学園訪問
夜が明け始めた頃、アレンは静かに目を覚ました。ミドロア王国へ向かう日である。彼は深呼吸を一つして身体を起こすと、準備を整えるため執務室へ向かった。
執務室では、ヴェルセリアで安定的に生産可能となった品々が机に並べられていた。魔力制御素材、軽量金属の加工品、基礎魔装具の部材、生活用品の試作品など、どれもミドロア王国で市場性のある候補だ。アレンはそれらを一つひとつ品定めしてアイテムボックスへと収納した。
準備を終えたアレンはガランとミランの元を訪れ、同行の可否を尋ねた。しかし二人は今回の同行を辞夜が明け、淡い光が部屋を満たし始めた頃、アレンは静かに目を覚ました。
今日はいよいよミドロア王国へ向かう日だ。身体を起こし、軽く伸びをすると、すぐに執務室へ向かう。
執務室に入ると、昨夜のうちに仕分けた資料や試作品が整然と並んでいた。
アレンは椅子に腰を下ろし、ヴェルセリアで安定生産が可能となった品々を丁寧に吟味していく。
特性を付与した生活道具、希少性の高い素材など、ミドロア王国の市場でも競争力が期待できる物が揃っていた。
これらを一つずつアイテムボックスへ収納しながら、アレンは軽く息をつく。
「これだけ持っていけば十分だろう」
準備を終えたアレンは、ガランとミランがいる訓練エリアへ向かった。二人は既に鍛錬の準備をしており、魔窟探索に備えた隊員たちへの指導計画について話しているところだった。
「ガラン、ミラン。これからミドロア王国へ向かうが、同行してくれるか?」
アレンの問いに、ガランは腕を組んで首を横に振った。
「悪いな、アレン。今回はこの機に近衛隊の戦力強化を図る予定だ。魔窟の下層調査も進めたい」
ミランも頷きながら言葉を添える。
「訓練計画を止めるわけにはいきません。ただし、護衛役としてケリーを同行させます。あの子も実地経験を積む良い機会でしょう」
ガランはさらに続けた。
「それと、工房を見てもらいたいんだろう? ならばヒルダも連れていくといい。あいつならきっと役に立つ」
アレンは深くうなずき、二人の提案を受け入れた。
「助かる。いつも建設や整備を手伝わせてしまって、本当にすまない」
しかしガランは苦笑して肩を叩く。
「気にするな。これも訓練の一環だし、ここに住まわせてもらってるんだ。互いに得るものがある」
その言葉にアレンは感謝を述べ、ステラ、ロシュ、ケリー、そしてヒルダを伴って港へ向かった。
港には、近衛隊に貸与されている船が停泊していた。一行は乗り込み、ヴェルセリアを後にする。潮風を受けながら進んだ船は、やがてミドロア王国の港町へ到着した。
船を降り、港町にあるグランデ商会の店舗へ向かうと、ヴェルセリア派遣予定の商会員たちが集合していた。その中心にいたのは、ロシュが支店の副店長として任命した男――セリムだった。
ロシュが紹介すると、セリムは恭しく頭を下げる。
「アレン様、ヴェルセリア支店の準備は必ず万全に整えておきます。皆様が戻られる頃にはヴェルセリアに行ってすぐにでも開業できるようにしてみせます」
アレンはその意気込みを評価し、港町に残って準備を進めるよう任せた。
その後、一行はグランデ商会が手配した馬車に乗り、港町と王都の中間地点に位置する学園都市へ向かった。
商会の馬車であることから検問もなく通され、やがて高い石壁に囲まれた都市が視界に広がる。王都ほどの規模ではないが、整然とした街並みと活気ある通りは想像以上に壮観だった。
学園の前で馬車を降りると、学園長ペドロが待ち構えていた。
「お待ちしておりました。ようこそ、学園都市へ」
出迎えの挨拶を交わし、ペドロは研究施設の案内を始めた。
経済・商業研究区では、実際に商会で働いていた者たちが講師となり、学生たちが実務を通じて経営を学んでいる。アレンは、将来ヴェルセリアの店舗でこうした実務経験者を雇うことを想像し、心の中で期待を膨らませた。
続いて魔力・魔装具研究区へ移動する。
魔力の構造、流れ、性質の研究、そして魔装具・魔力応用技術の開発――多岐にわたる研究が精力的に進められていた。魔力がほとんど流れていないミドロア王国において、魔力の流れる島ヴェルセリアの存在は非常に注目されており、研究者たちの関心は高かった。
次に案内されたのは工学研究区だった。
ここでは魔装具研究区と連携し、魔力制御技術を輸送機械、製造機械、生活道具、建築機械へと応用している。
説明を受けている途中、ヒルダがある工房の職人を見つけて目を見開いた。
「……どうしてここに?」
ペドロによれば、王都の工房が丸ごとこの学園都市に招かれたという。
ヒルダが許可を求めると、ペドロが案内し、一行は工房へ向かった。
工房長ガルドと再会したヒルダは喜びの声を上げ、アレンたちを紹介する。
アレンも挨拶をし、前世の知識をもとにした輸送機械の構想を説明したところ、ガルドは強い興味を示した。
「実に面白い。ぜひ手伝わせてもらいたい。ヴェルセリアにも一度行ってみたいものだ」
「ぜひ。後日、詳細な話し合いの機会を設けましょう」
そう約束し、一行は剣術・武術訓練区へ移動した。
施設内では想像を超える熱気とレベルの高さにアレンは圧倒される。将来、ヴェルセリアの近衛隊にこうした人材が加われば、と期待に胸が膨らんだ。
案内の最後に、ペドロが明日には学園祭が開催されると告げた。
研究室ごとの発表、屋台、そして武術大会――学園都市全体が盛り上がる大イベントらしい。
「参加していただけるなら、非常に光栄です。ただ……出店をなさると聞きましたが、準備は間に合いますか?」
アレンは自信をもって頷いた。
「問題ありません。必要な物はすべて持ってきています」
その後、一行は近くの居酒屋で軽い食事と酒を楽しみ、グランデ商会が所有する宿へ向かった。
各々が部屋へ戻る中、アレンは一人、近くの空き地へ足を運び、アイテムボックスから商品の素材や設備を取り出し、学園祭の出店準備を始めた。
すべての段取りを終えると、アレンは部屋へ戻り、静かに眠りについた。




