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067作品目  作者: Nora_
4/8

04話

「あ……まだ起きてたんですか」

「そっちこそ」


 終わったはずなのに同じ場所にいる。

 しかも私の家だ、これではまるでふたりきりみたいな感じ。

 小生意気どころではなかった、可愛げがまるでない中学生。

 普通はなんかキュンとしちゃうぐらいの対象のはずなのに、いいのは見た目とかだけだ。


「私はずっとここにいたの、なにしに来たの?」


 終わったままなのは変わらない。

 あくまで響子さんに頼まれたから家を貸しているだけ。

 ちなみにこのことについて母に怒られているから彼への憎しみが余計に強くなっている。


「寝ないんですか」

「適当なところで寝るよ、中学生は早く寝なさい」


 神経がすごい。

 普通あれだけ自由に言っておきながら私を悪く言うつもりはなかったなんて口にはできない。

 いつの間にか表面上すらも偽らなくなった、みんなが残酷で思ったことをぶつけている。

 そういうところをきちんと叱れる万理ちゃんみたいなタイプならともかく、私みたいなタイプは面白くもないのにあははと力なく笑って濁すことしかできない。


「あの、ここにいてもいいですか?」

「なんで?」

「……話したくて」


 まだ戻るつもりはなかったから了承しておく。

 こんな時間に中学生の大して仲良くない男の子といるのは不思議だ。

 向こうの方が思っているだろうけど。

 謎だったのは話したいと口にしておきながら三十分ぐらい黙っていたこと。


「早く喋ってくれないと眠くなっちゃうよ」

「……なにを言えばいいのか分からなくて」


 こっちの方が分からない。

 ああ、この沈黙が嫌だ。

 そうでなくてもこっちは万理ちゃんと関係が終わってしまったから一人でいたいのに。

 ま、これから好きなだけ一人でいられるんだけどっ。


「少年」

「なんですか?」

「相手を悪く思っても我慢できるようにならなきゃダメだ」

「でも、全て本当のことじゃないですか」


 はい、これだとまた同じようなパターンになりますね。

 なんだこいつっ、なにがあったのかは知らないけど泊めてやってんのにっ。

 どんどん嫌いになっていく、いままで甘やかされてきたんだろうな。


「はっ! 思わず出てきてしまった」


 深夜ということもあってしんと静まり返っている。

 大好きな(大嘘)あの公園に向かって、着いたら地面に寝転んだ。


「おぉ」


 今日は天気もいいこともあって星空が綺麗だ。

 木のせいであまり広範囲を見られるわけじゃないけど、大変落ち着く。

 ただ、ちょっと怖いのはあるかな、もう二時を越えちゃってるし。


「危ないですよ」

「ひっ」

「そんなに驚くぐらいならこの時間に出ないでくださいよ、そのせいで俺までいちいちこうして出る羽目になったじゃないですか」


 勝手に横に座って「あんまりいい思い出がないこの公園に」と呟く。

 いや知らんわそんなこと! 勝手に付いてきて気持ちが悪いんだから。


「どうせ君も学校で一人なんでしょ、嫌われていそうだもんね」

「幸い周りには人がいてくれてますよ、どこかの誰かさんと違って」

「どうだか、仮にそうでも気になる子は振り向かせられないから意味ないけどね」


 いつか必ずボロが出る。

 そしてそういうのを他者は簡単に見破るものだ。

 内面が素晴らしくないんじゃ意味がない。

 見た目にだけ惚れる人間はいるだろうけど、付き合ってもすぐ別れることになるだろう。


「あんたなんにも学んでねえな」

「事実でしょ」


 もしそれでも受け入れられたのなら、悪いけど女の子の見る目がないとしか言えない。

 同じような性悪だったのならともかく、多分そうじゃないだろうから。

 でも、相手が格好良ければどんな性格だろうと良く見えちゃうんだろうな。


「誰も助けてくれないんだぜこの状況じゃ、なのに男を煽るようなことしていいのかよ」

「君が我慢できないみたいだから私もしているだけだよ、年上だからってなんでも我慢させられるのはむかつくからね」


