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067作品目  作者: Nora_
8/8

08話

 拓馬さんの家の近くにある銭湯に来ていた。

 既に入浴は終えており、火照った体をコーヒー牛乳で冷ましていた。


「あ、お待たせしました」

「大丈夫だ、帰るか」

「そうですね」


 お昼は何気に映画とかを見に行ったけど、いまのが一番幸せだったかもしれない。

 別に特に緊張とかもなかった、私は私にできることをするだけ。

 ご飯を作ったり掃除をしたり、彼女というか母親みたいな存在になればいいだろう。


「どうでした? お客さんいっぱいいました?」

「いや、数人だったな、おかげでゆっくり入れたぞ」

「こっちは小さい子が泳いでいて楽しそうでしたよ」

「はは、本当は良くないけどな」


 でも、微笑ましいから嫌だとも感じなかった。

 もし自分の子どもだったら注意するだろうけど。


「お邪魔します」

「おう」


 そういえばとソファのことを聞いたら大丈夫だと答えてくれた。

 あそこまで汗が出るとは思わなかったんだ、心臓の音がうるさいとかそういうのはなかったのにな。

 とりあえず私はご飯を作る。

 外で食べるかどうかと聞いたものの、私が作ったやつの方がいいと言ってくれたから。


「どうぞ」

「おう、さんきゅ」


 見られていると食べにくいだろうからあのソファで転んでいた。

 うん、汗臭さとかはない、思いきり消臭スプレーをまいたのかもしれない。

 お風呂後ってどうしてこんなに落ち着くのか。


「はぁー」

「翠、こっちに来てくれ」

「こっちにって、ほぼ離れてないですけどね」


 前回ので学んだから今日は温かい紅茶を飲みながら拓馬さんを見ていた。

 喋っていないと気難しそうな感じに見えるのにな、喋ると甘えん坊というかそういう風に可愛くなる。

 そういえば可愛いで思い出したけど、唯くんとはどうなったんだろうか。

 あれだけ続いていた佐野くんの来訪もなくなってしまったわけだから少し寂しいかな。

 小澤くんが万理ちゃんと付き合うなんて思ってなかったし、実にごちゃごちゃしているなあと。


「ごちそうさま」

「偉いですね、毎回言って」

「普通のことだろ、恥ずかしがることじゃない」


 で、毎回最後に欲しい言葉を言ってくれる。

 いいなあ、こういうの、ずっと続いてほしいと思う。


「テレビでも見るか、今日はまだ時間も早いしな」

「お風呂にも入りましたしね」


 ちょうどいいぐらいの時間だから面白い番組がやっていて二人で楽しんだ。

 だけど段々と距離が近くなっていることに私は気づいて、こちらからその距離を〇にする。


「消すか」

「はい、CMも多いですし」


 難点はそこ、いいところでCMを挟むものだから焦れったくてしょうがない。

 あと拓馬さん、以前に自分が言ったことを守っているんだと思う。

 あまり積極的にならないように気をつけているのが分かる。


「たかだか数日がかなり長く感じたよ」

「まあ……中途半端なところで終わっているわけですからね」


 あれから電話でぐらいしか話せてなかったから顔も見たかったし。

 だからいきなり爆発すると思ったけど、あくまで丁寧に接してくれた。

 どれだけ必死に我慢していたのかは分からない、でも、そういうところが嬉しいと思う――って、最近はそのようにしか感じられなくなっているようだ。

 彼氏作りは諦めていたはずなんだけどな、気がつけば親友の元彼氏さんと付き合っていると。

 で、夜遅くにではないけど手を繋いでこの沈黙、こちらからも積極的にいかなければならない気が。


「ふぅ、なんかこれだけでいい気がするな」

「あ、そ、そうですか?」

「おう、だってあれは俺だけが得するようなことだろ?」

「愛されているという意味では、私もそうですけど」


 今度はこちらから押し倒す。

 そのまま無理やり口を塞いで、ある程度の余裕を見せておくことにした。

 いやまあ内側は大暴れだったけど、そうしないと拓馬さんもやりづらいだろうし。


