scene.33 夏休みの予定表
夏季休暇、夏休み。
夏と言えば海、夏と言えばプール、なんていうのは前世の記憶であり、この世界には関係がなかった。
俺達は毎日屋敷のだだっ広い庭で楽しく汗だくになりながらの戦闘訓練をする毎日だ
「あちぃ……」
「暑いですわね!」
そして当然のようにグリフィア邸の庭に居るマリア=カラドリア
「なんでそんなに元気なのかは知らんが、毎度毎度何しに来てるんだよ……邪魔するなら家に来るなっていっただろ」
目の前ではギルバートがグレゴリーに教わった形稽古をしており、少し離れた場所でリリィとグレゴリーがバチバチに手合わせをしている。あいつらの手合わせは木剣であっても死人がでそうなので程ほどにしてもらいたい。
そして俺はその様子を横目に見ながら日傘の下に置かれた椅子に座って魔導書を読んでいるのだが、
「邪魔はしておりませんわ?この場だって私が用意したものではありませんの」
日傘も椅子も、マリアが用意したものなんだけどな。
「じゃあせめてアイリを連れて来い。話はそれからだ」
「嫌ですわ。オーリーはアイリがいるとアイリばかり構うではありませんの」
「そりゃアイリは妹だからな、相手をするのは俺の役目だ」
「またそれですの……アイリとてもう15になる女ですわ。オーリーがどう思おうと彼女は大人、どうせくっつくのなら私でいいではありませんの。それに私であればくっつき放題で触り放題ですわよ!」
「やめろ。夏は暑いからくっついて来たら殴るぞ」
マリアは相変わらず男漁りしまくってるんだろうな……ゲームの時ほどじゃないだろうが、別に貴族でもないマリアにとって男と遊びまくるのは悪いことでもなんでもないしな。ただ、出来ればその役に立たない肉食レーダーをもっと働かして身近に居る超イケメン主人公をさっさと食って欲しいものだ。
「オーリーからの叱責であれば喜んで受け入れますわ!」
「喜ぶな」
ツッコミを入れる元気すら湧いてこない。
前世の時から暑さは苦手だったが、こっちの世界でもそれは変わらなかった。
一応冷房のような魔導具はあるので快適に過ごせない事もないのだが、魔導具は魔力を流さないと動かないし、手動で動かすには限界があり、かといって涼む為だけに大量の魔石を消費するのは馬鹿らしい。
「ですが、そんなに暑いのならカラドリア商会に来ませんこと?」
「なんでだよ……あそこだって日差しは避けられるかもしれないが別に涼しくは無いだろ」
「そんなことはありませんわ!私の部屋はいつだって涼しいですわ!」
「なん……だと……?」
そう言えばマリアは馬鹿だったんだ……いや違った、馬鹿みたいに金持ちだったんだ。
冷房の魔導具を可動させるためだけにガンガン魔石を注ぎ込んで部屋を涼めていてもおかしくなかった。
ダンジョンの魔物は死体を放置しているとどう言うわけが掻き消えるようにして消滅するわけだが、その際に一定の確率で素材をドロップしたり、魔石と呼ばれる魔力の塊をドロップする。
ダンジョンの外、フィールドで魔物の死体を放置しても消滅する事は無いし素材は自分で剥ぎ取らなければならないが素材は確定で入手が出来る。しかし、フィールドの魔物は何百体倒しても魔石をドロップしない。魔石はダンジョンの魔物特有のドロップであり、これこそが冒険者の大事な収入源となっている。
魔石は高濃度の魔力が結晶化した魔力の塊だ。
その用途はいくつかあるが、専らは魔導具を稼動する為のエネルギー源として活用される。
魔導具には色々あって、小さな種火を起すためだけの単純なものから、ラーガル王城の王族の居住区に埋め込まれている悪意ある第三者が通れないようにするための結界のような大規模なものまで様々だ。そして、魔石の殆どはこれらを可動させるために使われているので、小さなものから大きなものまで良い値段で買い取ってもらえるし、ダンジョン攻略で少し大きな魔石がドロップすればその日は美味しいものを食べようと思えるくらいの稼ぎが出る。
そんな魔石をじゃぶじゃぶ注ぎ込んで部屋を涼めるためだけに使うとは到底信じられないが、到底信じられないほどに金をもった一族がカラドリアだった。
前世で快適な文明ライフを送っていた記憶があるせいで、涼しい部屋という誘惑は思いのほか魅力だが…
「ええ!オーリーさえよければいつでもいらしてくださいまし、朝から晩までずっと私の部屋にいてくださっても構いませんわ!寒くなれば私が温めて差し上げますわ!」
こいつの部屋じゃなければ即答してたんだけどな……朝から晩まで入り浸るつもりはないが、昼間の暑い時間だけでもマリアの部屋で勉強したり調べ物が出来ればとても快適なのは確かだ。
「寒くなったら部屋をでるから大丈夫だが……まあ、考えとく。行くとしてもギルバートとリリィも連れて行くしアイリも部屋に入れてもらう。それがダメなら行く事はまず無い」
「チッ」
舌打ちはやめろ
「あーでも……ダンジョン攻略しまくってもいいか…」
「……そうですわね……私をオーリーのパーティーに入れてくださるのであれば大賛成ですわ」
ダンジョンの中は一年中適温に保たれているので、暑くも無ければ寒くもない。
一部のダンジョンではめっちゃ暑いマップだったりめっちゃ寒いマップなんてのもあるが、そういう特殊なマップ以外だとダンジョンは大変過ごしやすい気温で保たれている。
「そりゃない……と言いたいところだが……」
どうせ行くのは下級ダンジョンの<ディカイ>と<オシュネー>だけだ。
前衛のマリア1人にギルバートの面倒を任せて、俺は後ろでリリィやアイリと楽しくお喋りをするのも悪くないかもしれないな……ふむ……
グレゴリー先生にギルの指南を任せつつ、成長を確かめるためにダンジョンに潜るのはそもそも予定通りだ。マリアはグリフィア邸にアイリを連れてきてくれないし、一度パーティーメンバーを組んでみるのも悪くないか?リリィがどういう反応をするかで判断するか。
「ギルを支援するなら人数は多い方がいいしな、考えとくよ」
「本当ですの!?」
非常に嬉しそうな声をあげて椅子から立ち上がっているが、マリアの為ではなくギルバートの為であり、俺がアイリともっと話したいからってだけだ。勘違いをするな。
お読みいただきありがとう御座います!
ついさっき2回目のワクチン接種終わりました
まだ何ともないです。




