scene.03 これまでとこれからと Ⅲ
マリアは上級冒険者には上がれないだろう。
だがそれでも、その強さは本物だ。
カラドリアの血を引き、元々英才教育を施されていた彼女の頭は非常によく、マデリンやその他にも何人もの優秀な護衛からありとあらゆる技術を貪欲に吸収していった。
その結果、そんじょそこらの冒険者や賊ではどう足掻いても太刀打ちできないような異常な強さを手に入れてしまった。
そして今も……
「やっ!離れっろっ!!!フェリシアに殺される!!!」
「そんなもの黙っていればバレませんわ!!!」
いくら俺が酔っ払っていてちょっと頭が回っていないからといって、グレゴリー先生にすら褒められた俺の身体強化魔術<纏>を軽々と押さえつけられるようになっていた。なんてやつだ!!
どんだけ鍛えてんだよこいつ!
俺だって健全な15の男だ!
マリアみたいなナイスバディの女となら大人の階段を登りたい!
だがだめだ!!
フェリシアは言っていた……
『マリアがその気になればオーリーは死ぬ』と。
その気ってのがどの気なのかは知らないが……
これがバレたら俺は殺される気がする!嫌だ!!
片手で俺の手を抑えながら、マリアが器用にも服を脱ぎ始めたところで……
「ッ!!!!」
赤い閃光が助太刀に現れた。
「お見事ですマリア」
音も無く部屋の扉を開けたリリィは目にも留まらぬ速さでベッドの上のマリア目掛けて飛び蹴りを放ったものの、マリアもまた尋常ならざる速度で反応しその攻撃を紙一重でかわして窓際へと着地した。
「ちっ……思ったより早かったですわね。お風呂の準備はちゃんとしましたの?」
「胸騒ぎが致しました。オーランド様、ご無事ですか?」
そうして窓際に飛びのいたマリアから俺を庇うように、
拳を構えたリリィが背中越しに声をかけてきた。
カ、カッコイイ……!!!
「なんとか無事だ、助かったよリリィ……イテテ……マリア、今日は俺が油断したが次はない。どうして俺を狙うのかは知らんが、諦めて帰れ。そもそもお前なら男なんて選り取り見取りだろうが」
「おーーほほほほ!!他の男など見るに耐えませんわ!ですが……本日はここまでのようですわね……また来ますわ!オーリーは首を洗って待って……いいえ、洗わないで待っていてくださっても構いませんわ!」
そう言うとマリアは牽制に雷の初級魔術をリリィに放ち、
着崩れた衣服のまま窓の外へと半裸で逃げていった。
なんて女だ……へ、変態じゃねぇか……
「くっ……申し訳ありませんオーランド様。賊を取り逃がしました」
急ぎ窓に近寄ったものの、どうやらマリアの姿はもうなかったらしい。
「いいや、いいさ。あいつも適当に好みの男をみつければすぐに元通りになるだろう」
ゲームでは好みの男を見つけたら彼女が居ようが結婚していようが金の力で手に入れる、みたいな説明があったような気がするし、いい感じの男を見つけたらそっちとよろしくやるだろ。
「……そうでしょうか……マリアはそういう女性ではないと思います……」
リリィがそういうならそうなのかもしれないが……
この2人は日夜戦いを繰り広げているが変な所で仲がいいと言うか、認め合っているというか。悪友とかそういう感じなんだろうか。
フェリシア、ケルシー、マリア……
関わりたくもないヒロインの3人と未だに縁が切れずにいるのは完全に俺のミスだ……関係ない、どうでもいいと思いつつも、ついつい相手をしてしまった。
まあ……変に敵対するよりはある程度信頼されている方が主人公とくっついた後も俺の事を即座に殺さないでいてくれる可能性だってあるからな。全部が全部無駄という事はないはずだ…多分。
冒険者ランクこそ上級に上がったし、戦闘もそれなりにこなせるようになったと自負しているが、肝心のヒロイン達から距離を取るという目標を完全に失敗したまま、ずるずるとここまで来てしまったが……
しかし!それも今だけだ!!
来週から学園が始まり、彼女らが主人公と出会ってさえしまえばこちらのものだ!
運命の人と出会ってしまえばヒロイン全員が主人公の側から離れなくなる。今まで四六時中ヒロインや王女の相手をしていたせいで時間がなくて中々決められなかった逃亡先の国の選定もできるようになる。
18歳までの残り3年の間に、1人でこの世界を生きていく為の準備を心置きなく進めることができるというものだ。
後は、主人公が誰とくっつくのかという点と、残り2人のヒロイン、リリアナとアイリーンとは絶対に接触を避けるということだ。既に3人と接触してしまっているので今更だが、これ以上リスクが増えるのは好ましくない。
主人公がくっつく相手次第でゲームのラスボスは変化するし、オーランドの死亡するタイミングも変わる。その為、極力接触を回避しつつ主人公の動向に気を配る必要もあるのだが………一体どんなやつなんだろうか……主人公……
まだ会ったことは無いが、主人公の名前はもう知っている。
ゲームの導入部分……戦いは既に始まっている。
数ヶ月前シャーロット王女殿下が『所用で隣国に行った帰り道で魔物の群れに襲われていたときに助力してくれた少年が居たのでラーガル学園へ招待した』という話は既に聞きだしている。
『主人公が魔物に襲われている王女を助ける』……これはそのまんま『グランドフィナーレの向こう側』のプロローグだ。
つまり、ゲームはこの瞬間に始まってしまったと言う事だ
そうだ……
火蓋は切って落とされてしまった、もう後には戻れない。
いよいよ本当の戦いが始まる。
そうだよな主人公……いや……
ギルバート=スタイン
悪役は主人公の邪魔はしない
悪役は主人公を否定しない
悪役は主人公に関わらない
なんならお前の恋を全力で応援してやる
だから頼むぞ……
平穏無事にヒロインとくっついてくれよ?
お読みいただきありがとうごさいます!
導入話はあと少しだけ続きますm(__)m
本編開始までは前作を読まれたりしてお待ち下さい