scene.16 ヒロインcase.2 ケルシー=アトワラス
ま、まあ……マリアだからな。
あいつはちょっと頭がアレだからな。
四天王の中でも最弱みたいな立ち位置だしな。
それにどうにもこうにもこの世界のマリアは主人公に興味を持ってくれない。ルートが違うのかもしれない。
大丈夫。俺にはまだフェリシアとケルシーと、どれだけ探しても見つからないリリアナと、来年入学してくるアイリーンの4人がいる。彼女らの誰かと主人公のルートが確定してから俺も本格的な対策に動き出そう。
そう思っていたのに……
ある日の学園の図書館。
ラーガル学園には巨大な図書館がある。一棟まるまるつかったその図書館には大陸中から様々な書物が寄贈され、学生はそれらを無料で読む事が出来るし、多少お金を払えば借りる事もできてしまえる。そういう巨大な図書館だ。
ゲームのこの場所はケルシーのお気に入りの場所であり、二年になりアイリーンが入学してくれば彼女もよく図書館に入り浸るようになる……そういう絶好の出会いの場でもある。
そしてこの日、俺は主人公を尾行しているうちに図書館に到着した。
特に図書館に用事はなかったのだが、主人公が一体どのような本を読み、どのような参考書を読むのか、読み書きはどの程度進んだのか等……目を通す本から彼の趣味思考を想像し、この世界のギルバートが望むヒロイン像を見つけようと考えた。
最近は寝ても覚めてもギルバートの事ばかり考える毎日だ。
この日はマリアが仕事で学園から離れていたこともあり、思う存分主人公観察が出来ると思ったのだが、普通にケルシーに見つかってしまった。主人公を追いかけて用もなく図書館に入った俺はともかく、ケルシーもまた何か読書をするでもなく俺の隣にべったりくっついてじっと顔を見てくるだけだった。この人は図書館に何をしに来たんだろうか……
今は遊び相手になってあげられないと断ったものの、全然離れなかったので仕方なく2人でギルバートを尾行していたのだが……
「彼は何をしているのでしょう?」
ギルバートは図書館の中をうろうろと歩き回っていた。
本を探しているのだとは思うが、広大な図書館の敷地をあっちへフラフラ こっちへフラフラと彷徨っていた。
自分が探している本がどの辺においてあるのかわからないのだろうか?
図書館はかなり広いのでもちろん蔵書数もとてつもないわけだが、そんな本を1冊1冊と探し回っていてはそれだけで日が暮れてしまう。そのための検索魔道具であり、そのために司書さんがいるのだが、ギルバートは知らないのだろうか?
いや………?
そうか!これは出会いイベントだ!!
「気になるならケルシーが助けてあげたらどうだ?」
「いえいえ全然気になりませんよ?」
ちょっとは気にしろ。
「いいのか?ギルバートを助ければ俺から報酬が出るんだぞ?」
「はッ!そうでした!助けてきます!」
いや、報酬くれって言ったの君ですやん………忘れないで……
ふっ………だが、まあいい。これでケルシーと主人公の出会いイベントが発生する。そのまま今日はギルバートの相手をしてあげるんだな。
ケルシーとの出会いイベントは、図書館で本探しに困っている新入生の主人公をケルシーがそっと助けるものだ。
黒髪黒目の呪子と呼ばれる彼女は誰からも話しかけられないし、誰とも話そうとしない。シャーロットとだけは仲が良いみたいで、それがまた周囲からの僻まれる原因にもなっていた。
王女様のお気に入り、家柄しか取り柄の無い女、美しい顔を鼻に掛けた黒髪のいけ好かない女……ゲームのケルシーに良い噂はなかった。
しかし、実際のケルシーは寂しがり屋のお喋りであり、困っている人が居れば助けてあげたいと思える優しい子だった。
出会いイベントでは、図書館で何度も何度も同じ場所をぐるぐると回っている主人公を見かねて、恐る恐る声をかける。
『何か困っているの?』と声をかけたものの、どうせ自分の髪を見て怖がるだろうと諦め半分のつもりだった彼女だが、主人公は何も気にせずケルシーに頼る。
ここから始まる恋の予感だ!
