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scene.38 あり得たかもしれない未来


 マデリンとの久々の組み手はいい刺激になった。

自分の成長を感じると同時に、冒険者ランクの上昇と強さが必ずしも比例しないと言う事にも再度気付かせてもらえた。


「ありがとうございました!」


「お疲れさまでしたオーランド様。お強くなられましたね。」


 そう言ってお互いに頭をさげてしばらくは反省点を教えてもらう。何度も何度も手合わせをして、その都度いわゆる感想戦をして改善点を洗い出すわけだが、


「――で、私がこう、スッ…としましたらオーランド様はサッと避けられるのではなく、サササと避ける事が最善でした。」


 マデリンさんはこれがわかり辛い。

正直何言ってるのかまるでわからん。リリィはこれがよくわかったようで驚異的な速度で成長していったが、俺は15歳になった今でもまるでわからない。


「なるほど……サササでしたか。」


 ただ、マデリンさんのような綺麗なお姉さんと話をする機会は非常に少ないので、よくわからなくても話をやめるつもりはなかった。


 ◇ ◇ ◇


 そしてお昼


「ギル、調子はどんな感じだ?」


「はい!学校の実技より凄くわかりやすいです!」


 そろそろ一度休憩を挟もうとグレゴリーとギルのいる場所へと向かうと、相も変わらず輝く笑顔を向けてギルバートが返事をしてきた。なんて眩しい奴なんだ。


「そりゃそうだ、なんたってグレゴリー先生は俺とリリィの師匠だからな。グレゴリー、そろそろ一度休憩を挟もうと思うが、問題ないか?」


「問題ございません。日中は日差しが強くなります故、午後は一度オーランド様にお返し致します。夕刻より再び実技に移ろうかと考えておりました。」


「わかった。と言う事で一度休憩だ、いこうかギル」


「はい!グレゴリー先生、ありがとうございました!」


 うーん…良い返事だ……

 なんだってヒロイン連中はこんな良い奴を放置しているのだろうか。

 俺が女だったら今頃結婚してハネムーンだぞ。


「午後からはまた勉強になるが、ギルは体調崩してないか?何処か具合が悪い場所とかあれば遠慮なくいってくれ」


「僕なら全然大丈夫ですけど、リリィさんは大丈夫でしょうか……」


「本人は今朝も働く気満々だったから、それ程までに体調が悪いってことはないと信じたいが……どっちにしても俺はリリィに頼りすぎてたからな。ちょうどいい機会だしいい加減1人で生きていかなけりゃな」


「1人で生きて行くんですか?」


 おっと……


「あー…なんていうか、一人前の男にならないとなって。周りに甘えてばかりじゃ見えないものもあるだろうしな」


「なるほど……ぼ、僕も―」


「言っとくけどギルはまだ早いからな?そう言うのは最低限学校の勉強に追いついてから考えりゃいい」


「はい……」


 勉強……勉強か……


「そうだな。詰め込み過ぎてもしかたないし今日はちょっと王都でも回るか!」


 マリアは屋敷から出てこないしお母様とでも話しているのだろうし、フェリシアはリンドヴルムに帰ってるし、王女もケルシーも居ない!街でぶらぶら遊べる機会なんて早々ないはずだ!

 寝込んでるリリィにお土産を買ってきてもいいしな。

 

「え?でも……勉強が……」


「心配しなくても着実に追いついてるからそんなに焦るなって。単純な読み書きは出来るようになったんだから後はもう応用みたいなもんだ。詰め込み過ぎるとどっかで爆発しちまうし、頭も体も適度に休ませるほうがいいんだよ」


 流石にまだまだ学園の基準には全然おいついていないが、だからと言って追い込めばいいわけでもない。勉強に苦手意識がでてしまったり焦燥感から詰め込もうとし始めたらもう終わりだ。学習は自発的にやるのがいっちばん伸びる。一度でも嫌々になった瞬間に効率はがた落ちになる。


「なるほど……わかりました!」


「それに街で覚えることだって色々あるし美味いもんだってある、今日はそこら辺を見て回るぞー」


 街に出るのは悪い事ではない。平民の生の声は非常に大事で、報告書ではわからない細かな音が聞こえてくる。そして、そういう生の声ってのを拾い集めて俺は逃亡先を選定するわけだ。


