scene.20 主人公と言う名のオアシス
俺が生きる為にするべき次の作戦は決定した。
ギルバートを立派な主人公に育て上げてアイリーンとリリアナを攻略させる。これだ、これしかない。多分。
「さてギルバートくん、早速だが始めていこうではないか」
「はい!よろしくお願いします!」
という事で
主人公を悪役の部屋に連れ込んで勉強を教える事にした。
もはやフェリシア、ケルシー、マリアの3ヒロインに期待などしない。アイリーンと、マジで何処にもいないリリアナのどちらかのヒロインのルートであると信じて主人公を鍛え上げることにした。
それはそれとして
ギルバートの育成を開始したところ思わぬ発見をした。
それは別にギルバートが賢いだとか馬鹿だとか主人公に関する発見ではなく、3ヒロインズについてだ。
毎日何通もの手紙を送り付けてきて学園では何を言うでもなく気が付けば笑顔で俺の後ろを歩いていたフェリシアも、隣にフェリシアという婚約者がいてもお構い無しに全力で飛びついてくるケルシーも、隙を見せればオーランドを(性的に)襲ってこようとしていたマリアも
俺がダメもとで『ギルバートと……男友達と遊ぶから邪魔をしないでください本当にお願いします』と言ってみたところ、絶対に無視されると思ったそのお願いはすんなりと受け入れられた。
『友人は大切にするべきですね。構いませんよ、お二人の時間は邪魔いたしません』とフェリシアが即答すると、何かを言いかけていたケルシーもマリアも口を噤んで首を縦に振ってくれた。ケルシーあたりは遊んで遊んでと文句を言ってくるかと思ったが実に意外だった。
ギルバートと一緒に居ると3ヒロインズが手を出してこない。
これは素晴らしい発見だった。
おかげでここ数日は放課後になるのが待ち遠しい。
なんせ……これまでずっとだ……前世の記憶が戻ってからというもの、ヒロイン連中と距離を取ろうとすればするほど何か恐ろしい力で余計に纏わりつかれる生活を送っていたからな……いつ奴らの機嫌を損ねて首を刎ねられるかを考えると恐怖で寝れなかった日もあったくらいだ。
安寧、平和、幸福、この6年間でこれを感じたのはリリィやアイリと話している時だけだったが……認めよう主人公、お前もまた悪役にとってオアシスであることをな!
「あの……オーランド様はどうしてこんなによくしてくれるんですか?」
ベッドで寝転がってだらけきっている俺に、机に向かいながら勉強をしているギルバートが話しかけてきた。
学園の生徒は寮生活を送る事になるが、何も1部屋6畳とかの部屋に押し込められているわけではない。
この学園は大陸中から優秀な貴族が集まり世界をよりよく発展させていく為に、未来を担う若者が国を越えて互いに切磋琢磨するための場ということになっているので、寮といっても王都の平民が生活している家よりはるかにでかい。
あんまりお金のない貴族も30畳前後の部屋で生活しているし、グリフィア家のような上級貴族になると何に使うのか知らんが100畳以上ある部屋が割り当てられる。使用人は2人までは連れていけるし、自分でやらなければならないこともそう多くない。マリアや王女であるシャーロットなど、各国の王族やお偉い貴族連中は学園の敷地内に屋敷を建ててそっちで生活しているし、前世の日本での寮生活とは全然違う。
寮を出れば武具を取り扱った商店も高級衣服を取り扱う店もあれば雑貨屋もあるし、食堂だけではなく飲食店もある。
学園とは呼ばれているが、実際の所は貴族や優秀な平民などが集まって小さな街で生活しているってほうが正解かもしれない。
「そりゃギルが頑張ってるだけだ。俺は何もしてない」
勉強は自分でやる気にならないとどうにもならないものだ。教えられる事をただ聞いているだけではあまり身に付かないので、結局は本人のやる気次第だ。
「そんな事はありません!僕は平民でオーランド様はお貴族様です。本当なら僕のような人間に―」
「あー……本当にそういうのは気にしなくて良いから、黙って勉強をしとけ。後、俺に様付けはいらん」
身分差ね……前世では感じた事のない独特な感覚だな。
金持ちを羨ましいと感じた事はあったが、それともまた少し違うのだろう。
「ま、どちらにしても感謝される謂れはない。俺は俺の目的のためにギルバートを支援しているのであって、別に施しを与えているつもりもなければ助けているつもりもない。寧ろ俺が助けられたいからこその支援だ。」