「いいですよ、私は」

「翠……」


 分からないから後は任せた。

 結局余裕なんてなかったけど、今回は満足してもらえたと思う。


「大丈夫か?」

「はい、大丈夫ですよ」


 意外とそういう時も丁寧なんだなって分かった。

 なんかもっとがつがつとやるものだと思っていたから驚いたぐらいだ。


「悪い……正直に言ってぷるぷると震えてる翠を見たらさ……」

「謝らないでくださいよ」


 こちらは切なげな顔をしていたのが印象的だったかな。

 拓馬さんでもあんな顔をするんだなってぼうっと見ていたら終わってた。


「寝るか」

「そうですね」


 お風呂にも入ったしすっきりしている。

 あと、何気に布団を買ってくれたから痛さを味わわなくて済む。

 けれどなんか寂しくて、結局一時間ぐらい経過した頃潜りこんだけども。


「ふふ、温かい」


 抱きしめられた時は心臓が飛び出しそうになった。


「……不意に入ってきたりするなよ」

「ちょっと寂しくてですね」

「買った意味なくなるだろ……」

「ありますよ、何度も来ます」

「ふっ、そうか」


 寝よう、明日こそ気になったところの掃除をするつもりだし。

 最近は寂しくて寝られない日々が続いていたから睡眠不足なのも不味い。

 ふらふらしていたら危ないから、今日はこの心地良さに任せておいたのだった。




 起きたら拓馬さんがいなかった。

 家の中にもいないみたいなので、とりあえず勝手に朝食作りを開始。

 それを終えたらお風呂掃除とか自分の家を綺麗にするかのようにしてとにかく待つ。

 が、全然帰ってこない、不安になって連絡をしてみても反応がなかった。

 もしかしたらいま頃になってはっとしてしまったのかもしれない。

 なんで俺はこんなやつと~となってしまった可能性がある。


「ただいま、おわっ!?」

「どこに行っていたんですか!」


 こちらの頭を撫でて「シャンプーを買いに行ってたんだ」と答えてくれた。

 朝にも入るタイプらしくて、もうないことが気になってしょうがなかったらしい。

 紛らわしいことをしやがってさあ、他の女の子に会いに行っちゃったって思ったぐらいなのに。


「入ったんですよね? それなら後で一緒にで良かったじゃないですか……」

「いや、これだけのために二人で行く必要は――悪かったよ」

「ご飯を食べてくださいっ、作っておきましたから!」

「おう、食べさせてもらうわ」


 付き合えたら付き合えたでなんか怖い。

 あんまり口うるさく言うと嫌われちゃうだろうし、でも、なにも言わないとどこかに行ってしまう気が。


「……そんな顔するなよ、やましいことはなにもないぞ」

「不安で……」

「地味子って言ったこと、まだ気にしてるのか?」

「当たり前ですよ、だから他の人に取られちゃうんじゃないかって……」

「大丈夫だ、心配するな」


 その言葉だけで落ち着けるなら苦労はしていない。

 幸せな時間と、一緒にいられない時に感じる不安な時間。

 これから毎日それと戦わなければならなくなるわけだ、この距離も多大に影響している。


「だって、毎日会えるわけでもないですし……」

「でも、お前うざがらないか? 毎日会いに行っても」

「あ、当たり前じゃないですか」

「……万理は嫌だったんだ」

「私は万理ちゃんじゃありませんから」


 だけどこの距離を毎日移動してきてもらうのは申し訳ない。

 拓馬さんの負担が大きすぎる、多分だけど続けていたらきっと嫌になってしまう。

 だからってお世話になることなんてできないし、ああ……なんで家が遠いんだろう。


「なら毎日行く」

「……拓馬さんが大変ですよね」

「大丈夫だ、寧ろ翠を見ておかないとすぐ男とふたりきりで会うからな」

「え、そんなことはないですけど」

「小澤とか佐野と会っていただろうが」

「さ、最近はないですから!」


 そ、そっちだって万理ちゃんとふたりきりで行動していたわけだし気をつけてほしい。

 嫉妬するしすぐに不安になるから面倒くさい人間を彼女にしたって後悔するかもしれないけど。

 

