表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
067作品目  作者: Nora_
5/8

05話

 私は後ずさる。

 確かに可愛いよ、丸っこくて大きな目も、私よりも綺麗そうな髪も。

 佐野くんを後ろから抱きしめるようにして隠れているところなんかもう特にね。

 でも、でもさ、でもさあ、同性恋愛はさすがにちょっと引いた。

 最近はニュースでよく見かけていたけどこんな身近なところにいたとは。


「あ……もう負けでいいよ、さようなら」


 変に可愛いのもまた問題だったね。

 なんでそれなのに私のところに来ていたのか分からな――はっ!

 やはり男扱いされていたのか、男として見れば悪くなかったと。

 お姉さんのプライドはズタボロだよ少年と内で呟く。


「……花田さんが連れてこいって言ったんじゃないですか」

「だからってその子が気になる子とは思わないじゃん」


 言うな、するのは勝手だ。

 誰が誰を好きになろうと自由だ、周りに迷惑をかけていないのなら謂れはないはず。


「頑張って、応援してる」

「……ありがとうございます」


 無理だ、これ以上一緒にいると気持ち悪いと言いかねない。

 相手の子にも挨拶をしてからこの場をあとにした。

 いやぁ、まさかねえ、そっち側の世界がこんなに近くにあるとは。


「地味子」

「最低最悪の大学生さんじゃないですか」


 今日はどうやら一人のようだ。

 珍しいな、家はここら辺にはないって聞いていたのに。


「お前に用があったんだ」

「それならいますぐに言ってください、あなたを見ていると殴りたくなってくるので」

「万理と別れた」

「ぷふっ、ざまあみろですよ」


 別れるぐらいなら友達を続けていてよと考えてしまった。

 もっとストイックにいかなければ、弱いところを見せてはならない。


「最近会ってないんだ、様子を教えてほしい」

「あのですね、あなたのせいで一緒にいられなくなったんですが」

「は? 俺はなにも言ってないぞ」

「え、私といるなら別れるって言ったんじゃないんですか?」

「言うか馬鹿、そこまで独占欲を働かせていないぞ」


 おいおいおーい! それじゃ単純に私といるのが嫌だったみたいじゃんっ。

 嘘をついているような顔もしていないし、なんだかなあという感じだ。


「ちょっと詳しく話が聞きたいです」

「俺も聞きたい、教えろ」


 あったことを全て説明。

 とはいえ、ただそう言われて友達ではなくなっただけだけど。


「なるほどな、それは余程のことだな」

「まあ、小学生の頃からずっと一緒にいましたからね」

「お前のせいか」

「違います、あなたが悪いんです」


 ドライな自分がいるのは確かだった。

 切られてもそうかあぐらいにしか思えなかったから。

 振られてしまった拓馬さんよりは傷つくことでもなんでもない。


「なんでいきなり別れるって話になるんだよ」

「それはあなたが愛していなかったからじゃないですか」

「やることはしていたがな」


 新しいもっと身近な男の子に興味を持ったんだ。

 そんな軽い子ではないと思っていたけど、分からないことだって多いままだしね。


「で、お前は? なんでそんなに疲れた顔をしている?」

「最近色々とありまして、でもそれもやっと終わりそうです」

「そうか」


 直接話を聞く気はないのでここで終わりだ。

 友達ではなくなった、ただこれからもそれは変わらない。


「なにかあったら教えてくれ」

「諦めた方がいいですよ、もう戻ってきませんよ」

「仮にそうでもどうなったかぐらいは知りたいだろ、元彼氏としてな」


 そういうものかな、自分の元をいきなり去った子のことなんて忘れればいいのに。


「こっちは忘れられないけどね」


 あれだけこちらに迷惑をかけておいて結果はあれって。

 しかも本当に顔のレベルが負けていたし、もう私のライフは冗談抜きで〇だった。

 とても恐ろしい、誰になんと言われようが普通だとは思えない。

 じゃあ誰からも求められない自分はとまで考えて、滅入るだけだからとやめたのだった。




 一ヶ月ぐらいが経過した。

 その頃、私は知らなかったことを佐野くんから教えてもらった。


「え、あいつとは違う中学生と付き合ってる?」

「はい、そのようです」


 聞いた時は私も驚いたけど。

 まさか小澤くんと付き合っているなんて誰も思わないだろう。

 この一ヶ月の間に何度か会ったけど、なにも言ってくれなかった。