よし!行けケルシー!!そいつが君の未来の夫だ!
「どうしたんですか?本を探してるんですかー?」
ギルバートのもとに駆け寄り、間延びした声で話しかけた彼女。ゲームとは少々違うが……こっちの方がいい……?よな。ゲームでは声を掛けてきた癖に表情はピクリとも動いていなくて機嫌が悪いのかと主人公が勘違いする描写もあったが………今のケルシーは俺が見ている限りは大体いつも楽しそうに笑ってるから、むしろゲームの時よりも第一印象は最高だろう!
「あ、はい!でも、何処にあるのか、どうやって探せばいいのかわからなくて………」
「そうだったんですね!どんな本を探してるんですか!」
「えっと……公用語の基礎を、その……普遍文字の読み書きについて書かれているものとかないかなと……古代文字とか神代文字はま、まだいいので!」
そうだよな……ギルバートは根っからの平民だもんな。
今まで読み書き出来なくてもなんの問題も無く生活出来ていたんだよな…学園は大変かもしれないが、この努力がきっといつかお前の力になる!
さあ言ってやれケルシー!
「なるほどぉ………普遍文字の読み書きに関する本は無いですね!どんまいです!それではまた!」
即答だった。
「待て待て待て待てェェイ!!!何を笑顔で話を区切ってんだ!?」
「やりました!」
「なにを!?」
それはないだろ?
確かに普遍文字、言わゆる平仮名の読み書きなんてどう考えてもこの図書館には無さそうだけど、そういう事じゃないじゃん?
せめて本の検索方法を教えて…………と言っても、文字が読めないのか。じゃあせめて司書さんの所まで案内するとかさ、なんかあるじゃん?話を広げて、お願いだから話を広げて!
「あ、食堂の!お久しぶりです!」
「あ、ああ………久しぶりだな」
ケルシーの馬鹿野郎が!
あまりに杜撰な対応で思わず飛び出してしまったじゃないか!
はあ……………ここで放り出すのは無しか?
無しだよな………
「何か困っていたようだが、良ければ力になれるかもしれんぞ」
「でも普遍文字の読み書きなんて本はここにはないですよ!」
「ケルシーは少し静かにしような!」
「はい!」
うんうん、お願いすればすぐに大きな声で返事をする。
ケルシーは良い子に育ったな………だから……お願いだからもう少し真面目にギルバートを助けるなり構うなりしてくれな?
「普遍文字か……そうだな、この図書館にはないかもしれん」
もっと専門的な勉強をする為の場所だからね………
「そ、そうですよね!もうちょっと1人で頑張ってみます!」
やめろ!!悲しそうな顔をするな!
その悲しみがいつかオーランドへの殺意に変わるんだろう?!
そんな目で俺を見るな!
「ま!まあ待て、この図書館にないかも知れないが、俺の側仕えが昔使っていたモノでよければ家から取り寄せられる。それを使えばいい」
なんで俺がここまでしないといけないんだ………
「そんな!ぼ、僕はその、お金がないので」
「気にするな、どうせ私には必要ないものだ」
どうせグリフィア家は俺の逃亡と同時にお取り潰しになるし、万一俺が逃げ遅れて成人の儀を受けてもやっぱりお取り潰しになるだろう。跡取りがいないからな………
どうせ処分されるくらいなら……あの家にあるものなら好きに使えばいいし、好きにもっていけばいい。
「でも……」
「ではな、また後日リリィと言う側仕えに持って行かせる。君は存分に勉強に励み給え。」
「あの!おなまえー」
「さらばだッ!」
名前を聞かれる前に全力で逃げるべし!!
ふざけやがって………マリア=カラドリアもケルシー=アトワラスもどちらも全然役に立たないじゃないか!
俺の期待を返せ!
「待ってください!報酬の話がしたいです!」
「ねえぇよ?!」
悪役らしく、主人公から逃げるようにして退散する俺のすぐ後ろから元気なケルシーの声が聞こえてきた。
何と美しい声なんだろうか………
当然、報酬はなかった。
お読みいただきありがとう御座います!




