役職決定
夜明けの光が建設中の住宅地に柔らかく差し込み、アレンはゆっくりと目を覚ました。
アレンは住宅区間の中央へ足を運び、川から水を引き込むための土木作業を開始した。
地面へ手を向け、スキルを発動する。
「『地形変動』」
大地が震え、土がうねり、水路としての形を成していく。
住宅地の中央部へ向けて浸透し、一定の深さと幅を保つよう細かく調整する。
やがて近くの川から引かれた水が流れ込み、アレンが中央部を軽く掌で押し固めると、水圧で自然に押し広がり、噴水として噴き上がった。
静寂の中、水しぶきが光をまとって弧を描く。
「おお……これは見事だな」
後ろから来たガランが目を丸くする。
「ここを中央広場にする。水と緑は、住民の心理を落ち着かせる」
アレンはそう言いながら、周囲に木々を移植し、地形変動で柔らかなベンチ状の土台を形成し、簡易的な木材を組み合わせてベンチを作り上げる。
ステラとミランも手伝いながら、中央広場は一気に街の中心としての形を整えていった。
次にアレンは、広場から各住宅へと続く道を作り始めた。
地形を平らにし、石材を敷き詰め、複数の道が中央へ繋がるよう網目状に整備していく。
「これで主要動線は確保できた」
そして最後の工程として、都市運営のための会議場を建設する。
中央広場に面した位置に、様々なことを話し合うためにも会議場を新設し、その左右にはアレンやステラ、ミランといったメンバーが運営業務を行うための執務室を複数設ける。アレンはスキルと数十人の護衛隊隊員にも手伝ってもらいながら、魔鉱の建材と魔力樹を駆使して建物を完成させていった。
今日から都市ヴェルセリアの行政が始まるという象徴となる施設だ。
「よし……これでひとまず整ってきたかな」
アレンはステラ、ガラン、ミランを新設の会議場に招集した。
円卓に三人が揃ったところで、アレンはゆっくり立ち上がる。
「都市を運営し、統率スキルを活かすためにも、明確な役職が必要だ。まず、ヴェルセリアの代表を誰にするかだが……俺でいいか?」
三人は顔を見合わせたが、最初に口を開いたのはステラだった。
「あなた以外に務まらないわ。昨日までの行動を見て、誰も異を唱える者はいないでしょう」
ガランも力強く頷く。
「探索、開拓、統率……全ての中心にいたのはアレン殿だ。領主として相応しい」
ミランも笑みを浮かべる。
「文句なしでしょ」
こうして、アレンは正式にヴェルセリア領主となった。
「次に、ステラ。君は交渉力、判断力、そして防衛の能力に長けている。副領主兼外交官を任せたい」
「……光栄よ。しっかり務めるわ」
「ガラン。君は剣技も指揮能力も最上級だ。護衛隊を改め、近衛隊の隊長として都市の防衛を任せる」
「任された」
「ミラン。戦闘能力と実務力の両面から、君には近衛隊副隊長、さらに財務官も兼任してもらう」
「やっぱり来たか……まあ、任せて」
アレンは統率スキルを発動した。
三人の身体が淡い光に包まれ、それぞれの能力が底上げされる。
「これで、ヴェルセリアの中枢が整った」
アレンは全員を新広場へ集め、住民と護衛隊員たちの前に立つ。
「本日より、護衛隊は近衛隊へと再編成する!」
驚きと期待が混じったざわめきが起こる。
アレンは前へ進み、ある人物の名前を呼んだ。
「ケリー。前へ」
ケリーは緊張した面持ちで歩み出る。
「君は昨日、アーク・ゴーレム戦で決定打を放った。能力、実績、そしてスキルを総合し……君を新設部隊『近衛隊特殊部隊』の隊長に任命する」
近くで聞いていたステラが微笑む。
「少数精鋭の特殊部隊よ。君の探索能力を最大限活かせるはず」
ケリーは驚きで言葉が詰まり、しばらくして深く頭を下げた。
「……が、がんばります……っ!」
すると、ケリーも淡い光に包まれた
ステラの提案で、力を試すためにもミランとケリーによる模擬戦が行われることとなった。
「ケリー、遠慮はいらないわ。本気で来なさい」
「……はいっ!」
中央広場に即席の闘技場が作られ、二人は向かい合う。
開始の合図とともに、ケリーが地を蹴り、槍を突き出した。
その一撃は鋭く、流麗で、昨日の戦闘とは比較にならないほど冴えている。
新たに与えられた魔鉱槍が彼女の力を引き出していた。
「速い……!」
隊員たちが息をのむ。しかし、ミランはその攻撃を紙一重でかわし、反撃に転じる。
「ケリー、悪くない。でもまだ読みが浅い!」
槍と剣が火花を散らし、広場に緊張が走る。
ケリーの千里眼が動き、ミランの動きを読み取るが――
ミランは副隊長としての経験と冷静さで一歩上を行く。
「そこ!」
ミランの一撃がケリーの槍を弾き、地面へ押し伏せた。
勝負あり。観客たちは思わず息を吐く。
「……負けました」
ケリーは悔しそうに唇を噛んだが、ミランは手を差し伸べた。
「良い目だ、ケリー。君はもっと強くなる。今日の敗北はその第一歩だ」
ケリーはその言葉に強く頷いた。
その日の夕刻、住民と近衛隊員たちは広場で食事を囲んだ。
噴水の音が心地よく響き、昨日よりもさらに街らしい風景が広がる。
こうして、ヴェルセリアは正式な形を持ち、都市としての一歩を踏み出した。
アレンは夜空を見上げながら、これから始まる新たな建設と探索の未来を静かに思い描いていた。