 でも、やっぱり最初からそのつもりだったんだなって納得がいって。

 雨宿りしていた私のところに来たのは万理ちゃん目当てだったんだなあと。


「そうか、教えてくれてありがとな」

「はい、それじゃあこれで」


 若い子には勝てなかったか。

 どれだけ尽くしていてもあっさりと終わりを迎える。

 心まで引き止められるかどうか分からないって怖いよなあ。


「待て、いまから会いたい」

「それはいいですけどやめてくださいよ? 突撃とか」

「しない、どうせこの後は暇だろ?」


 失礼な人だ、こっちはお菓子を食べるって予定があったのに。

 どうせなら奢ってもらおう、なんか財力に余裕がありそうだし。


「よう」

「こんばんは」


 出会った男の人は全滅か。

 なんだかんだ言っても期待していた自分の期待は打ち砕かれた。

 母にご飯はいらないと言って、拓馬さんには無理やりご飯に連れて行ってもらう。


「俺よりでかいのか」

「あの、そもそもどうやって出会ったんですか?」

「SNSだ」


 それってリスクもありそうだけど。

 あれか、自分ならなんとかできるって自信があったのかも。

 もうどれが本当のあの子の顔なのかが分からないから、あくまで予想レベルではあるが。


「学校帰りに食べるラーメンは最高でした」

「お前は金を払っていないからだろうな」

「すみません、今度払います」


 思えばこういう寄り道みたいなことをしたことがなかった。

 一緒に帰るだけで分かれ道がきたら別れるの繰り返し。

 休日はさすがに遊びに行っていたけど、制服を着たままどこかに行くって憧れだったんだ。


「あれ、拓馬じゃん」

「万理」


 おぅ、彼女の横には真顔の巨人が。

 それよりもこの人がやらかさないかが不安だった。


「よっ、翠っ」

「う、うん、なんか久しぶりだね」


 もうほぼ二ヶ月近く経過したことになる。

 いままでこんなことは一度もなかった、例え喧嘩をしても翌日には仲直りしていたぐらいだ。


「拓馬といるのはそういうこと?」

「ううん、相談に乗ってもらっていたんだ」


 実際、話せる人ってこの人ぐらいしかいないし。


「ま、もう振ったから自由にしてよ、じゃあね」

「うん、じゃあね」


 最後まで小澤くんは黙ったままだった。

 意外だったのは拓馬さんが我慢してくれたこともそうだけど。


「でけえな、しかもそのでかさに負けない雰囲気まで携えてやがる」

「ま、まあ、若さには勝てないですよ、拓馬さんも早く次に進んでください」


 安心してほしい、男の子相手に敗北を喫した人間よりはマシだ。

 おまけに浮気とかじゃない、はっきり終わらせてくれたのなら責めることもできない。

 って、簡単に割り切れることじゃないだろうけどね、いまだって複雑そうな顔をしているし。


「クソ中学生はどうしたんだ?」

「あの子は気になる子を振り向かせるために努力中ですよ」

「それじゃあお前は一人か、学校でも一人でいそうだな」

「正解です、担任の先生ぐらいしか話せないですよ」


 松井先生のあの冷たい顔で見られると正直ゾクゾクする。

 美人教師を独り占めできるのは大きい、嫌っていても無視できないから可愛い。


「俺と同じだな」

「嘘でしょうけどそう認識しておきます」

「そうだ、俺の家に来ないか?」

「え、もしかして地味子を落とそうとしています?」

「そうかもな、ほら行くぞ」


 まあいいやと考えた自分が馬鹿だった。

 距離が遠すぎる、これじゃ絶対に母に怒られてしまう。


「あの、まだ着かないんですか?」

「すごいだろ? この距離をほぼ毎日移動してきてたんだぜ」

「結局万理ちゃんは……」

「虚しいとは思ってねえよ」


 大人だ、内はどうか分からないけど。

 それからさらに三十分ぐらい移動してやっと着いた、みたい。


「一人暮らしなんですね」

「こっちの大学のためにな、入れ」


 中はなんだか寂しい感じがした。

 必要最低限の物しかないように見える。

 大学のためと彼女であった万理ちゃんのためにほぼ使っていたんだろうな。


「ほら、お前にはブラックコーヒーだ」

「あ、ありがとうございます」


 試しに飲んでみたら泥を食べている気分になった。

 ちなみに実際に口に入ったことがあるから分かる。


「今日は泊まっていけ」

「それなら先に言ってくださいよ、着替えとかないのに……」

「気にするな」


 ……先にお風呂に入らせてもらいながらどういう状況かって何度も考えていた。

 お持ち帰りというわけでもないだろうし、もしかして寂しいのかな?