 こっちに伸ばしてきた腕を掴んでそのまま地面に押さえつける。


「それに私、弱いつもりないよ」


 結構過酷な中学生時代だったから嫌でも強くならなければいけなかった。

 ある程度メンタルが強いのはそういうことかも。


「わ、分かったから離せよ……別にそういうことをしようとしたわけじゃない」

「嘘つき、えっちな本みたいにやろうとしていたんでしょ?」

「あんたみたいな地味子とやるぐらいなら男とやった方がマシだ」

「可愛くない、罰としてずっとこのままだから」


 そこまで魅力がないのかって心が泣いていた。

 男の子とやった方がマシなんて出てくるぐらいだもんね。


「いい加減にしろっ、そろそろ怒るぞっ」

「ダメ、ずっとこのままだよ」


 あれ、上から押さえつける方が強いと思っていたのに気づいたらまた空を見上げていた。


「はぁ……俺たちは深夜の公園でなにやってるんだ……」

「うん、本当にそう思う」


 だからって乱暴をされるわけでもなく、佐野くんも横に転がっただけ。


「いいな、友達がいて」

「……彼氏に言われた程度でやめるようなやつなんかどうせクソだ」

「クソさについては君も変わらないですが」


 しょうがない、親友よりも好きな人なんだから。

 どちらにしてもあの教室では一人だったんだから変わらないし。


「ね、本当にそれぐらい魅力ない?」

「は? 地味だからな、あんたより可愛い男子がいるぞ」

「そっか」


 まあいいや、早く帰ろう。

 なにより中学生を寝かせなければ不味い。

 あと、ばれたら母に絶対に怒られるから。

 ま、怒られたんだけど、しかも響子さんにも。

 人間性も、女としても否定された嫌な時間となった。


「はぁ……」


 五時くらいに意味もなく外に出た。

 一時間寝たらすっきりしたから特に問題はない。

 早朝のこの感じが私の心を落ち着かせる。


「あれ、花田さんですよね?」

「うん、おはよう」


 どうやらランニングをしていたようだ。

 これから学校があるというのに元気な子だなというのが正直な感想。


「こんなに早い時間にもう登校ですか?」

「ちょっと最近嫌なことばかりあってね、たまにはこういう時間に家を出るのもいいかなって」

「いいですよね、僕も早朝の雰囲気が好きですよ」


 佐野くんのことをコントロールしてって言っても無駄だよね。

 多分こうなっていることすら知らないんだろうし、無駄に演技力だけは高いんだな佐野くん。


「あ、気にしないで続けてよ、私はゆっくり歩きたいから」


 だってそうしないとかなり早い時間から校門に張り付くことになる。

 止まったら駄目なんだ、きっとごちゃごちゃとした思考が襲ってくるから。

 いまこの時だけは限りなく牛歩でいい。


「あ、花田さん!」

「げっ……」


 制服を着て佐野くんも学校へ行く準備が整っていた。

 ちなみにまだ小澤くんはいるから任せることはできるけど……。


「優はいつものか」

「ああ、体を動かしておかないと落ち着かないんだ」

「とにかくこの人の足止めさんきゅ」

「別にそういうつもりは、それじゃあ僕はこれで」


 嫌だ、一緒にいたくない。

 学校前から精神を疲労させたくない。


「もう終わりでしょ、来ないでよ」

「それ、本気で言ってます?」

「当たり前じゃん、君のことは大嫌いだし」


 腕を思いきり掴まれてつい声が漏れた。


「あ、すみません……バスケやってるから握力強いですよね」


 ただ、すぐに力が弱められて優しい掴み方になる。


「やっぱりなしにしてくれませんか、終わりって話」

「やだよ」

「だってそうしないと一人じゃないですか、外に一人ぐらいは安定して喋ることができる人間がいた方が気が楽だと思いますけど」

「だったら小澤くんの方がいい、君は意地悪だし」


 口を開けばこちらを悪く言うばかり。

 泊めてもらってる分際のくせに我慢すらできない子ども。

 そのくせ逆ギレをする、いまだって勝手なことを言う。

 彼の両親や姉、関わる人、全員が甘くするからこうして付け上がる。

 

