scene.39 まるで本物の…
ギルバートを王都の色々な場所に連れまわして顔を売りまくる散歩が終わり、リリィの一日も早い回復を願って願掛けアクセサリをいくつか買って帰ると
「おかりなさいオーリー!お話がありますの!」
屋敷の入り口でマリア=カラドリアが仁王立ちして待っていた。
「そうか、俺は特にないからとりあえず後でもいいか?」
「あ、こんにちはマリアさん!」
「はい、こんにちは…ではなくて!お話をしますわよオーリー!」
割といつも強引なマリアではあるが、今もまたどうしても話したいことがあるようで……俺は仕方なく付き合うことにした。どうせまたくだらないことに決まってるんだけどな……
「わかったわかった………悪いギル、これもって先に屋敷に戻っててくれ。もう少しすればグレゴリー先生との夕方の訓練も始まるから適当に休んどけな」
「わかりました!リリィさんへのお土産は…」
「あーいいよ、ギルが渡しといて」
「い、いえ!これはオーランドさんが渡すものなので部屋に置いておきますね!」
「そうか?じゃあそうしてくれ、悪いな」
強引に話をしたがるマリアを横目に、ギルに荷物を渡しながらそう言った。
「さて……なんだ、話って?」
「入り口で立ち話もなんですもの、いつもの場所で話しますわよ」
そう言うと、面倒くさそうに対応している俺に構うことなく、マリアは俺の手を取って改造されたグリフィア邸の庭の一角へと引っ張っていった。
◇ ◇ ◇
夕暮れが照らす庭は暑く、俺とマリアは好き放題に立てているパラソルの陰で椅子に座りながら話を始めた。視線の先には何人もの使用人が庭の手入れをしていて、かつて俺がおぼれた池も見える。
「どうした、改まって何か聞きたいことでもあるのか?」
椅子に腰かけながら遠くで働いている使用人を見て、俺は聞いた。
「リリアナ=フレスヴェルグについて知りたいですわ」
すると、マリアは椅子に座る俺の顔を覗き込んで話しかけてきた。
近い近い近い!
「……リリィに聞いたのか?」
「聞きましたわ、ですので教えていただきたいのです。リリアナ=フレスヴェルグがオーリーを殺すと言うのはどういう意味ですの?」
「悪いがその問いに答える前に、俺の質問に答えて欲しい」
ぐいぐいと顔を近寄せて来るマリアを押し返し、マリアの問いに答える前に自分の質問を投げかけることにした。
「構いませんわ!オーリーの質問はなんでも答えますわ!」
「では聞くが……マリア、お前はリリアナ=フレスヴェルグという名前を知っていたか?会った事はあるか?」
「お名前はリリィに聞くまで知りませんでしたわ。会った事は……あると思いますわ」
「本当か!?」
マリアの返答に俺は思わず彼女の肩を掴んでしまった。
「ちょ、ちょっとお待ちくださいまし…心の準備が……」
「今はふざけている暇はない!どんな奴だった!知っていることを教えてくれ!」
「ふざけているわけではありませんわ!オーリーにこれほどまでに強く肩を掴まれるだなんて…顔がとても近くて緊張しますわ…んーー」
そう言って気付かずに近寄っていた俺の顔に、マリアはすかさずキスをかまそうとしてきた。
「うわッッ!!っとっと……すまん!」
マリアの青い瞳が迫ってきた瞬間に急いで肩から手を離した。
あ、危なかった……
俺のファーストキスがこんなわけのわからないタイミングで奪われるところだった。
「………そんなに逃げなくても宜しいですわ。んんッ……質問の答えですが、知っていることは何もありませんわ」
「…何?リリアナに会ったんじゃないのか?」
「落ち着いてくださいまし、オーリーらしくもない……会った事があると思うといっただけではありませんの。リリアナはラーガル学園にいるのでしょう?でしたら会った事はきっとあると思うと言っただけですわ」
「あー……なるほど、そうか」
「リリィに名前を聞くまでリリアナ=フレスヴェルグの名前など聞いたことも無かったと、前置きしたではありませんの」
「すまんすまん……」
会話は楽しむべきだが、熱くなってはならない。
ましてやそれが情報を得るための会話であれば尚更だ。
落ち着こう……
「質問はそれだけですの?」
「まあ……そう、だな」
リリアナを知っていればと思ったが……流石に知らないか。
ゲームでは凄腕の冒険者だと言う設定だったし、マリアなら独自のルートでリリアナの情報を入手してカラドリアの傭兵に勧誘している可能性もあると思ったのだが……
冒険者ギルドに情報開示を何度も何度も求めているが、リリアナ=フレスヴェルグの名前は一向に現れない。情報開示は自身より下位のランクの者しか出来ないし、それも正当な理由が無ければ出来ない。
上級冒険者<口>にまでたどり着いたというのに、リリアナについての情報を教えてもらえないと言う事は彼女もまた15歳にして俺と同じかもっと上に居ると言う事になる。
だが、上級冒険者到達の最年少記録は俺とリリィだ。
リリアナはいつ上級にあがった?フレスヴェルグと言う名前からラーガル出身だとばかり思っていたが、何処か他の国で生活していたのだろうか……没落した貴族だしそれもありえるか……
