scene.28 餌付けは基本
一学期の終盤
そろそろ日差しも強くなってきた頃、俺とリリィは主人公の手伝いをしていた。
手伝いとは言っても学園ダンジョンに同行するだけの簡単なものだし、ギルの手伝いでダンジョン攻略をしている間はヒロイン連中の相手をしなくて済むので、外に居るよりも有意義な時間を過ごせたかもしれない。
「本当にありがとうございました!何とお礼を言えばいいか……」
「気にすんなって、いつも言ってんだろ。頑張ったのはギルであって俺もリリィも同行しただけだ」
「私はオーランド様の指示に従うまでです。何も問題はございません」
ギルバートはあまりにも勉強が出来なさ過ぎてあわや退学の危機に直面していた。
そりゃまあ、読み書きも碌に出来ない人間がテストを受けて良い点数が取れるわけがないよな……
そこで、実技の成績だけでも確保しようとダンジョン攻略に乗り出したのが先週だ。
ラーガル王国の初代国王やグリフィア、アトワラスの初代様、ラーガルを築いた偉大なる先人の方々はみんながみんな冒険者だった。その頃には冒険者ギルドなんてものはなかったらしく、冒険者ギルドの雛形のような組織はあったとかなかったとか……その辺の話はどうでもいいのだが、国の成り立ちが……偉大なる祖が冒険者の奮闘だったということもあり、ラーガルの貴族達は学園に入ると全員が冒険者に登録する。
他の国から来た貴族連中はあまり興味ない連中もいるが、初代ラーガル王が偉大な冒険者であったこともありラーガルの貴族は冒険者に一定の敬意を持っている。
そんなこんなで、ラーガル学園ではダンジョン攻略をする授業が取り入れられている。
冒険者ギルドとの付き合いもかなり古いらしく、ラーガルに入学した者は冒険者ランクが下級の一番上<腰>と同等の実力があると評価され、一部の簡単なダンジョンにだけ特別に攻略許可が下りる。
実際に冒険者ランクが<腰>になるわけではないので、色んなダンジョンに行きたいならコツコツと冒険者ランクをあげないといけないが、ラーガル学園の傍にあるダンジョン<アンドレイア>や、王都近辺にある下級ダンジョン<ディカイ>や<オシュネー>は問題なく入れる。
「それでも、お2人のおかげで安心して1学期を修了できます!」
そう言うと、ギルバートは身体いっぱいで感謝を示してきた。
1学期を通してギルと付き合ってきたわけだが、彼は見ていて気持ちの良い性格をしている。目の前の事に一所懸命で、弱音を吐かず常に前向きで、周りに流される事なく一歩ずつ着実に前に行く。
惚れ惚れするほどの主人公だ。
学園に入ってから心休まる日は無かったし、結局一学期の間ヒロイン連中はギルバートとの関係を発展させてくれなかったが、ヒロイン連中や主人公との関係は良好…………だと思う。
故に、早ければ1年の後半にあるオーランド=グリフィアの処断イベントは回避出来るのではないだろうかと淡い期待をもち始めている。
「そういや夏季休暇はどうするんだ?俺は一度王都の屋敷に戻る予定だけど、と言っても3日もあれば行ける距離だしちょっと顔を出してすぐに帰って来るが。」
冒険者ギルドを覗いてみて指名依頼があれば処理するために暫く王都に滞在する予定ではあるが、今は極力ギルバートの育成に専念したい。
「僕は………ちょっと……家が遠いので………そ、それに!学園の食堂は夏季休暇の間も開いていると聞いたのでこっちに残ろうかなと考えています!」
「そうか。実家遠いのか……良かったら送迎するぞ?」
こいつの実家とやらにも興味がある。
主人公や勇者の家ってのは実は物語の秘密が隠されているなんてパターンもあるし、ちょっとお邪魔して親御さんの機嫌もとっておけば俺はもう主人公一族から命を狙われる心配もしなくて済むしな!
「いッいえ!学園のご飯美味しいので!」
「そうか?まあ遠慮しなくていいからな」
バリバリの平民であるギルバートにとってはここのご飯を食べる事の方が家に帰るよりも優先度が高いのか………ほう?
「あ、じゃあさ?夏季休暇は王都の俺の家来いよ!めっちゃ美味いもん用意するからさ!」
美味しいご飯が食べたいと言うのであれば、折角だしこの夏季休暇中に3大欲求のひとつである食欲を掌握しよう!
餌付けは最強だ!リリィが証明しているしな!
ギルバートの言う美味しいご飯がどんな物を指しているかはわからないが、マリアに注文すれば色んな国の料理を用意してくれるだろう。
「お、美味しいご飯、ですか?」
掛かったな!正直な奴め!
「そうだ、だからどうだ?なんなら夏季休暇の間、勉強は王都でしてあっちにある下級ダンジョンを攻略しながら修行だってできるぞ」
学園にいると絶対にヒロイン連中に邪魔をされるからな、フェリシア、ケルシー、マリアがギルにとってのヒロインじゃないのだとすれば、そっちに割く時間が勿体無い。
リリアナはよくわからんので、少し怖いが来年入学してくるアイリーン=ラタトシア一点狙いでいく。
「で、でも……そんな僕、お金もないので…」
「なんだそんな事か。んじゃあ夏季休暇は王都の冒険者ギルドで金を稼ぎながら勉強をしよう。ついでに俺の家で美味い物を食えばいい!決定な!」
「え?あ、はい!」
少々強引だったが、これで俺の家で2人きりで勉強が出来る。しかも下級ダンジョンに連れ回しまくってパワーレベリングの要領で冒険者ランクを上げさせる事も出来る!
あくまでも来年入学してくるアイリーン狙いではあるが、夏の間に主人公が見違えれば、フェリシア、ケルシー、マリアだってギルバートに惚れてくれるかもしれないしな!
それとは別にリリアナについての情報もいい加減に集めよう。アイリーンが駄目だった場合はリリアナしかいないからな……俺は情報収集能力が酷すぎるようなので……リリィに頼んでグリフィアが探りを入れているのがバレないように調べあげてもらおう。
探りを入れているのがバレたら喧嘩になったりするのかな…リリアナめっちゃ怖かったもんな……
ま、まあ……ヒロインが決まればあとは勝手に世界がそのヒロインのルートに合わせて動いてくれるだろう。悪役が毎回安心したり楽観的になると即座に世界が否定してくるように、いい感じに世界が動いてくれる事だろう。
そうして俺は主人公とヒロインがイチャイチャしている横で彼らの前に立ち塞がる諸問題の解決を手助けし、世界が安全に回ると判断した段階で逃亡の為の本格的な準備を始めるわけだ………
夏が楽しみだ!
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