scene.34 終焉の引き金は静かに
夏は暑い。暑いのは嫌い
ダンジョンは年中適温……
「と言う事で、夏休みの間だけマリアとアイリそれとギルとパーティーを組もうと考えているんだが……リリィの意見を聞きたい。俺はリリィの意見を一番尊重する」
そう言って俺は、2階のテラスで星を見ながら生温い飲み物を口に流し込んだ。
実際の所ギルの訓練進捗次第なところもあるのでダンジョンに潜ることは決定ではないが、一応確認だけはしておこうと思った俺は早速その日の夜にリリィと話をすることにした。学園ではギルの手伝いで一時的にパーティーを組むことを許可してくれたが、リリィの事だ『マリアとPTは組みたくない』と言ってくるだろうことも想定していたのだが……
「問題ございません。それがオーランド様の御意思であれば」
椅子に腰かけている俺の後ろでリリィはそっと頭を下げた。
「そうか…ま、まあ、行くかどうかは決めてないしもしかしたら行くかもなって感じで、はっは」
それが俺の意思ならば、か……嬉しいのに…悲しいもんだ。
どうしてこんな関係になっちゃったんだろうな……
「畏まりました」
「あー…リリィも飲むか?美味しいぞ?」
別に美味しくはない飲み物を何となくリリィに進めたが……
「いえ、私はまだ職務中ですので。」
「そうだったな、いや、すまない」
昔は遠慮なんてしない奴だったのにな。
生温い甘い水を美味しい美味しいって飲んで、マリアから貰ったものを笑顔で頬張っていた頃が懐かしい……はっ!いかんいかん……リリィに好きな人が出来たという事実は思いのほかショックだったのかもしれん。
しかし、こればっかりは仕方ない。元々俺はリリィを生涯束縛するつもりなんてなかったし寧ろ今までよく尽くしてくれたくらいだ。今はそんな事よりももっと別の話題だ。
そう……
2学期が始まるまでに調べてもらわなければならない事がある。
「なあリリィ、1つ…というか1人調べて欲しい人物が居るんだが問題ないか?それと、出来る事なら俺が調べていると悟られないように相手の情報を掴みたい。」
「密偵ですか?畏まりました、全力で務めさせていただきます」
「あーうん、全力なのはありがたいがこっちの事がバレないようにだけ気を付けてくれ。極力接触を避けたいというか、こっちが探りを入れていることを絶対に知られたくないんだ。必要なら金は出すから人を使って調べてくれてもいい」
「…オーランド様がそこまで警戒される人物が?間者の洗い出し……レブレグイユの者ですか?」
「え?あ、いやいや!そんな大事じゃなくてな」
いやそんな国家レベルの調べものたのまねぇよ!
でもそうだな……レブレグイユね……フェリシアルートでのラストを考えるなら今から動くのもあり、か。その他にも戦争の火種になりうるものは事前に切除する為に、今から行動を起こした方がいいのかもしれない。
この世界は何処までゲームに似ているが、やはりゲームとは何処か違っている………後手後手になればいつか確実に詰みの状態が発生する。
ま、それはそれとして
「俺が頼みたいのはそんなデカい話ではない。ラーガル学園の生徒の調査だからやろうと思えば俺でも簡単に出来るが……如何せん相手に俺を気取られたくない。先方の戦闘力は未知数であり場合によっては殺し合いの戦闘に発展する可能性もある」
「そ、そのような逸材がラーガル学園に!申し訳ございません……調査が不足しておりました。」
「謝る必要はない、リリィの調査から漏れていると言う事はそれほどの脅威ではないのかもしれないしな…」
ある程度腕の立つものはリリィが事前に調査していたらしいが、その調査に引っかからなかったと言う事は大した事はないのかもな。少々警戒しすぎたか。
「して、その生徒の名前を伺っても宜しいでしょうか?」
「ああ……リリアナ=フレスヴェルグと言って…そうだな、ちょうどリリィみたいに赤い髪の女性のはずだ。染色している可能性もある…のかもしれんが、それはわか――」
「へ?」
突然、リリィが変な声を上げた。なんだ?