「では私の質問に答えてもらう番ですわ!どうしてリリアナ=フレスヴェルグはオーリーを殺すんですの?そもそも、その口ぶりから察するにオーリーも会った事はないんじゃありませんの?」
再び顔を近づけてきたがもう油断しない。
マリアと2人で話すときは<纏>を発動させながらじゃないと怖いな。
「一つ訂正するなら確実に殺されるとは限らない。あくまでもその可能性が高いと言う話だ」
「それがわかりませんわ。どうしてですの?仲良くできる可能性はありませんの?」
「俺を殺すかもしれないって話なら実のところ上手く説明はできない、ただ……説明はできないがそうなる気がするとしか言えん。それに、リリアナと仲良くできる可能性だが…………それは無いな。俺としてもそうできればと思うが、残念ながらリリアナ=フレスヴェルグと友好関係を築く事だけは不可能だ。」
今でこそ俺とマリア、フェリシア、ケルシーは敵対関係にないが……それは子供のころからの積み重ねがあって辛うじて保っている均衡だ。それにしたっていつ何の拍子で崩れるかわからないし、この先で彼女等が主人公と恋に落ちれば容易く傾いてしまう、その程度の均衡だ。
リリアナに関しての情報はルートを攻略していないので、オーランドがどのような死に方をするのかは知らないし、主人公とだってどうやって打ち解けるのかがまるで未知数だ。そして当然、このルートのオーランド=グリフィアがどのタイミングでどのような死を迎えるのかも知らない。
出会い頭にぶつかりそうになった主人公の顔面を蹴り飛ばしてくるような奴であり、周回を重ねて主人公のステータスをモリモリ上げて、出会い頭の蹴りを受け止める所からようやく攻略が始まるという常軌を逸したヒロインだ。
あんな暴力が服を着て歩いているようなキャラクターとどうやって仲良くなれると言うのか。
その上で作中最強とか言われている奴と仲良くだと?
ありえない……近寄りたくもない。
『グランドフィナーレの向こう側』において最強のキャラクターと称されているリリアナ、そのルートで悪役がどのような末路を辿るかなど考えたくもないし、考えるまでもない。作中きっての武闘派キャラのルートにおける悪役の扱いなど想像するのも恐ろしい。
「ど……どうしてそう言い切れますの?会った事もなければ、どのような方なのかも知らないのではないんですの?」
なんだ……マリアの奴?
妙に突っかかってくるな……
「……確かに全く知らないんだが、予知夢……夢のお告げって言うのかな……信じる信じないはマリアに任せるが、とにかく俺はリリアナとは仲良くなれない。これは絶対だ。リリアナ=フレスヴェルグはいつか必ずオーランド=グリフィアを殺す」
ゲームを知っている身からすれば、今マリアとこうやって話せていることすら奇跡だ。
「……オーリーの事は信じますわ……信じますけれど……私は……私はきっと、リリアナとオーリーは仲良くなれると……思いますわ」
マリアにしては非常に歯切れが悪い喋りに違和感を覚えた俺はマリアを注視した。狙いが何処にあるのか、何を考えているのか……見ると、いつも真っ直ぐに揺ぎ無く光るマリアの青い瞳は揺れていた。
だから俺は確信した……マリアは何かを隠している、と。
明らかに何かを知っている、あるいは隠していると感じた。
でもまあ……だからどうと言うわけではない…
マリアのせいではなくて……
ここ最近の俺は久々に焦っていたと思う。
元気なリリィが体調を崩した事に焦っていたのかもしれない
凄まじい速度で成長するギルに焦ったのかもしれない
だからかな……
「……何か知っているなら教えてくれ!なんでもいい!どんな些細な事でもいい。わかった……キスをしてもいい。だから、リリアナについて知っていることを教えて欲しい」
言ってはいけない事を言った。
俺の言葉が耳に届いた瞬間、マリアは目をカっと見開いた。
「ふざけないでください!!!馬鹿になさらないでくださいませ!!そんなキスは要りません!!そんな……そんな事でオーリーを欲しいだなんて……私を馬鹿になさらないでください………私には……私は何も言えません……失礼いたしますわ」
怒りとも悲しみとも取れない表情を浮かべたマリアはそれだけ言うと、そっと立ち上がり背中を向けて去っていった。
声を掛けるべきだったが何を言うべきかわからなかった。
それでも謝罪はするべきだったかもしれない。
結局何も言えず……
俺は少しずつ離れていくマリアの背中を見送った。
「あー……………最低だ……」
リリアナの情報を焦るあまりくだらない事を言った。
本当に……くだらない事を言った。
何がキスをしてもいいだ……馬鹿が……
女性を弄ぶような言葉を吐いて……完全に悪役じゃないか。
目の前の事しか見えていなくて焦っていたなど言い訳にならない。
何も進展しなかった1学期に焦っていたのかもしれない。
だからって学園の1学期に後悔はしていないし、進展しなかったのは誰でもない俺の弱さが招いた結果だ。それでも、じりじりと迫る死に焦っていたのかな……
だから、すぐ後ろにいたリリィの気配すら感じ取れなかった
最低な言葉でマリアを傷つけたこの翌日
リリィが屋敷から姿を消した。
お読みいただきありがとう御座います!
誤字脱字報告感謝です!