「お願いします」

「嫌だよっ、どっか行ってっ」


 無理やり振りほどいて前へ。

 もういまはゆっくりとかどうでもよかった、距離を作りたかった。

 運がいいことにもう入れるようになっていて学校敷地内に逃げ込んだ。


「はぁ、はぁ」


 あれ、もう校舎の中にも入れるみたい。

 階段を上がって三階へ、この静けさが心地いい。


「おはようございます」

「おはようございます」


 担任の松井先生だ、無表情のまま本を呼んでいる。

 なんでこの時間から教室にいるんだろうかと、とても不思議だった。


「早いですね」

「はい」


 こちらだってできればこんな時間に出たくなかったけど。

 しょうがない、家すら落ち着かない場所になっていたから。

 勝手な中学生に困ってしまっている、だから読書をできる余裕があって羨ましい。


「ちゃんと寝てないですね」

「本を読んでいるのに分かるんですか?」

「分かります、声に元気がありませんから」


 意外と徹夜とかは得意な方だ。

 その日にあったことを発散させていたら朝だった、なんてことがたくさんあった。

 夜遅くまで練習をしたことだってあった、結局意味はなかったけれども。


「今日も私の授業が午後にあります、寝ないでくださいね」

「あの、せめてこっちを見て話してくださいよ」


 その価値すらないのかって悲しくなるじゃん。


「見たくないです、いまのあなたは痛々しいですから」

「ちょ、教師なのにいいんですかそんなこと」

「私もあなたと同じ人間ですから」


 松井先生は本を閉じて「昔の自分を思い出して嫌になりますから」と言って出ていった。

 うん? ということは私もこのまま続けていれば先生みたいに美人になれるのか!