話の最中に声をあげるなど最近の彼女らしくもない……
もっとも、俺はそういうリリィも好きだけどな。
「ん?どうした?」
「い、いえ!なんでもございません!し、して!その…リ、リリアナは何ゆえに密偵の対象に!」
何だ……?
歯切れが悪く感じるが…まあいいか。
「そう……だな……」
これは言うべきか?
忠義に厚いリリィが暴走する可能性があるか?
ふむ……いいや、リリィはそんな馬鹿ではない。
密偵を命じればそれだけに従事するはずだ。
勝手な行動はとらない。
「うん、リリィにだけは話しておこう。リリアナ=フレスヴェルグ…いや、没落貴族だったからフレスヴェルグは名乗っていないか。まあとにかく、リリアナは……」
「リ、リリアナは……」
椅子の後ろからはやけに緊張したリリィの声が聞こえてくるが
「リリアナ=フレスヴェルグは近い将来にオーランド=グリフィアを殺す可能性がある。あくまでも可能性だがその確率は恐ろしく高い。」
とりあえず話を進めようと言葉を続けた俺の頭に
「えっ?!えぇぇえええぇええッッ!?!?」
リリィの絶叫が響いた。
「うわああッ!な、なんだリリィ……どうした?」
ここ最近聞いたことのなかったリリィの大声にかなりびびった俺は寝転がっていた椅子から飛び起きて、その拍子に飲み物を溢してしまった。なんなんだよリリィのやつ……
「なッ、なん!な、なんでもごやいまへん!」
しかし、流石にどうにも反応がおかしいので振り返ると、そこには額から大量の汗を流したリリィの顔が見えた。その瞬間、俺は自身の無神経に嫌気がさした。
しまったッ……クソがッッ!!
「馬鹿がッ!顔色が悪すぎるぞリリィ!体調が悪いなら休めとあれほど毎日言っているのに…全くお前は……!」
この炎天下でどれだけ戦っても汗一つ流さないようなリリィがこれ程までに顔色を悪くするのは、尋常ではない。側仕えの体調にすら気付かなかった自分の無神経さに嫌気がさした。
結局俺はいつも自分の事ばかりだな……クソ……
「あいや…はあ…ええ?」
なんだこれは……会話もままならないではないか……
「ほら、部屋までつれていくから大人しくしてろ」
「あっあにょっ」
「いいから黙ってろ。無理はすんなっていつもいってんだろ……ったく……悪かったなリリィ………」
急いで立ち上がった俺は、何事かを言いかけていたリリィをお姫様抱っこして彼女の部屋までつれていくことにした。
「あっあにょ!おぉお、おーらんど様、わわた…私はそのようなことは……」
「今更この程度の事で恥ずかしがるな、俺とお前の仲だろ。いいから今日は休め」
久しぶりに抱っこしたリリィはいつの間にやらデカくなっていたが……この重さは嫌いじゃない。好きな人も出来たようだし大切にしてあげないとな。
部屋に到着する頃にはリリィはぐにゃぐにゃになってしまっていた。一体どれだけ体調が悪かったのか……ちゃんと治るといいんだが……完全にやらかした。
従業員が壊れるまで働かせるとかブラック企業かよ……
何と言う事だろうか……ヒロインや主人公ばかり見ていて一番身近にいる大切な仲間の事をまるで見ていなかった。こんな状態になるまで側仕えを働かせ続けると言う完全なる悪役ムーブをかましてしまった。最悪の気分だ。
はあ……ごめんなリリィ……
お読みいただきありがとう御座います!
感想評価ブックマーク誤字脱字修正感謝です!
とりあえずこれだけ投稿しておいたので、明日明後日とかもしワクチンの副反応でダウンして投稿できなくてもご了承くださいm(_ _ )m




