scene.32 主人公を鍛えるとても強い人
「王都に来るのは初めてなんだっけ?」
3ヵ月ぶりに我が家、ラーガル王国王都グリフィア邸に戻ってきた……主人公と一緒に。
「はい!学園よりも人が多いんですね!」
「はっは、そりゃな。夏季休暇は結構長いし時間があるときに何処にでも案内してやるが、今日の所はとりあえず家に帰ってのんびりと休憩だ」
マリアの馬車に揺られる事3日。馬車の中は常に五月蝿く、予約していた宿もやはり五月蝿かった。
アイリと話せた事で癒されたとは言え、それを差し引いても疲労の方が強い旅路だった……
マリアの馬車は当然カラドリア商会に停まったので、俺とリリィとギルバートは3人でグリフィアの屋敷に向かっている。ケルシーは後ろからついてきていたアトワラスの馬車に乗り込みダニエルと一緒にアトワラスの屋敷へ向かい、フェリシアも同じく後ろからついてきていたリンドヴルムの馬車に乗り込み爆笑しているフレドリックと一緒にリンドヴルム領へと帰って行った……同じ馬車に押し込められた意味とは……
◇ ◇ ◇
「グレゴリー先生!ただいま戻りました!」
屋敷に戻れば誰よりも早く帰りを伝える相手は当然先生だ。
その次にお母様、使用人の皆さんだ。
「お帰りなさいませオーランド様」
いつも通りのちょび髭とメガネ、いつも通り燕尾服を身に纏っているグレゴリー先生が丁寧に腰を曲げて出迎えてくれた。昔から燕尾服を着ていて執事のように家に居た彼ではあるが、その関係も少しだけかわった。
グレゴリー先生は家庭教師ではなく、3年ほど前からグリフィア家お抱えの執事になっている。冒険者を引退しなくていいので、可能な限りグリフィア家で俺とリリィを指導して欲しいとお願いしたところあっさりと引き受けてくれた。
「学園で出来た俺の友、ギルバート=スタインだ」
「は、はじめまして!ギルバート=スタインと申します!」
「これはこれは丁寧にありがとうございますギルバート様。どうぞ私の事はグレゴリーとお呼びくださいませ」
グレゴリーもこの数年で少しだけ老けたような気がするが、元々白色の髪なのでぱっと見ではあまり変化している所がわからない。
「先生、夏季休暇の間ギルの稽古をつけて欲しいんだが、問題ないですか?」
「もちろんでございます」
俺はグレゴリーをノインツ教官と同じかそれ以上に尊敬している。
この6年で俺もリリィも学園で学ぶ必要がない程度には知識を身に付けたが、それは全てグレゴリーから教わったものだ。何を聞いても大体は答えてくれるし、彼の授業は学園の講師連中よりも遥かにわかりやすい。
学園が始まれば主人公とヒロインの動向を探るためにかなりの時間を割く可能性があったので、学園でするべきの勉強時間を削れたのは本当にありがたい。もっとも……折角グレゴリーのおかげで出来た学園での余裕もありとあらゆる方向からの邪魔によって無意味に終わっているが。
「ギルバート様は剣をお使いになられるのでしょうか?それとも槍を?」
「基本は剣だが、余裕があれば格闘術から頼みます。剣でいいよな?」
「はい!やっぱり剣がいいです!」
尊敬する理由は多々あるが、何よりも敬意を払っているのはその強さだ。
初めてグレゴリーの授業を受けてから6年以上、俺は最近になってようやくグレゴリーの強さが理解できるようになってきた。確かに魔術に関しては彼から学ぶ事は最早無いかもしれないが、グレゴリーの戦闘技術は魔術などおまけ程度でしかなかった。
彼は剣も槍も弓も……武器を使った戦闘技術はもちろん、素手による格闘も異様に強い。
剣術だけでは俺がとても敵わないフェリシアの兄フレドリック=リンドヴルム……グレゴリーはそのフレドリックと互角以上に遣り合えるリリィをまるで赤子をあやすように相手をする。
フレドリックが一目置くリリィがグレゴリーの前では幼子のように手も足も出なくなってしまうのだから、その強さは計り知れない。
昔はよくわからなかったが、最近になって自分が強くなってきてようやくグレゴリーの強さが理解できるようになってきた。昔から尊敬していたが、彼の戦闘技術に気付いてからはより一層敬意を払うようになった。
「本当は俺も色々と教えを請いたいが、夏季休暇の間はとにかくギルを頼みます」
「仰せのままに」
「よ、よろしくお願いします!」
無理に叩き込む必要はないが、それでも多少きつくてもギルには強くなってもらわないと困る。
近接戦闘はグレゴリーに任せ、俺は勉強と魔術を叩き込む。ゲームと同じであればギルも俺と同じく4属性の魔術を扱えるはずだからこちらも平行して教えないとな。
「そう固くなるなって、グレゴリー先生は怖い人じゃないし教え方がとても丁寧でわかりやすい!この夏みっちりと鍛えてもらえば学園ダンジョンの10階や20階くらいならギル1人でも突破は余裕になるぞ!」
「お褒めに預かり光栄ですが、ダンジョン攻略はくれぐれも御1人では参られないようにしてくださいませ」
「もちろん!さて、今日は美味しいものを食べてしっかり休憩するぞーギルーリリィー」
「畏まりました」
「お世話になります!」
主人公を鍛える悪役ってのも悪くないかもしれないが、こういうのって最後は敵対したりするパターンもあるし大丈夫だろうか……ちょっと怖いな。
ちょっと怖いが……アイリーンルートや、最強のヒロインと呼ばれているリリアナルートを想定するなら主人公を鍛えなければ話にならないからな……はあ……
お読みいただきありがとう御座います!