「頼む、信じてくれ」

「……いいんですか?」

「というか、信じてなかったのかよ……」

「いや、女の子の知り合いが多そうだなって……目移りもしちゃうかもしれないじゃないですか」

「しない」


 ま、まあ、いまはそういうことでいいや。

 来てくれたらご飯を作るとかそういうことをしてメリットを作ってあげればいいはずだ。

 美味しくていいって言ってくれているからね、不安になって楽しめないのは良くない。

 なにより疑うのも駄目だ、疑っておきながら言うのはあれだけど。


「それより私、拓馬さんが作ってくれたご飯を食べてみたいんですけど」

「え、いやぁ……翠より上手く作れないからな」

「食べたいですっ、万理ちゃんだけ食べたことあるのって不公平じゃないですか」

「……後で文句言うなよ?」


 おつまみみたいなのを作ってくれたのは拓馬さんだから疑ってはいない。

 ああでも、まさか朝からこんな激重な感じに仕上げてくるとは思わなかったな。


「昨日切っておいたキャベツを足せばマイルドになりますね」

「ほら、だから嫌だったんだよ」

「いえ、美味しいですよ? このお肉の山は」

「よせよせ、お世辞を言われても喜べねえよ……」


 誰かが作ってくれたご飯というのは大変美味しく感じるものだ。

 だけど、なんか気恥ずかしそうにしているのが凄く微笑ましかった。

 子どもが頑張って作ってくれた食べ物を前にしている親の気持ちというか。


「いい子だね、私のために作ってくれてありがとう」

「泣かす」

「え゛」


 残念ながら泣くことはなかった。

 しょげている拓馬さんは放置して洗い物。


「……なんか余裕だな翠」

「そんなことないですよ」


 ああ、体操座りでぶつぶつ呟いちゃってるよ。

 その横に座って体重を預けてさせてもらう。


「私、あんまり泣きませんよ?」

「……お前、何気にナチュラルに煽るよな」

「いえ、事実ですからね。というか、キスしたいなら普通に言ってくれればいいじゃないですか」

「……朝から発情しているみたいで嫌じゃねえか」

「でも、夜はあんなに必死でしたからね、あんまり違和感はありませんけど」


 余計に凹んでしまったみたいだ。

 こちらを悲しそうな表情で見ながら「そんな性欲任せの人間みたいに言うなよ」と呟いている。


「私、意外と慣れるのが早いのかもしれませんねー」

「なんか浮気しそうで怖えな」

「あ、疑わないでくださいよ、私を求めてくれるのなんて拓馬さんぐらいですよ」

「どうだか、そうだといいんだがな」


 頭を抱きしめて落ち着かせる。

 母にこうされると落ち着くから試してみた結果、文句を言ってくることはなくなった。

 ただ、段々と様子がおかしくなってきてしまって、慌てて離れようとしたものの無意味に終わって。


「……お前はもうちょっと男を理解しておいた方がいい」

「結局性欲任せの人間じゃないですか」

「好きなやつに抱きしめられていたら落ち着くか興奮するかのどっちかだ」

「で、今回はスイッチが入っちゃったってことですか? しょうがないですね」


 ああもうこれじゃ学性生活だよ。

 こちらがやることはひたすら頭を撫でているだけだけど。

 私が年上だったらこう慈愛に満ちた顔で見ているんだろうな。


「満足できましたか?」

「……翠が余裕でむかついた」

「ふふ、女はこれぐらい余裕がないといけませんからね」


 立ち上がって伸びをした。

 複雑そうな顔をしながらも拓馬さんも同じようにしていた。


「さてと、そろそろ帰らないといけません」

「そうか、なら送って行く」

「はい、ありがとうございます」


 あまり日曜日って感じがしなかった。

 そこまで細々としたところに拓馬さんが住んでいるわけではないというのも大きいかも。

 挨拶をしてくれる気さくな人たちに挨拶を返したり、わんちゃんが単体でいたから頭を撫でたり。

 自分の家の近くに戻って来たら懐かしさを感じたり、同時に別れがくるから寂しんだり。


「あ、二人でいるんですね」

「佐野くんと唯くん」

「……それなら俺も名前で呼んでもらった方がいいですね」


 今日も後ろに隠れていて可愛い。

 航平くんは「あんまり人と話すのは得意じゃないですからね」と唯くんの頭を撫でて笑っていた。


「どこかに行くつもりだったの?」

「これから唯の行くところだったんです、おふたりこそどこかに行っていたんですか?」

「この人の家から帰ってきたところかな、送ってもらってるんだ」

「へえ、仲いいんですね」

「まあね、気をつけてね」

「ありがとうございます」


 拓馬さんに睨まれちゃったけど気にせず残りを歩く。

 残念ながら都合良く小澤くんと万理ちゃんに遭遇することはなかった。


「ありがとうございました」

「……不安だ」

「もう、そんな顔しないでください」


 最後に一瞬だけ抱きしめて距離を作る。


「また来てくださいね」

「ああ、取られたら嫌だからな」

「取られません、あなたに取られたままですから」

「ふっ、そうか、それじゃあな」

「はい、気をつけてください」


 さて、頑張って寂しさと戦っていこう。

 大丈夫、あの人は必ず私のところに来てくれるから。

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