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067作品目  作者: Nora_
3/8

03話

「友達になってほしい、ですか?」


 そうだ、頼れるのはいま佐野くんぐらいしかいない。

 だからそのためにこの前のことも謝っておいた。

 大して仲も良くない人間から触れられたら嫌だろうしね。


「そもそも友達だと思っていたんですけど、違ったんですね」

「君はあくまで小澤くんから気になる子を離れさせるためだったでしょ?」


 好きな子はいないけど気持ちは容易に想像できる。

 そりゃ気になる子が親友といたら気になる。

 いっそのこと知らない人だったらまだマシだったのにと思うことだろう。


「そんなこと言いましたっけ?」

「言いました」

「俺の口から出たことじゃありませんよね?」


 あ、そういえばそうだ。

 でも、響子さんが嘘をつくメリットもない。

 間違いないと思っていたが、この表情を見るに違うのだろうか?


「でもいいですよ、友達になってあげます」

「うん、ありがとう」


 んー、だけど初めてのお出かけがあんなだったからなあ。


「あのさ、あんまり痛いところを突いてくるのはやめてくれないかな」

「ああ……気にしてたんですか」

「そりゃ、気になるよ」


 年下からだと余計にダメージが入る。

 なんでも言っていいと思っているのかもしれないけどさ、それじゃ選ばれないよ。


「いや分かるよ? 私は地味だし、諦め癖もあるし、それを指摘したくなるのはね」


 なにか優れているところがあるわけでもない。

 クラスメイトからは変人扱いされているぐらいの人間。

 多分自分の方が上だって本能で分かっているんだろう。

 なら、私みたいな弱者に優しさを見せてほしいというわけ。


「ま、気になる子のことで困ったら言ってよ、少しは協力できるかもしれませんし」

「正直、頼りないですね」


 話を聞くだけでも役に立てると思うんだ。

 抱えたままだとどうしようもなくなる時もあるだろうし。

 私も万理ちゃんに聞いてもらうことで上手く発散できたことが多かった。


「そのことについては自分でやります、他人の力なんて必要ありませんよ」

「そっか」

「そもそも万理さん以外に友達がいない人にできることじゃないですよ」


 痛え……ぐっさりと刺さったよ。

 ここまで冷たいのはあれか、小澤くん狙いではなかったからか。

 自分の力で頑張ろうとしているのにそれを望むのはおかしいよなあ?