「助けられたい…ですか?」
申し訳なさそうに喋るギルバートを見るがしかし……ことあるごとにあのイケメンスマイルで感謝されると罪悪感が沸いてくるな……なんかないか…?なんかこう…ギルバートがこっちに気兼ねなく……
「あ、ほら。そもそもギルはこの国の王女殿下、シャーロット様から招待されて学園に来たんだろ?」
「え?あ、はい!綺麗な馬車に魔物が集まっていたので、なんとかしないとと思って。そしたら……魔物にめちゃくちゃにされてしまって………死にそうになりました」
「そ、そうか……いや、それはまあ置いとくとして……とにかくギルはその時の功績をシャーロット様に認められてここに来たんだから、何もそう卑屈になる事はない」
「功績ですか?あの、僕は地面に転がっていた記憶しかないのですが……」
「それでも、だ。あのシャーロットが平民を認めるなんて大したものだ。あいつはあれで平民に厳しいからな」
「えッ!?そうなんですか?とても優しかったですよ?」
そりゃお前ほどのイケメンなら泥に塗れていようが女は優しくなる
「そうそう、昔俺の専属側仕えが掃除から帰ってきた時とか臭いだのなんだのいってめっちゃ怒ってたからな……」
その後、久々にあったら別に怒ってないとか言ってたけど……あれは怒ってた怒ってた。仮にギルバートが出会ったお嬢様を優しく感じたのであれば平民に優しいわけじゃなくて、ギルバートに優しいだけだろうな。
「そんな事があったんですね……あの、それってリリィさんのことですよね?リリィさんのような人が怒られる事なんてあるんですか?」
昔はちょっと声がでかくて口が悪くて態度が悪くてすぐ人に殴りかかったけどな。
「うむ。つまりお前は凄いやつだギルバート=スタイン!あのシャーロット相手に怒られるどころか学園に招待されるような人間はそうそう居ない!そもそも、シャーロットの推薦枠で入学した人間はギルが始めてだ。そう、自信を持てギルバート!お前はやればなんだって出来る!お前は主人公だ!」
「しゅじん?」
「という事で、俺の事は特に気にするな。この国の王女が認めた相手を手伝うのは臣下の役目だ。ギルは好きなだけ俺の部屋で勉強をして必要なものがあればいつでも俺かリリィに言って、1日でも早く学園の勉強においつけばいい。それがお前を学園に招待してくれたシャーロット様への恩返しだと思えばいいし、もし俺に恩を感じるというのであれば遠慮をしないで何でも言ってくれる事が一番ありがたい」
「なるほど…!わかりました!」
そう言うとギルバートは机に向かって黙々と勉強を再開した。有り難い。本当にありがたい。
ギルからの質問が飛んでくるまでの間、俺はベッドで寝転びのんびりと作戦を考え――
トントン
――ようとしたその時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
リリィだろうか?
しかし、彼女は図書館で調べものがあると言っていたはずだからまだ寮には帰っていないはずだ。
フェリシアならそもそもノックをしない
ケルシーならノックの前に声がかかる
マリアは窓から侵入する
じゃあ誰だ……?
自慢ではないが俺に友達はいない。寮で遊ぶような男友達はいないのでノックをしてくる相手に心当たりがない。
嫌な予感がする。俺の平穏が早くも潰されるような嫌な予感がする。居留守を決め込もう。
「オーランド様!僕が開けますね!」
そう思ったのもつかの間、ギルバートは嬉しそうにドアに駆け寄っていた。
ベッドで寝転がっている俺の代わりに来客対応してくれるとは、なんて気の利くやつなんだ……って違う!
「あ!やめッ!」
ガチャリとドアが開く音と共に
「こ、これはお、お久しぶりです!!」
ギルバートの焦った声が聞こえてきて
「ふふふ、こんにちは。学園は楽しいですか?」
あー………
「もちろんです!王女殿下!」
放課後は出現位置を生徒会室に固定されているはずのキャラが
「オーランド、こんにちは……来ちゃいました」
遠距離恋愛で連絡無しで突然押しかけてきた恋人のような台詞を呟き来訪してきたのであった。
お読みいただきありがとう御座います!
誤字脱字報告に感謝を!
シルバーウィークらしいので、自粛してる方に向けて毎日複数話投稿するような……しないような……




