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短編・童話集

夜、二人で

掲載日:2021/07/06

 ある女性が、夜、空を見上げていた。


 星になど興味がない女性だ。

 その日も見ようとして夜空を見ていたわけじゃない。

 遅くなった仕事の帰り、住んでいるマンションのエントランスに入る前、明日の天気がふと気になっただけだ。

 星じゃなく、雲をながめていたわけだ。

 ただなんとなく。


 そのとき、彼女は夜空に動く二つの光を発見した。

 星ぐらいの大きさの光。

 飛行機かな?

 最初はそう思った。

 夜空の中、きらめく光が移動するのを見るのはそれほど珍しいことじゃない。

 そして飛行機は毎日飛んでいる。


 だが、その光は違うのだとすぐに気がついた。

 飛行機の場合、複数の光が同じ方向に動く。

 おまけに点滅する。

 そのとき彼女が見ていた光は、瞬くこともせず、互いにゆっくりと、どこかおずおずと、近づいていた。


 じゃあなんだろう。

 彼女は不思議だった。

 けれど、それほど気にも留めなかった。

 ぼんやりとながめていると、やがてその二つの光は一つになった。

 すれ違いはしなかった。

 重なって、光が少し増したように見えた。

 そして動きを止めたところまで見て、彼女はマンションの中へと入っていった。


 エントランスを抜け、エレベーターに乗る。

 彼女の部屋は三階で、夫と共に暮らしている。

 部屋の扉を開けると、夫はまだ起きていた。


「遅かったね」


 彼はそう言った。

 夕食の用意はしてあった。

 共働きの二人は、家事の当番を決めている。

 この日は彼の番だった。


 彼女は着替えを終えると、食事をはじめた。

 夫はお茶を飲みながら本を読んでいた。

 天文学の本だった。

 それに気がつくと、彼女は何の気はなしに、先ほど見た光の話をはじめた。

 ページをめくる手をとめて、夫は彼女の短い話を聞いた。


「ねえ、不思議でしょう。一体あれは、なんだったのかな。もしかして、UFOかも」


 そうやって話を終えると、夫は時計を見た。


「あとで、その光の場所を教えてくれないかな。疲れているところ悪いけど」


 食事を終えたあと、二人でベランダに出た。

 さっき女性が見あげた場所よりも、空は広く見えた。

 その日も暑い夜だったが、気持ちのいい風が漂っていた。


 妻は夫に、大体の方角を指差して教えた。

 もうすでに、あの光のありかはわからなかった。

 いくつかの光の強い星だけが、都会の空に散っていた。


「ああ、やっぱりそうだ」


 夫が言った。

 妻は不思議そうな顔をして、その説明を求めた。


「そんなこともあるんだね。今年もまた、二人は短い逢瀬を重ねたわけだ。今ではもう、元の場所へと戻っているけど」

「どういうこと?」

「君が見たのは、ベガとアルタイルだ。つまり、織姫と彦星さ。さっき、ちょうど、七夕になったんだ」


 彼は腕にあった時計を彼女に示した。

 もう十二時をこえていた。

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