 やっぱり響子さんが勝手に言っているだけなのかな、まあ細かいことはどうでもいいや。

 プライドは捨てた、どれだけ冷たくされようと気にしなければいい。


「大体、中学生に本気で友達になってほしいと頼むって恥ずかしくないんですか?」

「恥ずかしくないよ、君がいまからどれだけこっちを酷く言おうとね」

「あーあ、どうせなら万理さんが良かったな」


 分かる、万理ちゃんが側にいると心強い。

 だからずっと友達でいたい、あの子がどう思っていようともだ。


「はぁ、それなのに俺はこんな人に目をつけられて最悪だな」


 試しているだけ、内側はそこまで考えていないはず。

 が、避ければいいのにこちらにわざわざぶつかるようにしてそのまま去ってしまった。


「えぇ……」


 倒れたわけじゃないけど地面に寝転んで思わず空を見上げたよ。

 困惑しかなかった、そこまで嫌われるようなことはしていないんだけど。


「あれ、翠ちゃんじゃん」

「あ、こんばんはー」


 頼む、響子さんはいつも通りであってくれ。


「寝転んでたら汚れちゃうよ?」

「趣味なんです、こうして空を見上げるの」

「そうなんだ、あたしもしてみよ」


 本当に今日の空は見ていて落ち着く。

 お昼とかじゃないから真っ暗だけどね、その黒さが吸ってくれる気がするんだ。


「ね、航平と喧嘩した?」

「いえ、一方的に嫌われただけですね」

「嫌わないであげてね」


 プライドは捨てたけど……それとこれとは別かも。

 ただまあ、これからも自分から呼ぶことはないと思う。

 さすがにあそこまで嫌われちゃあねえ、響子さんの頼みでも無理だ。

 ああ、もう諦めようとしている、連絡先さえ消して逃げようとしている。


「それなりにメンタルが強いつもりだったんですけどね、あそこまで言われると凹みます」

「あの子は近づいて来る女の子を疑うことから始めるからね」

「それならもう止めます、これ以上は傷つきたくはないですからね」


 きっとなにもこの先起こらないんだと考えていた。

 でも、傷つかなくて済むのなら現状維持のままでいい気がしたんだ。

 進んで悪く言われたい人間なんかMな人だけ、残念だけどそんなメンタルは備わっていない。


「そっか、うん、翠ちゃんの選択ならしょうがないね」

「ありがとうございました」

「連絡先交換しよっか、航平とはいなくてもいいからさ」

「はい」


 夜の公園に寝転びながら嫌いになってしまった子の姉と連絡先を交換した。

 自分のスマホを抱きつつぼうっと空を見上げて、少しの間二人で過ごして。

 お母さんに呼ばれたということで響子さんは先に帰っていった。


「なにやってんだよ」

「君の願い通り、付きまとうのは止めてあげるよ」


 立ち上がり先程の仕返しをしてそのまま歩きだす。

 舐められたままではいられない、年上だからなんだ、年下が調子に乗ったらこうでしょ。


「ただいま」

「いま何時だと思っているの?」

「えっと、十九時過ぎだね、ごめんなさい」

「……まあいいわ、ご飯を食べなさい」

「うんっ、食べる! お母さんの作るご飯は美味しくて大好きだし!」


 でもさ、この場合ださいのは自分だよねと。

 頭を下げて頼んでおきながら想像と違ったらあっさり止めるって。

 つまり彼の試みは成功したわけだ、面倒くさい女はこれで遠ざけられたんだからね。


「お母さんはいいなあ、お父さんと上手く付き合えてさ」

「急になによ」

「私、子どもを見せてあげられないかも」


 そもそも仲のいい男の子もいない。

 あと、かなり異性のイメージってのが下がっている。


「もう考えなくていいわ、学校生活を楽しみなさい」

「うん、願ってもムダだからね」


 それでもこの人だって人を見つけてしまえば変わるのかな。

 今日は特に報告はしなかった、というよりも反応がなくてできなかったのだ。

 もしかしたら恋人らしいことをしているのかもしれない、邪魔するべきではないと判断して。


「地味子ですまねえ、使えなくてすまねえ、付きまとってすまねえよ」


 もうしないから安心してほしい。

 うーん、でもなかなかに悔しいなあ。


 