 ◇ ◇ ◇


「すっごい人だかりですね!今日は何かお祭りがあるんですか?」


「ないない、王都はいっつもこんなもんだ」


「す、すごい……」


 午前中の特訓でかいた汗を井戸で洗い流し、午後からは主人公(ギルバート)を連れて勝手知ったる王都を散策することにした。悪役と主人公で仲良く散歩だ。


「ギルの住んでた所はあまり人が居なかったのか?」


「そう……ですね、どうでしょう……あはは……」


「どうでしょうって……お前ー」


 えらく適当な返事をすると思って横を歩いていたギルバートに視線を向けながら話かけたが、ギルは何とも言えない表情をしていた。


「って、そりゃそうか。ラーガルの王都より人が多い場所なんて早々ないし普通は驚くよな、はっは!」


 だから適当に話を切り替えた。


「えっと…はい!そうなんです、あはは」


 ふーむ……

 実家や故郷について何度か問い質してやろうと考えていたが、やはりこれは何かあるな……………ま、その辺の事はシャーロットにもう少し詳しく聞くか。


「とりあえず冒険者ギルドにだけ寄るから、王都の案内はその後でな。ギルも学園出たら王都で就職とかするかもしれんし、やりたいことがなければ冒険者になることだってあるし、こっちの冒険者ギルドに顔を覚えといてもらうのはいいぞ。とりあえず俺の紹介できる人たちには紹介するから王都で何か困ったことがあればその人たちを頼ればいいし、逆にその人たちから何か言われたら俺に言ってくれればいい、俺がいるうちはな。」


「なるほど……でも、その…紹介といっても僕は何もしてないんですけど……」


 ギルは顎に手を当てて頷きながら真剣に話を聞いている。

 つくづく真面目な奴だ。


「ギルドってのは冒険者にせよ商業にせよ錬金術や鍛冶にしてもそうだが、結局は同じ商売をする人間が集まる大きなコミュニティだ。その中で出世するしないは正直どうでもいいが、そこで快適に仕事をするには快適に仕事をできるような人間関係を構築しなきゃならん。顔を売るって言うのは悪い事ではないし、借りれる人脈があれば借りればいいし、繋げる顔があるなら繋いでおいて損はない」


「なる…ほど?」


「なーに難しいことは考えなくていい。俺は将来有望なギルを冒険者ギルドに紹介するだけだから、ギルはギルでしっかりと顔を覚えてもらえ」


 ゲームでの主人公は学園を卒業したらどうしたんだっけ……

 冒険者として大成したり、貴族になったり、商人になったり……

 家に帰る…と言うエンディングはなかったはずだ。

 そもそも主人公の実家について語れる場面は殆どなかった。


「ギル、お前はこれからきっと沢山の人を幸せにする。」


「え?ど、どうしたんですか?」


「まあ聞けって……今はよくわからんが、学園を卒業するまでには沢山の人がお前の周りには集まるし、沢山の女性がお前を求めるようになる」


「あはは、そんなのあり得ませんよ。どうしたんですかオーランドさん」


「はっは……それがあり得るから言ってんだが……だからまあ…そういう周りにいる人間をしっかり守ってやれるようにギルはこれから強くならなきゃいけないし、将来の為に冒険者ギルドの人間に顔を売るのも大事な仕事だと思って諦めてついてこい」


 俺は運がよければ長生きできるかもしれないが、何となく早死にそうだしな。諦めるつもりはないが……最初から悪役(オレ)の運命に未来なんて贅沢なものはそもそも存在しない気もしている。学園の一学期も結局めちゃくちゃで何一つ進展しなかったし、なんかもう色々と無理っぽい感じはしている。


 でも、ギルバートは良い子だ。俺の死が不可避としても良い子には長生きしてほしいし、ラーガル学園にいる間に俺が出来ることは全てしてやるつもりだ。

 俺があげられるものは全部あげようと思っている。俺が居なくなった後にしっかりとラーガルを支えられるような人間になってもらわないと困るからな。



「よくわかりませんが…わかりました!オーランドさんにこれだけ支援いただいているのですから、きっと強くなってみせます!」


「おーし、よく言った!明日からはグレゴリーに頼んでしごきを強化するか!」


 実際のところ逃げようと思えば今すぐにでもラーガルから逃げられるが、いつの間にやら簡単に捨てられないものが増えすぎた。主人公(ギルバート)は特にそうかもな……なーんか放っておけないんだよなー……


 ゲームとの関係とは程遠いが……

 悪役が主人公に絡むってのは因果なのかねえ……



「ええ?!も、もっと大変になるんですか……でも、頑張ります!」



 だから、時々ちょっと考えてしまう。



 悪役と主人公

 もし俺とお前がオーランドとギルバートじゃなければ……




 本当の友達にだってなれたのかもなって。


お読みいただきありがとう御座います!

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[気になる点] オーランドは本来ヒロイン達と同様に注意するべきギルバートとは こんなに友好的に付き合うことができるのにヒロイン達にはあんなに冷たいのでしょうか? 前作(1部)ではヒロイン勢に対して心…
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