収穫と未来
朝の薄明かりが洞窟の入り口から静かに差し込み、魔窟へ向かう道を淡く照らしていた。
アレクとステラは支度を終えると、湿った空気の残る通路を並んで歩き出す。
「どうかなー?何か変化あったりするのかな?」
ステラがわくわくした声音で言う。
「いや、さすがに昨日今日の話だし。いくら魔素濃度が高くて成長が速いっていっても……」
アレクは苦笑しつつも、内心ではわずかに期待していた。
「まあ、そうだよね。さすがにね。気長に待とうか」
「うんうん」
湿った岩肌に二人の足音が反響し、薄緑の魔光苔がぼんやりと周囲を照らす。
談笑しながら進んでいた2人だったが――視界に飛び込んできた光景に、思わず足を止めた。
「えっ、まだ一日だよね……」
「う、うん。ね……そうだよね……」
昨日植えたばかりの農場に、青々とした作物が一面に茂っていた。
風もないのに、放たれる魔素が揺らめくように葉を光らせている。
「まさか、魔力の効果がここまでとは……」
「だよね。これもう、収穫していいのかな?」
2人は半ば呆然としながら結界内へ足を踏み入れ、農場の中央まで歩み寄った。
「アレク、どうしてこんなに早いんだろう?」
「多分だけど……ステラの結界が、魔素水から放出された魔素を閉じ込めてるんだ。
結果として、農地全体の魔素濃度がさらに跳ね上がって成長が加速したんだと思う」
「なるほどね……私の結界、役に立ってよかった」
ステラが胸を撫でおろすと、アレクは米の成長具合を確認するため水田へ向かった。
水面には淡い魔素の粒子が漂っており、稲穂が光を受けて宝石のように揺らめいている。
「これで本当に米が食べられるようになるんだね、アレク!」
「そうだね。まずは収穫する前に、解析してみるよ。『素材解析』」
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【解析結果】
[名称] 魔素稲
[危険性] 低
[基本情報]
魔力濃度の高い水源・土壌で育つ特殊な稲。成長速度が異常に速い。
[特性]
保存性が通常より高く、品質も安定している。
[採取難易度] 中
[備考] 特になし。
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「特に問題はなさそうだね」
「どうやって収穫するの?」
「そりゃもちろん――『アイテムボックス』」
《了解しました。対象と範囲を選択ください》
「水田の稲を全部回収してくれ」
《確認しました》
次の瞬間、水田一面に広がっていた稲が光の粒となって吸い込まれるように消えていく。
風もないのに葉が揺れ、静かな収穫が魔窟の空気を震わせた。
《完了しました》
・魔力樹(0.5本)
・魔素水(1L)
・魔素菌(6個)
・魔素稲(550kg)
「すごーい!こんな景色なかなか見られないよね」
「よし、この調子で他のところもやっていこう!」
作物の消えた水田を後にし、2人は畑の方へ移動した。
「アレク、この畑には何を植えたの?」
「まずは地上で採れた薬草をいくつか試しに植えてみたんだ」
「そっか。いい効果があるといいね」
「そうだね。『素材解析』」
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【解析結果】
[名称] 魔素草
[危険性] 低
[基本情報]
魔素濃度の高い土壌で育つ小型の薬草。
[特性]
加工して摂取すると、体力の回復速度が上昇する。
[採取難易度] 中
[備考] 特になし。
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「どうだった?」
「加工すると回復速度が上がるみたいだ」
「それは便利ね。重宝しそう」
「じゃあこれも回収しよう。『アイテムボックス』」
《了解しました。対象と大きさを選択ください》
「畑の薬草を全部回収してくれ」
《確認しました》
畑の薬草が、ふわりと光の粒子になって消えていった。
《完了しました》
・魔力樹(0.5本)
・魔素水(1L)
・魔素菌(6個)
・魔素稲(550kg)
・魔素草(10本)
「アレク、この薬草は加工できそう?」
「そうだね。試してみようか。『素材加工』」
《了解しました。加工する対象と完成像を指定してください》
「魔素草を体力回復用に加工してほしい」
《了解しました。付与する特性を選択してください》
「回復効果の強化で」
《了解しました》
短い沈黙のあと、アレクは再び解析を行った。
「『素材解析』」
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【解析結果】
[名称] 回復水
[危険性] 低
[基本情報]
魔素草を加工して得られる水。
[特性]
飲むと体力の回復速度が上昇する。
[採取難易度] 中
[備考] 加工法により効果の強さは異なる。
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「これで体力が低くなったときにも安心だね。ステラも常備しておいて」
「うん、お願いしたい」
その後、アレクは追加の種を植え終えると、2人は洞窟の出口へ向かって歩いた。
魔窟の天井から落ちる雫が、ぽたり、ぽたりと静かに響く。
「これで最低限の生活基盤は整ってきたかな、ステラ」
「そうだね。そういえばアレク、この世界で何を目指してるの?」
「そういえば言ってなかったな。僕は……この島を、科学と魔力が調和した安全な独立都市にしたいと思ってる」
「そんな欲張りな夢、いいと思うよ。アレクならきっとできる」
「いや、ステラがいないと無理だよ」
「ありがとう。じゃあ、これからどうする?」
「まずは、この島の外の環境を知りたい」
「たしかに。外がどうなっているのか知らないとね。
できるなら友好関係も結びたいし」
「うん。それに、この島を都市と呼べるくらいの規模にするなら、人も増やさないと」
「そのためには、人を受け入れられる環境づくりが先だね」
「そう。受け入れる以上、責任も生まれるから……やることは山ほどあるよ」
魔窟の出口の光が近づく。
そこには、2人がこれから作り上げる世界の入口があった。