「この前は……すみませんでした」


 一週間が経過した頃、私たちはまたあの公園で会っていた。

 ブランコの前に設置していある鉄の囲いを挟んでの会話、またぶつけられても嫌だしね。


「もしかして響子さんに叱られて来たの?」

「いえ、違います」


 考えたところで分からないし、意味もない。


「ごめん、悪く言われるの嫌だから」

「……もう言いません」

「じゃあなんで一週間もかけたの?」

「優に聞いてもらって判断したんです」

「ふぅん、それでよく自分一人でできるなんて言ったね」


 佐野くんは嫌そうな顔をする。

 そりゃそうだ、自分より下だと思っている人間からぐさりと刺されたんだからな。


「忘れてくれればいいよ、彼氏がいるけど万理ちゃんにでも頼んだら?」

「……そんな態度だとこの先も可能性なんかないですよ」

「おぉ、この状態でもそんなこと言えるんだ、本当になにしに来たの?」


 それは私も同じこと。

 呼ばれたからって普通に向かった私が馬鹿すぎる。


「そもそも君と違って可能性がないからね」


 例え裏で誰かを悪く言う人間でも好く人はいるだろう。

 彼側は裏の顔さえ見られなければほとんど上手くいく。

 なんかずっこいなと、こちら側にもう少しぐらい救いがあってもいいのになと。


「話はそれだけ?」

「……もしかしてそういう意味で興味、ありませんでした?」

「ないないっ、しかも君のおかげで年下のイメージが最悪になったぐらいだよ」


 近づいて来る異性がみんな興味を抱いているなんて思うなよ。

 こういうところは中学生かもね、求められてきたからこそ出てくる謎の自信だ。


「じゃあ俺のしたことは無駄だったってことかよ……」

「いやだからやっぱり年下はダメだなって気づかせてくれたよ君は」


 敬語なんて全く使ってくれなかった。

 なんでもかんでも押し付けられてきたし、悪口だって平気で言ってきた。

 なんにも可愛くない、他の先輩には媚び媚びな態度だったのに。

 同級生がいいと考えられているのは万理ちゃんがいたから。

 もし万理ちゃんがいなければ年下も同級生も年上もダメだった。


「……花田さんを馬鹿にしたくてしていたわけじゃないんだ」


 こちらを的確に傷つけておいてなにを言う。

 なるほど、弱い部分を見つけられる能力だけは素晴らしいと褒めてあげよう。

 けど、年下とか年上とか関係ない、直接悪く言った時点で間違っているのは彼だ。


「……女子が好きだけど、女子が怖いんだ」


 なんでこれを聞いているんだろう。

 自分で終わらせた関係のはずだ、こんなことを聞いても仕方がない。

 私の様子には気づかずぺらぺら話そうとする彼の体を押した。


「え……」

「興味ない、そりゃ君じゃ小澤くんから気になる子は取れないよ」

「は……?」


 どうでもいいことだ、私は帰ることにする。

 ここに来た理由は本当の意味で終わらせるためにだったということにしておこう。


「待て、いまのだけは許せねえ」

「で、今度は暴力を振るの? なに被害者ぶっているの?」

「……いまのだけは取り消してくれ」

「事実でしょ、小澤くんは君みたいに悪口も言わないだろうしね」

「頼むっ」


 だから言ったのに、他の、その子のために時間を使いなって。

 休日にわざわざ会って、こちらを悪く言っている時間があるなら他のことがたくさんできる。


「……俺だって劣っているんだ、花田さんのことを悪く言えないぐらい」

「はぁ……分かった、取り消すから離して」

「離さない」


 とりあえず強制的に二人で寝転んだ。

 動けないからしょうがない、空でも見つめて心を落ち着かせよう。

 この分からない中学生の男の子の相手をするのなら平静を保たないと駄目だ。


「ね、その子はどんな子なの?」

「……目が丸っこくて笑うと可愛い子なんだ、髪の毛も綺麗に整えてて陽の光を浴びるとキラキラ輝いていてさ」

「会ってみたいな」

「……遊びに誘う勇気がない」


 年上を悪く言うよりも簡単だと思うけど。

 恋とはそういうものなんだな、積極的にいけばいいのに。


「なんで私がそういう意味で近づいているって思ったの?」

「……万理さん以外に友達がいないから」

「彼氏作りならもう諦めたよ」


 私は一生独身だ。

 大丈夫、他の人たちが決して少子化にはしない。

 

「きっといい人がいるよ、ゆ、優とか――」

「ムリ、いいイメージが湧かないもん」

「……俺のせい、だよな」

「元々年下のイメージが良くないんだ、舐められて生きてきたからね」


 努力しても同級生にすら追いつけなかった。

 年下は努力すらしていないと笑ったし、こちらを邪魔者扱いした。

 部活終了後なんかも残って頑張ったのにそれを否定された、堪えた。

 でも仕方がないんだ、スポーツなんだから使えなければそういう扱いをされるだけ。

 だから自分で頼んだぐらいだ、最後まで試合に出さないでくれって、雑用係でいいからって


「だからこれで終わりっ、ま、頑張れよ!」


 佐野くんの腕を掴んだらあっさり離してくれた。


「ごめんっ、私のしたことは逆ギレに近い行為だからね」


 最後に謝るのは卑怯かな?

 もしかしたらここで和解とかって可能性も、


「……そうですね、終わりにしましょうか」


 なんてね、そんなことは有りえない。

 一人とぼとぼと家に帰った。

 今日も反応はなかった、だから母を万理ちゃん代わりにした。


「情けないわね」

「うっ」

「私だってたくさんの人から妬まれたけれど、その全てを叩き潰したわよ」

「お母さんの血が通ってないのかな?」

「あなたは弱いっ、少し指摘されたぐらいで揺らいでしまうわけだし」


 あとははっきり言えないところがダメとも言われた。

 あれ以上言ったら怖さが倍増する、さすがに中学生を壊すわけにはいかない。


「相手が年下だろうが年上だろうが関係ないわ、舐められたら終わりなのよ」


 いや、こういう思考は似ているか。

 なんだかそれだけで凄く安心できた。

  

