scene.15 ヒロインcase.1 マリア=カラドリア
経緯はどうあれこれであの3人が主人公と接点を持ってくれる。
報酬を要求されるとは思いもしなかったがそれだけの価値がある。
そう思っていたのに………
ある日の食堂
ラーガル学園の食堂はでかい。なんと言っても1階建てとは言え巨大な建物1つがまるまる食堂だからな。
この食堂では大陸中から集まってくる各国の貴族の為に様々な料理が提供できるようになっており、そして学生はここを無料で利用する事が出来る。希望する貴族は金さえ積めば食堂に料理人を派遣して自分用の昼食を作らせる事も出来る。
さすがはゲーム世界の、それもファンタジーな学校。生徒会が国家権力に匹敵するほどの絶大な権力を持ち、食堂では信じられないほどの美食を味わえるという学園物の基本中の基本を抑えている。
そんな食堂である日、主人公が困っていた。
悲しい事に入学して間もない彼は学園で唯1人、読み書きを練習している最中であり字が上手に読めない。
昼間の授業では口頭で説明されるものを聞き取り頑張って覚えようとしており、お金もない彼はそれを紙や木片に書き記す事もできず、その日の授業を終えた後も誰も居ない校舎に1人残り、頑張って文字の勉強をしている。
なんて頑張り屋さんなんだ……
そんな彼が食堂で困っていた。
食べに来る時間が遅れてしまったようで、どうすればいいのかわからないといった感じだった。
『食堂の調理受付カウンターは閉まっているからご飯は食べられないのだろうか…』
『どうしうよう、僕はお金がないからここでのご飯が食べられないと明日まで何も食べられないよ…』
と言う顔をして食堂をうろうろしていた。
入学式の日に俺が『弱いものイジメしたらお前らボコボコにすっからな』という挨拶をしたおかげで明確なギルバートへの嫌がらせはないように思うが、それでも今だって見るからに困っている彼を食堂にいる連中はニヤニヤと笑って眺めている。誰か教えてやれよ!!
『遅くなった学生は調理受付カウンターではなく、調理準備室まで注文をお願い致します』
ってデカデカと書いてあるのを誰か教えてやれよ!!
可哀想だろうが!
ここにる奴全員ボコボコにすんぞマジで……と若干イライラし始めていたところで一緒に食事をしていたマリアが立ち上がった。
どうやら俺がずっとギルバートを見ている事に気付いたようで、
『私に任せてくださいましオーリー!』と意気揚々と近付いていった。
「あなた……そこのあなた」
「え?あ、僕ですか?」
「そうあなた。カウンターはもうしまっておりますのでそんなところに居ても意味はありませんわ。」
腰に手を当てて笑顔1つ浮かべずとんでもなく高圧的な態度で話しかけているマリアの言葉に対して
「そ、そうですよね……ご飯は諦めます……」
哀れギルバートはご飯が食べらないと思って落ち込んでしまった。
大丈夫だ心配すんな。ここの食堂は朝も昼も夜もごく一部の時間を除いて頼めばいつだってご飯を提供してくれる。お前は腹いっぱい飯をくって一生懸命勉強して、1日も早く誰でもいいからヒロインのルートを確定してくれ。
「食事でしたらほら……私の食べ残しをさしあげますわ」
は?
