に何をすればいいのかだけ言えッ!!」
声を張り上げた俺は、恭しく礼をしているグレゴリーに向かって報告書を投げつけた。
何かしていなければ頭がおかしくなりそうだった。
「俺が今聞きたいのは次にやるべきことだ!!」
もういつ寝たのか、いつから寝てないのか
今がいつだったのか、そのあたりの感覚が曖昧なっていた。
だが、悪役の限界など知った事ではない。
今回動いているのはシャーロット、ケルシー、それに主人公だって必死に探し待ってくれている。だから、必ず見つかるはずなんだ。
主役が動けば世界は動くはずなんだ……
頼む……誰でもいい……
誰でも……
誰かリリィの居場所を教えてくれ……
「あらあらオーランド様、使用人に当たるなどお行儀がなっていませんよ」
極度の睡眠不足と極度の疲労
いい加減に限界に近付いていた俺の心に優しい声が響いた
「それでは、リリィを探しにいきましょうか」
「……どうして……ここに……?」
声の聞こえる方向を見ると、そこには……
「どうしてもなにも……約束したではありませんか。オーランド様に困ったことがあればリンドヴルムから飛んでくる、と」
シャーロット、ケルシー、ギルバートに続く主役……
悪役を心の底から嫌い、憎悪する……
笑顔の仮面を張り付けた美しいヒロイン……
フェリシア=リンドヴルムが、そこに立っていた。
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