他国からの来客
ミドロア王国の調査団は、突如海上に現れた謎の島を調査するため、険しい森の中を慎重に進んでいた。潮風の匂いが薄れ、代わりに湿った土の匂いと、濃密な魔素の気配が空気に混じりはじめている。
「本当に、こんな得体の知れない島に住人がいるんですか? ガラン隊長」
若い副隊長ミランが、不安げな声で問いかけた。
「この島を最初に発見した兵たちからは報告はなかった。しかし、もし人が住んでいるのなら、我々が最初に誤った対応をすれば大きなトラブルになりかねん」
頑丈な鎧を着たガラン隊長は険しい目つきで周囲を見渡す。
「別に、無理やり言うことを聞かせれば――」
「馬鹿者。先住者がいるなら、その権利を尊重するのが基本だ!」
ガランが怒鳴りつけ、ミランは肩をすくめながらも口を閉じた。
そうして進むうち、森を抜け、中腹付近に差し掛かったとき。
「ん……? あれは何でしょう、ガラン隊長」
ミランが指差した先、洞窟の前に二つの影が見えた。
「若い男女……か。まずは接触してみる。決して刺激するな」
ガランは手を上げ、隊員たちに静かに前進を促した。
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一方その頃、アレンとステラは収穫を終え、洞窟の出口に向かっていた。
差し込む外光で視界が開けた瞬間――
カチン……カチャリ。
森の奥から金属音が近づいてきた。
草木をかき分ける足音が増えてくる。
「ステラ……誰か来る」
「うん、気配がする」
木々の影から、装備を整えた一団が現れた。
中央に立つ壮年の男が、穏やかな声で呼びかける。
「我々はミドロア王国から来た調査団だ。敵意はない。まずは話を――」
だが、その言葉が最後まで続くことはなかった。
一人の隊員が突然、叫びながら飛び出したのだ。
「くっ……来るな!」
「危ない、アレン!」
ステラが瞬時に結界を展開。透明な衝撃波が暴走した隊員をはじき飛ばし、その後ろにいた数名も巻き込み地面に転がした。
「馬鹿者! 誰が攻撃しろと言った!」
ガランは怒りに震え、その隊員を押さえつける。
だがガランはすぐに理解した。
――この女性はただ者ではない。
自分の隊を全員束にしても敵わないだろう、と。
「ステラ、もういい。彼らは本気で敵対してきたわけじゃない」
アレンの声に、ステラはゆっくりと結界を解いた。
ガランは深く頭を下げる。
「こちらの不手際だ。本当に申し訳ない」
「俺はアレン。この島に住んでいる。……落ち着いて話をしよう」
緊張がほどけ、ガランは安堵の息をついた。
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案内され洞窟の中に入ると、そこは外からは想像できないほど広大な空間が広がっていた。
青白い光を放つ苔、魔素を含んだ水の流れる音、そして中央には異様な光を放つ魔力泉。
「なんだこれは……!」
「……すご……!」
ミランは目を見開き、しばらく呆然と立ち尽くした。
「この島の地下には魔力泉があって、その魔力が地表に流れ出ることで特殊な生態系が出来上がっているんだ」
アレク――そう名乗った青年は、落ち着いた声で説明する。
「こんなもの……初めて見た!」
「だろうね」
アレクは、島の地形、魔力の循環、植物の変質などを丁寧に語った。
ガランは、驚きながらも真摯に耳を傾ける。
「アレク、これほど話してくれてよかったのか?」
「ガランを信用しているからこそだよ。良い関係を築けるのなら、それでいい」
静かに、しかし力強く言い切った。
このときアレクは、洞察スキルの高さゆえか、ガランの誠意や調査団の性質を正確に見抜いていた。
しかし同時に――自分とステラのスキルや住居の詳細など、核心には一切触れなかった。
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調査団は本国に戻るとすぐに宰相へ報告した。
厳格な表情の宰相は深く考え込んだ後、静かに言う。
「その島と友好を結ぶべきだ。あの二人を粗雑に扱えば、国は後悔することになる。すぐに王城へ招待せよ」
「承知しました。再び島へ向かいます」
ガランは深く一礼し、すぐに準備に取りかかった。
宰相の判断は正しかった。
――アレクという青年は、この世界に大きな波を起こす存在になる。
ガランはそう確信していた。
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数日後。
穏やかな表情を浮かべた調査団が再び洞窟の前に現れた。
「アレン、ステラ。宰相から正式な招待だ。ぜひ王城へ来てほしい」
ガランが丁寧に頭を下げた。
ステラは不安げにアレンを見る。
「アレン……あの、私たちを攻撃してきた国だけど……行って大丈夫なの?」
「王城に招待している以上、粗末な扱いはしないはずだ。ガラン隊長は信頼できる。それに――ステラもいる」
ステラは一瞬戸惑ったが、やがてゆっくりと微笑む。
「……うん。関係を築くためにも、行ったほうがいいよね」
アレンは深く息を吸い、調査団の船を見つめた。
島の外に出るのは初めて。
胸の奥には、不安より大きな期待が広がる。
「行こう、ステラ。俺たちの世界を広げに」
こうして二人は島を離れ、初めての旅へと踏み出した。