「た、食べ残しですか?」
「ほーら有り難く受け取りなさい」
てっきり食事の注文が出来ることを教えるのだとばかり思っていたが、あろうことかマリアは手に持っていた食べかけのパンを主人公に放り投げた。あまりの光景に俺は開いた口がふさがらなかった。
「え!あッ!」
突然パンを投げられた主人公はそれを上手く受け取れずに地面に落としてしまった。
「どんくさいですわね……いいですこと、それでも食べて勉強に励みなキャンッ!!」
「馬鹿野郎ッ!?!?何やってんだお前はッ!?」
気がつけば俺はマリアの頭をはたいていた。
「い、痛いですわオーリー……そういうプレイでしたら今夜にでも……」
「ちっげぇぇよ!!なんで食べかけのパン投げてんだよ!そこは注文できるってのを教える場面だろう!?」
「何故私がそこまで教えないといけませんの?食事なら今分け与えましたわ!この私から施しを受けるなど本来なら泣いて喜ぶこと!あれで十分ではないですの!」
「育ち盛りの男子が食べかけのパン1個じゃ腹はふくれねぇし地面に落ちたやつじゃねぇか!」
「どんくさい者にはお似合いですわ」
こッ……こいつ……
お前が言うそのどんくさい者は将来お前の夫になるかもしれない男だぞ?もっと優しくしろよ……
「あ、あの……ぼ、僕はこのパンでも平気なので……」
見ると、ギルバートは落ちたパンを拾って手で埃をはたき、美しくも悲しそうな顔を向けてきた。
や、やめろ……そんな目で俺を見るな!
「あー…あのですね、そこの君」
仕方ない、こんな形で初接触をするとは思っても見なかったがここまで来たらどうしようもない。
「はい?」
自分に指差ししながら首を傾げているギルバート
うおっ眩しっ……何てイケメンだ。
「えっとな、ここの食堂は24時間開放されているんだが、洗物が増える昼や夜の一部の時間だけ受付カウンターを閉じてそちらの作業に集中していてね、だからといって料理の受付をしていないというわけではないのだよ。」
「そ、そうなんですか?!」
「うむ。あちらの通路の先にある調理準備室と呼ばれるところに行って直接注文をすれば良いのだよ」
はあ……なんで俺が話しかけてんだよ……
でもまあ、知り合いも居ないこんな場所で、文字も読めないくせに頑張ってるような奴が困ってたら普通に手を出すだろ。
なんで食堂にいる奴らは遠巻きにニヤニヤみてんだよ。
あー……殴りてぇ……
「あ、あ、ありがとうございます!!それなら毎日3食食べられます!」
「うむ。しっかりと食べて勉強に励みヒロイン達を攻略するがよい」
「ヒロ?」
「あッいや、なんでもない。それでは、私はこれで失礼する。頑張ってくれたまえ」
さっさとその場を去ろうと踵を返したところで
「しっかりと感謝することでッキャン!……い、痛いですわ」
何故かマリアが恩着せがましく喋っていて、その姿に久々にこいつにムカついてしまった。
女性の頭をはたくなどやりたくないが、手が勝手に動いてしまったのでこればっかりは仕方がない。
「あ、あの!お名前を窺ってもよろしいでしょうか!」
「気にするな、名乗るほどの者ではない」
人生で一度は言ってみたい台詞ランキングがあるとして……
その上位に位置するであろう台詞を言えた!
まさか主人公相手に言うことになるとは思いもしなかったが……
「私もあなた如きに名乗る名などもちあわせておりませんわ」
「いやお前は名乗れよ!!」
ヒロインが主人公に名前教えないでどうすんだよ!
関わりたくもなかった主人公と喋ってまで介入した意味がなくなるなろうが!せめて名乗れ!
「え?あ……わ、私はマリア=カラドリアですわ」
「はい!僕はギルバート=スタインです!あ、あの……」
ギルバートはチラチラと俺のほうを見てきたが、
「私の事は気にするな。ギルバート君は私の事など気にせずに勉学に励み、私の事など気にせずに学園生活を楽しんでくれたまえ、それが私の望みだ。」
名前は教えない、教えてなるものか
「さらばだ」
「あ……あの!ありがとうございました!」
これ以上ギルバートに話しかけられる前に強引に話を切り背中を向けて食堂の真ん中を突っ切った。
今この場に居る奴の顔は覚えたからな……
よくもこの悪役を主人公と接触させやがったな……
覚えていろよ…実技の授業で1人ずつ意識を刈り取ってやる
食堂にいた連中は全員俺から顔を背けていた
もちろん、マリアに報酬などあげなかった。
お読みいただきありがとう御座います!