「……嫌だけど下だけはそのまま履いて、この借りた服を着ればいいよね」

「なにぶつぶつ言ってんだ、出たならどけ」

「ちょ、もうちょっと後から来てくださいよ」

「着てるんだから問題ないだろ、ほら向こうへ行ってろ」


 どうせ移動するしかないんだから何度も言われなくても分かる。

 でも、気軽に男の人の家に来てしまったのは良くない気が。


「うーん……」

「せめてソファにしろよ」

「いや、なんのために私を連れてきたんですか?」

「男女なんだぜ、そんなの一つに決まってるだろ」

「え、いや、ちょ……って、そんなお酒を飲もうとしながら言われても」


 まるでこちらなんか見ていなかった。

 適当に缶を持ちながら天井を見上げている。

 分かる、私もどうしようもない時はそうやってよくしていたから。


「できることはなるべくしたつもりなんだがな」

「ジュースってないですか?」

「ある、適当に出して飲め」


 冷たい飲み物で火照った体を冷ます。

 そうなってやっと少し落ち着いた、ただ人の家に泊まるというだけだ。

 しかも失恋中なわけだし、男の子に敗北する女だし。

 万理ちゃんの後じゃ欲情することもできないレベル。


「お前、煽ってくれたよな」

「うっ……で、でも、拓馬さんだって私のこと地味子だって」

「実際その通りだろ」

「そうですよ? 私が一番分かっています」


 な、なるべくこの話はここで終わらせておこう。

 こればかりは私もやらかしてしまっているから佐野くんの時とは状況が違う。

 なにより悲しんでいる人を馬鹿にするようなことを言ってしまったのは確実に悪い。


「もうお前でいいわ」

「え、酔っているんですか?」

「いや、他の奴を知らないお前だからこそいい」


 ソファまで連れて行かれてしまった。

 しかも電気をわざわざオレンジのモードにして……。


「なんだその顔」

「いや、いきなりこんなこと……」

「ふっ、冗談だよ」

「おぉぅ、重いですよ」


 もしなにも言わなかったら自由にされていたのかな?

