scene.19 高難易度ルートへご案内
「どうして報酬がないのですか?」
「逆にどうして報酬がもらえると思ったんだ?」
あの後、ギルバートと別れ人気のない教室までフェリシアについて行くと、すぐに報酬を要求してきた。
女服をプレゼントすることが何の助けになるというのか、仮にギルバートが女装をしてそれで寄って来る男がいたとしてもそれは極めて特殊な世界に生きている人々だ。
いや……?
日本にだって古くから衆道って言葉があったくらいだ。あれ程のイケメンが女装をすればそれなりの需要はあるのか?一見するとフェリシアはただのヤバイ奴にしか感じなかったが、これはこれで別段に特殊と言うほどのものでもないのか……?
いやいや!今そんなことはどうでもいい。
問題はギルバートの女装が彼の助けになるかどうかという所だが、なるわけがない。
だから、当然報酬なんてものは無いといったのだが
「話が違いますオーランド様。ギルバートなる平民を手助けすれば報酬をいただけると仰られたからこそ、私はオーランド様に割くための貴重な時間を使ったのですよ?」
「そ、そんな目で見てもこれはダメだ。俺は彼を手助けしたらと言ったんだ。一緒に勉強をするとか、一緒に食事をするとか、放課後にちょっと遊びにいくとか、そういうのを期待して言ったんだよ」
そしてあわよくばくっついて貰おうとおもったのに……
「は?」
俺がそこまで言うと、高圧的な単音とともにフェリシアは笑顔をやめて俺を睨んできた。
こっわ!睨むのをやめろ!フレドリックと戦ってるときよりなんか怖いわ!俺が報酬をあげないって言ったのがそんなに気に食わないのか、なんて奴だ……
「いくらオーランド様のお願いだからって……私じゃなくて、ケルシー様やマリアだってそこまでは付き合ってはくれないと思いますよ」
フェリシアの目は冷たい。本当に冷たい視線だ。
何故そんな事をしなければならないのか、するわけがないと言う強い拒絶だ。
「そうか……」
そこまでは付き合えないって、お茶したり食事したりして一緒に遊ぶだけだろう?
俺が悪事を働かないように監視する為なのかどうかはわからないが、意味もなく後ろを付いて歩いてる暇があるならちょっとはヒロインとして動いてくれてもいいじゃんか……
「もう報酬など要りませんが、二度と私にそのような事を言わないでください。不快です」
リンドヴルムは闇に墜ちた龍を殺しその血を浴びて龍の力をその身に取り込んだ者の末裔だというが……フレドリックといい今のフェリシアといい、確かに……威圧する時のオーラは人間が出せるものではないような気がする。
フェリシアより圧倒的に強いはずの俺が竦むし、俺よりも尚強いリリィですらフェリシアに睨まれると動きが鈍ると言っていた。
「あ、ああ……悪かった。ごめん。」
そのような事ってなんだ……
フェリシアはただでさえ何考えてるのかわからないのに、ゲームとは全然違う成長をしているせいで余計に何を考えているのかがわからない。今の彼女が怒っているのはなんとなくわかるが、報酬の事ではないのか…?
「悪いと思っているのでしたら態度で示してください」
「わかった。なにをすればいい」
ん?なんかこのやり取り最近どっかでやったな
「キ……いえ……さあ、ハ……私をハグしてください……えっと……ダ、ダンスで抱きしめるように」
「あ?ああ、ダンスか。いいよ」
フェリシアはダンスが好きだからな、なるほど。
ハグだなんて言うから一瞬何事かと思ってしまった。フェリシアはそういうのが本当に嫌いだからな……手を繫ぐのすら飛び上がって逃げるような奴だ。
婚約者に手を触られるだけで飛びのくってどんだけ俺の事が嫌いなのか知らんが、そのくせもっと過激にくっついたり離れたりするダンスは大好きなようで学園に来ても毎週末は必ず俺に相手をさせる徹底振りだ。ゲームではダンス好きなんて設定なかったような気がするけど……裏設定みたいなのがあったのかな。
そして、ダンスは静かに始まった。
2人きりの静かな教室で、
曲のかからない息遣いだけが聞こえるダンスが。
「ごめん、フェリシアを怒らせるつもりはなかった」
「いいですよ、もう怒っていません」
フェリシアが単身でリンドヴルムから王都に来た時以来、彼女は毎月必ず王都に来るようになった。
毎月のダンスはその時からずっと続けている。その時間だけはたとえシャーロットからのお誘いがあってもフェリシアが絶対に断るので、彼女のダンスに対する熱量は本物だ。
練習ではない、観衆もいない。人気のない2人きりの教室でゆっくりと踊るダンスは何処か懐かしい。フェリシアは覚えてもいないだろうが、王城のバルコニーでのダンスを思い出す。
「そんなにあの平民を助けたいのであれば、もうオーリーが動けばいいじゃないですか」