「最後は年上らしくいられた気がするよ」

「ふふ、そう、ならいいわ」

「友達は……いなくなっちゃったけど」

「どうせ卒業したら終わりよ、気にしなくていいわ」


 さ、さすがにそこまでストイックにはできないかなあ。

 んー、母みたいな強さがもっと引き継がれていればと思った一日となった。

 思っても、願っても叶わないのが現実ではあるから虚しいところではあるけれども。




「ごめんっ、拓馬が翠と関わるなら別れるって言うからさ!」


 そっかと返して彼女から視線を外す。

 クラスメイトの子もほぼ似たようなことを口にしていた、彼氏持ちならおかしくないことだ。


「――って、ことがあったんですよ」

「……なんでそれを私に言うんですか?」

「え、担任の先生じゃないですか、少しぐらい聞いてくださいよ」


 この人は嫌いでも絶対に近くにいてくれる。  

 それが教師という職業だ、これぐらいはしてもらいたい。


「ということはひとりぼっちじゃないですか」

「そうですね、松井先生はそういうのとは無縁そうですね」

「学生時代は一人でしたよ」

「あ、さすがにそこまでは求めていないです」

「本当のことです、輪に入れませんでした」


 松井先生は複雑そうな表情を浮かべて「勉強が捗りましたよ」と重ねた。

 すごいな、そうだったのに教師になってしまうなんて。

 でも、だったら私にもうちょっとぐらい優しくしてほしい……。


「松井先生は私のこと嫌いですよね……」

「はい、昔の自分を思い出すので」

「酷い……」

「諦めるのは気持ちいいですよね、だからついつい癖になってしまうんです」


 諦めないで教師という職に就けた人間が言うことではない。

 同情されると虚しい、なにもかもが劣っていて惨めだから。


「松井先生」

「あ、はい」


 戻ろうか。

 将来の自分も似たような子を見つけたら同じことを思うのかも。


「もしもし?」

「あ。あたしだけど」

「響子さん、どうしたんですか?」


 禁止というわけではないものの、さっとトイレに移動して続きを話すことに。


「今日、航平と一緒に家に行くから」

「な、なんでですか?」

「一日だけなにも聞かずに泊めて、集合場所はあの公園ね」


 切れた、別にそれぐらいならいいけど。

 けど、佐野くんが間違いなく気まずいと思うんだよね。

 ううん、私が一緒にいるのは嫌だ、また悪く言われるかもしれないし。


「ごめんね、お世話になる」

「はい、行きましょうか」


 それでも頼まれたのならしょうがない。

 家に連れていき、なんにもない部屋に荷物を置いてもらう。


「ちょっとあたしはコンビニに行ってくるね」

「分かりました」


 突っ立ったままでなにも言わない佐野くんに視線を向けた。


「……良かったんですか?」

「うん、なにかあるならしょうがないでしょ」

「あの、万理さんは……」


 あの子のこと好きだなあ。

 残念ながら、もう無理なんだけど。


「もう友達じゃないんだ」

「は……?」

「拓馬さんが――あ、万理ちゃんの彼氏さんが私と関わるの嫌がったんだって」

「え、じゃあ……」

「そ、一人だよ」


 私と同類じゃなくて良かったねと吐いて笑う。

 そのまま床に寝転んでぼうっと天井を見上げていた。


「一人でやっていけるのかよ?」

「うん、頑張るつもり」

「……これも俺のせいか?」

「違うよ、とりあえず座りなよ」


 極端で私のすぐ横に座る佐野くん。

 やっぱりいい匂いがする、またお風呂に入ってきたんだろうなあと想像ができた。


「ちょっと足借りてもいい?」

「は? お、おい」


 んー、なかなかに悪くない。

 こちらを見下ろす顔は嫌そうな感じだけど。


「どうすれば友達ができるかな?」

「頼むしかないだろ」

「頼んだ結果が全滅なんだよね」


 今度は呆れたような表情になって「どんなことをしたんだよ……」とぶつけられた。


「お弁当とか作って持って行っていたんだ」

「は? クラスメイトに?」

「というか、男の子限定で」

「……お前、そういうやつだったのか」

「必死だったんだよ、彼氏が欲しかったの」


 結果、男の子だけではなく女の子からも変人扱い。

 あの日々は、お小遣いは……ってなっちゃったんだよね。


「君とは違って地味だから」

「……それは本当だから意見は変えないぞ」

「しなくていい、だって本当のことだもん」


 借りるのをやめて立ち上がる。


「ま、ゆっくりしてよ」


 それぐらいの優しは多分自分の中にもあるはずだから。

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