 一応理想の人ではあるけど、意地悪だからなあ……。


「……あとお前、上、隠せ」

「え?」

「なんで下だけで満足したんだよお前」


 え、あんまり薄くないシャツだから大丈夫だと思ったのに。

 やばい、地味子なのにこれでは痴女になってしまう。


「それで電気を消してくれたんですね、ありがとうございます」

「電気を消したのは……お前が眩しいかと思ったからだ」

「襲おうとしたかったからじゃなくてですか?」

「いやでも、お前が理想なのは確かなんだ」

「嬉しいです、女として求めてもらえるなんて」


 相手が失恋中でなければ、元友達の元彼氏じゃなければ。


「お前、本当に一度もないのか?」

「ないですよ、抱きしめられたことすらないです」

「付き合ったことも?」

「ないですよ」


 あったらこうなってはいない。

 中学生時代ももう少しマシに歩めたと思う。

 後輩に舐められた二年間、虚しい……絶対にもう味わいたくない。 


「なかなかいないな、高校二年にもなってそれって」

「だから私を選んだ人は新鮮さを味わえますよ」

「モテないから逆に新鮮ではないんじゃないか?」

「おぇ……」


 それなら吐き気を我慢して食べてもらうしかないな。

 そうすれば腐った状態から少しぐらいはマシになる。


「腹減ったからなにか作るか」

「さっき食べたじゃないですか」

「あれじゃ足りない、お前も食うだろ?」

「太っちゃいますよ……」

「いい、もう少し肉をつけとけ」


 あ、でも爽やかでなんか食べやすいものを作ってくれた。

 なんていうのかは分からないけど、ラーメンを食べた後でも問題ないぐらいで。

 しかもジュースに大変合う、色々なことは気にしないことにした。


「よし、寝るか」

「そうですね~……」


 やはり食べ終えた後はすぐにこれだ。

 明日は相当早く起きないと学校に遅刻しちゃうし、早く寝ないと。


「おやすみ」

「はい、おやすみなさい」


 精神的に疲れていたのかな、すぐに眠気がやってきてくれた。

 で、多分あれからすぐに寝ていたんだと思うんだけど、途中で声が聞こえてきて目を開けて。


「涙……」


 下に到達する前に指で止めた。

 多分触れたことで気づいたんだろうけど、拓馬さんがこちらを見てくる。


「……お前そういうやつだったのか」

「違いますよ、声が聞こえてきたので起きました、そうしたら泣いていたので」

「言い訳すんな、俺の顔が見たかっただけだろ」

「自意識過剰ですね」

「……まあいい、それが望みなら俺からそうしてやるよ」


 いや、いやあのですね、そんな抱きしめられるようにしながらだと寝られないのでね。


「あ、あの……」


 もう駄目だ、聞いてくれる感じが全くしない。

 目の前にあるのは拓馬さんの胸だから別にそこまで緊張しないけどさ。

 まあいいや、寝られる大丈夫。

 実際にそのまま朝まで乗り越えたから無問題。


「起こす……いや、朝ご飯だけ作って早く学校に行かないと」


 本当に簡単なものだけど作って外に出た。

 遠い、遠いぃ、遠いい!

 こんなに長距離登校をしたのは初めてだから新鮮ではあったけど。


「おはよー」

「え、万理……ちゃん」

「そんな顔しないでよ、山本万理だよー」


 もうばれたからってことだろうか。

 いつも通りの彼女って感じ、無理をしているようには見えない。


「拓馬はどうだった?」

「んー、いつも通りかなあ」

「そっか、まあ振っちゃったからいいんだけどさ」

「なんで……振っちゃったの?」

「だってなにもしてくれないからさー」


 許可したのになにもしなかった、ということだよね。

 実は拓馬さんも女の子が怖かった――というわけでもないだろうし。


「優しくしてくれるだけじゃ嫌なの、女としておかしなこと言ってないよね?」

「うん、恋人だったらね」

「うん、ま、優くんも同じなんだけど」


 彼女は「これから変わってくれると嬉しいな」と残して教室へ戻っていった。

 こちらは先程からぶーぶーと鳴り続けているスマホをチェック。


「あ゛……お母……様」

「なんで昨日帰ってこなかったの!」

「あ、あれ、連絡したはずでは……」

「ラーメン食べてくるー、ラーメン美味しかったーまでしかなかったわよ!」

「すみませんでしたっ、友達の家に泊まっていました!」

「それってまさか男じゃないでしょうね!」

「ないないっ、私に限って男の人の家に泊まるとかないですよ!」


 ないない、拓馬さんは失恋中だから男の人としてノーカウントだ。


「今日はすぐに帰りますっ、なので許していただきたい!」

「はぁ、すぐに帰って来なさいよ」

「うん、ごめんね、それじゃあまた」


 あとはたくさんきているこれをどう捌くか。


「おはようございます」

「あ、松井先生、おはようございます」


 くぅ、今日も冷たい顔がいぃ!

 無駄にハイテンションでいたらこちらを睨みつけるようにして「禁止はされていないですがなるべく使わないでくださいね」と言われて思わずはいぃっって返事をするところだった。

 が、こ、こっちはしつこいっ、ぶぶ、ぶぶっていまこうしている間にも送られてきている。


「あーもうなんですか?」


 さすがに教室ではできないからちょっと移動して電話をかけた。


「……学校か?」


 ちょっと気だるそうな声音。

 お酒にあまり強くないのかもしれない。


「はい、あのままだと遅れてしまうと思ったので、あ、ご飯食べてくださいね」

「……起こせよ」

「だって私を抱きしめながら安心したような顔で寝ていたので」

「見るな馬鹿。まあいい、学校頑張れよ」


 なんか兄ができたみたいだった。

 実際にそうだったら過保護そうだなあ、お弁当とかを作ったら喜んでくれそう。

 それであとは甘えてくれたりしたら嬉しいかも。


「花田さん、あまり利用しないでくださいね?」

「す、すみません、心配性な兄からの電話でして」

「お兄さんはいないじゃないですか」


 色々ばればれなことはともかくとして、今日も先生と話せて良かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