ステップを踏み顔を近づけての会話
この時だけ彼女は俺の事を愛称で呼ぶ。とても優しい声だ。
「ああ、色々と踏ん切りがついたしそうするつもりだ」
主人公から隠れるのはやめだ。
当初の作戦通り、王の前で処断されるような事がないようにギルバートには優しく接して、バリバリ支援をしていく方針に変更することにした。
「そうですか……オーリーは……」
「ん?」
「その……わ……私が……その…欲しいとは、思わないのですか?」
「欲しいもなにも婚約者じゃないか。俺はエリーのもので、エリーは俺のものってことじゃないのか?」
「……まあ……そうですよね。今は、それでいいです」
曖昧な会話を続けながらダンスはしばらく続いた。
しかし困った。
主人公が誰のルートに進むのかがわからないせいで、この先の展開が読めない。
彼が誰とも付き合わないならそれはそれでありなのだが、今のギルバートでは<覇王エンド>と呼ばれる上級冒険者になるというエンディングは迎えられないだろう。あれは周回プレイ前提のエンディングだ。
下級ダンジョン<ディカイ>と<オシュネー>が内部で繋がり、真層<ディカイオシュネー>と呼ばれる最難関ダンジョン出現し、これを攻略するルート………あれはゲームだからこそ出来たものであって現実世界となった今、あんなダンジョンを攻略できる人間がこの世界にいるとは到底思えない。
フェリシアルートに進めば最強のラスボスとよばれるフレドリックとの戦闘があるが、物語としてはリンドヴルムと国境で接している同盟国とあわや戦争という展開をフェリシアとギルバートが解決するというのがクライマックスだ。
同盟国との戦争など今のラーガルにそのような気力はない。軍事力だけでいえば問題ないし万が一にも負けはないだろうが、同盟国と戦うという事実が王家の威光が弱体化している今のラーガルにはあまりにも重すぎる。主人公がこのルートに進むのであれば俺もグリフィア家の人間であるうちに助力をするつもりだ。
マリアルートに進めばマリアの爺さん……現カラドリア商会長の死後、主人公はカラドリアを内部から崩壊させようとする組織と対峙することになり、身動きの取れないマリアの両親に代わってマリアと2人で戦う事になる。
仮に主人公がこのルートに進むのであれば、俺はこれを全力で支援してから逃亡する。カラドリアの崩壊は世界経済の崩壊であり、仮に銀行機能や商業ギルド、鑑定システムが機能しなくなれば大陸は阿鼻叫喚に陥り世界の終わりみたいになっちまう。そんな事になればのんびり余生を過ごすなんて不可能だろうからな。
ケルシールートに進めば、主人公はラーガル王国に巣食う闇にケルシーと2人で立ち向かう事になる。
最強と謳われたラーガル王家を意図的に弱体化させようとしている連中、ラーガルを疎ましくおもう敵国の内通者、それらを炙り出し最強と呼ばれたラーガル王家の光を再び取り戻す物語だ。
もしこのルートに行くのであれば俺は事態が収束するまでシャーロットの護衛を徹底しようと思う。ラーガルの最後の光であるシャーロットを守り切ればこのルートはクリアだが、もし守り切る事が出来なければラーガル王国は滅亡し血で血を洗う凄惨な世界大戦の始まりだ。必ず阻止してみせる。
だが、本当にわからない。
本当に困っている。
現時点では主人公がヒロインの誰と結ばれるのかが本当にわからない。ゲームほどのんびりと構えている余裕は現実の世界にはないので、準備できる事は今のうちから準備しなければならない。流石に全ルートを想定して動くのは不可能だが、先手を打てるのであればそれも手なのかもしない。
俺が安全に長生きするためにも、この3人の中の誰かのルートであればよかったのだが……
現状、ヒロインの主人公に対する関心は極めて低い。
異常なほどだ。
ヒロインの決定は早ければ一年のうちに終わる。フェリシア、ケルシー、マリアルートは一年で決定し、シナリオは二年までで終わる。ゲームの細かな設定やら世界の真実に迫る周回前提で年下であるヒロイン、アイリーンのルートは三年までシナリオがある。同じく周回前提のリリアナも恐らくはそうだろう。
だと言うのに、どいつもこいつも何を考えてやがる……
あれほどの超絶イケメンを前にヒロイン連中が何を考えているのかはわからない。特に今のマリアなら強引に自分の屋敷に連れ込むくらいしそうなもんだが……
こうなれば残りの2人、何処にいるのか全くわからないリリアナと、来年入学してくるはずのアイリーン、この2人のどちらかのルートであることに賭けるしかない。
その方向で動くしかない。
故に俺がこれからするべき事は、リリアナとアイリーンの2人の高難度ヒロインと主人公の接点を作るために全力でギルバートを教育することだ。
お読みいただきありがとう御座います!




