scene.04 これまでとこれからと Ⅳ
王都郊外
人気の無い平野に耳を劈くような轟音と魔物の断末魔が響く
音源には何十匹もの切り刻まれた魔物の死体が転がり、それ光景を遠巻きに見ていた魔物は一目散に逃げ出していった。
「おー…いい感じだな」
「うん…オーリーの、おかげ」
緑髪の小さな女の子は表情を僅かに変えて、そう言った
「んなこたーない、アイリが頑張ってるからだ」
頭に手をおいて乱暴に撫でる。髪がぐちゃぐちゃになるのであまりやりたくはないのだが、これくらい乱暴に褒めないとアイリは全然喜んでくれない。
「おほほほほ!私も頑張っておりますわ!」
そしてその横で雷の魔術を連発している女もいた。
うるせえ………
「……なんでマリアがついてきてんだよ」
「当然ですわ!オーリーいる所に私あり!私の居るところにアイリありですもの!おほほほほほ!」
「うん…マリア様とは、ずっと一緒」
「そうかい」
6年前、俺が初めて人を殺したあの日助けた少女アイリ。
彼女はあれからずっとカラドリアに客人として滞在し続けている。カラドリアの客人対応と言う事は並大抵のの貴族連中よりも待遇が良いわけだ。確かに面倒を見てくれと頼んだのは俺だが、カラドリアが見ず知らずの少女をここまで大切に扱うとは思ってもみなかった。
試しに理由を聞いてみても『オーリーに任されたんですもの!』『オーリーからお願いですもの!』などと適当に話をはぐらかされてしまい、結局カラドリアの意図は掴めななかった………
「パーティーメンバーとはそういうものでございます、オーランド様」
俺の後ろに静かに控えていたリリィがそっと呟いた。
そう。カラドリアがアイリを客人として持て成している理由は不明だが、アイリの魔術は中々にヤバイ。4属性をポンポン使える俺が言うのも変だが、アイリは3属性の魔術を高水準で扱える魔術の天才だった。俺は自分の魔術が高い水準にあると思っていたが、アイリを見て世界の広さを知った。
そしてそれを評価したのか、マリアはアイリを自分のパーティーメンバーとして組み込み、この二人は日夜行動を共にするようになった。しかもこのコンビが中々に強く、1年くらい前からはマデリンを護衛に付けないで外出するようになった程で………マリアとアイリのコンビは本当に強くなった。アイリとマリア=カラドリアに護衛は不要と判断されるまでになってしまった。
しかし、来週から俺達が学園に行くということで、年下のアイリは王都のカラドリア商会でお留守番の日々が増えてしまう。それが悲しいのか寂しいのか、アイリが久々に俺に魔術を見てほしいとお願いしてきたのが昨日で……
「ま、そうだな。アイリも来年はラーガル学園に入ればいい…………よな?その辺どうなってんだ?」
「ばっちりですわ!アイリは既にこのマリア=カラドリアが推薦しておりますもの、入学など造作もないこと!おーほほほほ!」
カラドリア一族から推薦されればその辺を歩いている犬だって、道端に生えてる雑草だって入学出来るだろうし問題ないか。そもそも3属性を扱う魔術師だから、放置してても学園から勧誘がありそうだけどな。
「俺達も学園生活が始まれば寮生活だからな……まあ、ちょっと寂しいかもしれんが夏季休暇には戻るし、大人しくしているんだぞ?」
「うん…早く帰ってきてね」
俺の服を引っ張りながら小さく頷く年下の女の子。
軽くしか聞いていないがアイリの生い立ちはかなり悲惨なものだった。
マリアに聞いても適当に端折った話しか話さなかったので詳しいことまでは知らないが、恐らくマリアですら全てを語るのは気が引けてしまうような内容なのだろう。まさか面倒だから適当に話しているなんてことはないだろうしな……かといって本人に聞くわけにもいかないし……
親を目の前で殺されて信じた人にも裏切られて襲われて……
ざっくりと聞いた話はその程度だったが、それ以上は聞きたくなかった。
そして、そんな子に俺が出来る事は遊び相手になるくらいしかなかった。
初めこそずっと怯えっぱなしだったアイリも少しずつ心を回復していき、いつしかオーリーお兄ちゃんと呼んで慕ってくれるまでになった。前世も今も兄弟がいなかったので俺としてもアイリが可愛くてたまらないわけだが、最近は何故かお兄ちゃんとは呼んでくれなくなった。嫌われたというわけではないようだが……アイリも14歳だからな……そろそろ難しいお年頃と言うやつなんだろう……
リリィとアイリ……俺の心を癒してくれるのはこの2人だけだ……
それに比べて……
フェリシア、シャーロット、ケルシー、マリアは………
彼女等には近づく事すら遠慮したいというのに、どいつもこいつもこの6年間俺とリリィのダンジョン攻略を妨害してきた。しかしながら、ご機嫌を取っておかなければいつどこで死亡フラグが立つかわかったものではないので、この6年はダンジョン攻略と両立して命をかけて誠心誠意尽くしてきた。
シャーロットはまあ……攻略ヒロインってわけでもないからご機嫌を取っておく気にもなるんだが、それでも他の連中はダメだ。フェリシア、ケルシー、マリアは成長するにつれてゲームのヒロインのようなとんでもない美少女へと成長を遂げているわけだが……
オーランド=グリフィアという身体がこれに拒絶反応を起している。
そう、これは恐怖だ……彼女等が近くに居ると恐怖が身体を駆け巡ってしまう。
『私は出会ってから一度たりとも貴方の事を好いた事はありません。視界に入れることすら苦痛の日々でした』
『あなたのような人が居るせいで、この世界から争いは無くならないのです。この世界に悲しみが流れるのです!』
『カラドリア様への数々の無礼、死して償うがいい』
うぅ………怖すぎてゲロ吐きそう…………
でもなあ……最近はリリィとアイリをみてもなんか既視感があるっていうか……
現実逃避の為に2人を見つめ過ぎて頭がおかしくなったのかな……
そんな事を考えながら俺はアイリの頭をもう一度ぐしゃぐしゃに撫でた。
お読みいただきありがとうございます!
導入部は早送りしたいので2話投稿しちゃいましたが、基本1日1話で行くと思いますm(_ _)m
2部は既に執筆完了済みなので投稿が滞ることは御座いません。
誤字脱字修正お待ちしておりますm(_ _)m