「ないか、ないけど問題はないかな」


 一人でいることより、一人になれないことがいまの私には問題だった。




 悪い意味で贔屓されることがなくなったため暫くの間遭遇することはなかった。

 私はただ学校へ行って家に帰るという理想の毎日を送れていた。

 変わらない毎日が素晴らしかったんだ、なにを贅沢を言っていたのかという話である。


「こんばんは」


 今度は十二日。

 それならせめて十四日にすればいいのにと思わなくもない。


「まだ一人ですよね?」

「仮に君と友達になっても高校生活が楽になるわけじゃないでしょ」

「精神的負担は減ると思います」

「そうだね、君といないと精神的に疲れることがなくて楽だよ」


 答えることすら面倒くさかった。

 でも、扉の可動域の間に足を置かれていたらどうしようもない。

 このままここで話をしているとまた母に怒られるから、今日はちゃんと言ってから外に出た。


「すみませんでした」

「形だけの謝罪とかいいよ」

「お願いしますっ」

「だって悪く言うじゃん……」

「言いませんっ」


 って言っていたのにすぐ悪く言ったじゃん。

 もう分かっているはずなのに弱いところを突いてくる。

 やめてくれと言ったのに嬉々としてしてきてたのに。


「じゃあ一つ約束してよ、もう夜は来ないで」

「そ、それじゃあ会えないじゃないですか」

「会う必要はないでしょ、別になにがあるわけでもないし」


 男の子より可愛くないんだし。

 そんな人間といようとするのはおかしい。


「気になる女の子が無理だったらその可愛い男の子にでも相手をしてもらえばいいじゃん」

「俺は何回でも来ますからね」

「やめておいた方がいいよ、お母さん怖いからね」

「それなら何回でも出てくれればいいじゃないですか!」


 ああ、しつこい。

 逆にブス専なのかな? 中身は悪いままだからなんにも嬉しくないけど。


「なにが目的なの?」

「だから俺が友達になってあげようとしているんですよ」

「偉そうだね、それに君と違って一人の時間は多かったから問題ないよ」


 問題なのは君が来ることだとも吐いておいた。

 強がりじゃない、いつだって一人だったことに気づいたんだ。

 私はそれで上手く乗り越えてきた、幸い苛めとかもなかったしね。


「友達にはなってあげるから来ないで、じゃあね」

「それじゃ意味ないですよ……」

「私のところに来る理由はさ、本命の子と上手くいかないからでしょ? 私ならなんでも言っていいって下に見てるんでしょ」

「じゃなくて俺は……」


 ペースを乱した時点で彼の負けは決まっている。

 冗談でもあんなことを言ったら嫌われて当然だ、本人はそれが悪質であることを気づけていないから困ってしまうが。

 そりゃ劣っているって思うよ、だって思ったことを我慢できずに口に出してしまうんだからね。

 しかもそう言っていれば同情で「分かった」と言ってくれると考えてしまっている。


「君のことが嫌い」

「嫌いなままでもいいですからっ」

「じゃあそうするよ、それじゃあ」


 現実はそう理想通りにはいかないってことをいまから分かっていた方がいい。

 何度も繰り返すのは面倒くさいし、次は絶対に出たりなんかはしない。


「ただいま」

「ねえ、あの子に付きまとわれてるの?」

「うん、嫌だって言っても来るんだ」


 間隔は空いているけど、逆に効果的に私に負担をかけている。

 もう来ないかもと考え始める頃に敢えて来るという意地が悪い選択。


「次から出ないわ」

「そうして、もう一緒にいるの嫌だから」


 が、私と母の努力も虚しいぐらいに毎日来るようになった。

 もうこれは警察に行ってもいいぐらい、ストーカーと呼んでも過言ではない。

 母に迷惑をかけるのは嫌だったから一週間後ぐらいに私が折れた。


「分かったから」

「自分の言ったことを守っていただけですよ」

「で、なにがしたいの? 私と会ってさ」

「仲良くしたいんです」

「いいよ」


 あれ以上放置すると事件になりかねない。

 なにより響子さんがなにも連絡してこないのが問題だろう。

 どうして姉が止めない、成人しているなら責任だってあるはずなのに。


「……こういうのが良かったんですよね?」

「違うよっ! こう、なんというかさ、ちょっと偉そうだけど一途に愛してくれるような人がいいのであって、仲良くもない、嫌いな子にしつこく家に来られてたら怖いよ、下手すりゃ殺されるかもしれないって考えたぐらだいだよ!」


 なんにも分かっていない。

 それこそ最初のみたいで良かったんだ、いきなり呼び捨てとかね。

 でも、中身はクソだったらときめきようもないしなあと頭を悩ませる。

 残念ながら見た目だけに流されるような軽い人間ではないようだ。

 しょ、初日はああだったけど、ここまで本性を見せられれば惚れることなどできない。


「もしかして……失敗してました?」

「そうだよっ」


 意地でも一緒にいようとする点は彼氏みたいだったけどね。


「なにやってんだ……」

「それはこっちのセリフ……」

「すみません、どうすればいいのか考えていたら花田さんの発言を思い出したので実行していたんですが……」

「それっていつから?」

「ほぼ……最初からです」

「ちがーう! この下手くそくんっ!」


 偉そうなところって情報が良くなかったのか。

 一途に愛してくれるのがいいって言っておけば良かった。


「違う意味でドキドキしたよっ」

「父がこういう風だったのに母と付き合えたって言っていたので……」

「違うっ、もうこれからはやめて!」

「分かりました、もうしません」


 本当に悪影響しか与えないなっ。

 悪く言うのはあれだけど言いたくなっちゃうよ。


「あの、信じてもらえないかもしれないですけど、全部嘘ですからね?」

「はい嘘つきー、もういいよ、どうせ魅力がないのは確かだし。この話題は終わり」


 もう君が信じられないよ。

 なにが嘘なのか、なにが本当なのかも分からない。

 分かっているのは彼が言うように男の子より劣っているということだ。

 色々とボロボロだった、さすがに男の子より見た目が下だと言われたことが響いた。


「いいんだ、女としてはもう死んでいるようなものだし」

「死んでませんよ」

「ありがとう、クソだけど優しいところもあるんだね」

「花田さんっ」


 なんか私思い~みたいな感じだけど、こうしてくれたの君だから。

 なんだっけ、あ、これがマッチンポンプってやつだっけ。

 こういうことだけは演技力が高いから女の子は騙されるんだろうね。

 こっちはクソな部分をたくさん見てきたから無理だけど。


「その男の子に会いたい、明日連れてきて」

「は……いや、そんないきなり……」

「可愛いんでしょ? それとも可愛くないのに私より上なの?」

「……分かりました、連れてきます」


 それで打ちのめされよう。

 女を捨てよう、努力しても叶わないことばかりだから。

 周りの評価なんて私程度の努力じゃ変わらない。

 が、これを選択したせいで私は猛烈に後悔することになった。


「え、この子が気になる子なの?」


 と。

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