scene.24 何も残らないとしても
「はあぁ……つかれたー……」
「お疲れ様ですオーランド様」
寮生活ということもあり勉強は陽が落ちてからもしばらく続いた。
もちろん陽が落ちる前にシャーロットにはご帰還願った。いつもはベッドでゴロゴロしながら質問が飛んできたときだけ答えていたのだが、今日はそうもいかずギルバートの隣に座って習熟度をマジマジと観察する羽目になってどっと疲れてしまった。
グレゴリー先生達のような家庭教師はほんとすげーよ……
「リリィも助かったよ色々と。今日はもういいから自分の部屋に戻っといで」
リリィは生徒として入学しているので女子寮にも部屋があるのだが、男子寮と女子寮は距離があるので俺の側仕えとしても登録している事から男子寮の近くにある使用人が寝泊りする建物で殆どの生活を送っている。
使用人と一緒に部屋で寝てるやつもいるらしいが、それは人それぞれだ。俺だってリリィが女じゃなければ一緒にここで寝泊りしていたかもしれないが、彼女ももう妙齢の女性だからな。昔のように井戸に連れていって身体を洗ってやっていた時とは何もかもが変わってしまった。
「お言葉に甘えて今日はここで失礼させていただきます」
元気で五月蝿く傍若無人だったリリィは6年間で見違えるほどに成長した。
それは肉体的にも、精神的にもだ。
服装こそいわゆるメイド服と呼ばれるものを着用しているが、子供の頃はいつも何処か汚れていた髪は今では綺麗に手入れされており、原色をぶちまけたような美しい赤髪を後ろでひとつに纏め、いつからか化粧までするようになった彼女は贔屓目に見なくとも美人だ。そして…
『私達2人で誰よりも強くなるのよ!いいわね!』
いつからか、彼女はこの台詞を言わなくなった。
それをちょっと悲しく感じている自分がいる。馬鹿馬鹿しい目標を持った2人は、成長とともに大人になってしまった。俺の魔術は中々のものではあると自負しているが、剣技は未だにグレゴリー先生に褒められた事がない…その程度だ。逆にリリィの剣技は王国でも……いいや、大陸でも上から数えた方がいいくらいには強いように思うが、魔術はからきしだ。
リリィはどんどん賢くなりどんどん強くなって、俺はそれを追い駆けている。俺達は最強にはなれないと何処かで限界を感じてしまったのかもしれない。リリィは何も言わなくなったが、それでも俺が思い出すのはいつだってあの日……いつか2人で最強になろうと誓った薄汚い路地裏だ。最強か……
「あの……オーランド様」
「なんだ?」
部屋から出て行こうとするリリィが振り返りながら声を掛けてきた。
「その……もしお辛いのでしたら、夜の御勤めは私が致します。フェリシア様より許可は頂いておりますので問題―」
「ぶッ!!!?」
ビビった、心臓が口から飛び出るかと思った。
っていうか許可ってなに?
「待て待て!申し出は嬉しいがそれはいらん!リリィを専属側仕えにする時にも言ったが、こうやって側仕えの仕事をすること自体させるつもりはなかったんだ。お前とはただ…パーティーメンバーとして背中を合わせて……」
2人で最強になりたかっただけだ……
こんなに色々と仕事させる気はなかった。
そんな気を遣わせるつもりじゃなかった。
「申し訳ございません。失礼致しました」
「まあなんだ……そういうのは俺じゃなくてリリィに好きな奴ができてからすればいい」
もう限界なのかもしれないな、リリィを利用するのは……
ゲームに関係ない女の子。この世界で出来た初めての仲間。
この子には幸せになって貰いたい。早くオーランド=グリフィアから解放したほうがいいはずだ。俺が国を捨てる事も、家族を捨てる事も、全てを捨てて出て行く事を……まだリリィにも教えていない。
言えば付いて来るだろうか……
もし付いて来てくれるのなら、俺は彼女を生涯大切にしよう。だが、まだ言えない。リリィが俺の国外逃亡に反対すれば情報は瞬く間に周囲に拡散する。彼女にこの事実を告げるのは俺がこの地を去る直前だ。
リリィにだけは告げて出て行こう。
「好きな人であればよいのですか?」
「え?」
いるの?好きな人?
いやまあリリィだって15歳の女性だ。恋愛どころではない俺と違って好きな奴の1人や2人、3人や4人居てもおかしくないか。しかし、全然気付かなかった……
リリィはスタイル抜群のモデルさんみたいに成長したし、冒険者ギルドでもダンジョン攻略の待ち時間でも、王都を歩く時でも、この学園でも目立ってるし、あのフレドリックもマジなのか冗談なのかリリィが欲しい欲しいと何回か言っていたくらいだしな。
この学園では自由にしろと言って日中は好きにさせてたしな……美人さんに育ったリリィのことだ、知らない間に男が出来ていても何もおかしくはないな。
「そうだな…いいんじゃないか?相手との同意があればリリィは何をするのも自由だ。好きな相手がいるのならその人とよく話せばいい」
リリィがこの地で幸せになるというのであればそれでいい。
悪役には何も残らないことなど初めからわかっていたことだ。
俺はせめてリリィの幸せを遠くから願おうじゃないか。
「畏まりました。それではフェリシア様に相談してみます」
「おう、そんじゃおやすみー」
「おやすみなさいませ、オーランド様」
そうかー…あのリリィに好きな人がねー……
この先もし好きな奴とパーティー組みたいって言うなら素直に解散してあげよう。
そんな事でリリィとは揉めたくないからな。
俺は懐かしい夢を見た。
馬鹿な俺と馬鹿なリリィが約束した、汚い路地裏。
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