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067作品目  作者: Nora_
2/8

02話

 いつもより闇が濃く感じる。

 恐らくでもなんでもなく私が恐れているからだ。

 お姉さんが代わりに電話をかけてきた、つまり常にチェックしているということ!

 なるほど、ここまでがワンセットだったのか! と戦々恐々としていたら「やあ」と声をかけてきた。


「すみませんでしたぁ! 決してお宅の弟さんに手を出そうとしたわけではないんですぅ!」


 なんなら土下座もしたよ。

 真っ暗闇の公園でなにをしているのかという話だけど。


「ん? なんの話? 私はただいつもの悪い癖が出たって分かったから呼んだだけだけど」

「あ、やっぱりそうですよね、佐野くんはモテそうですもんね」

「いや、航平はすぐ優とくっつけようとするからさ」


 親友として気になっているということではないだろうか。

 チェックして危険ではないか判断しているみたいな、小澤くんは分かりそうだけどね。


「ふぅん、翠ちゃんは高校生でしょ?」

「はい、高校ニ年生です」

「あたしは大学生三年生で響子きょうこだよ、よろしくね」


 大学三年生ということは最低でも二十歳か。

 お姉ちゃんがいる生活というのも一度は味わってみたかった。


「翠ちゃんは大人しく来てくれたからお礼に教えてあげる」


 佐野くんが小澤くんとくっつけたがっている理由は気になる子が近くにいるから、らしい。

 やっぱりいたんじゃんそういう子、なのにああいうことをしたらダメだよ。


「そういうわけだから気をつけてね」

「はい、ありがとうございました」


 練習台として利用されたくないし気をつけないと。

 そもそもやっぱり狙うとしたら同級生か先輩だ。

 響子さんと別れて帰路に就く。


「あ、さっき姉に会いました?」

「げっ、佐野くん……」


 こんな時間に中学生が出歩いたら怒られちゃうよ。


「と、年上だから言っておきますけどね、気になる子がいるならさっきみたいなことはしない方がいいと思いますよ!」

「え? あ、ははは! すみません、これからはしないので安心してください」

「それと小澤くんと仲良くするつもりはないから、残念だけど諦めてね」


 そんなの実力で勝ち取るべきだ。

 女の子は物ではないけどそういう風に頑張るしかない。

 そうでもなければ振り向いてなんてくれないだろうし。


「姉になにを聞いたのか分からないですけど、そちらこそ勘違いしないでくださいね」

「別に勘違いしようもないでしょ、それじゃあね、早く帰りなよ」


 情報が小出しだったけど確実なものになった。


「危なかったぁ……」


 良かった、佐野くんに気になる子がいて。

 多分それが分からないまま一緒にいたら絶対に勘違いしていたからね!




 気をつけなければならないのは放課後だけだ。

 が、放課後になった瞬間に帰れば水曜日以外はまず間違いなく遭遇することはない。


「花田さん、今日も残ってください」


 こうして松井先輩に居残りを指示されなければね!

 なんなのこれ、やっぱり私情だよね、別の意味で贔屓しちゃっているよね。


「どうして他の方と話そうとしないんですか?」

「そう言われてもですね……友達とは一方通行ではダメなわけですからね」

「今月が終わるまでに友達を一人作りましょう」

「大丈夫です、山本万理さんと友達ですから」

「別クラスですよね?」


 よ、よく知っていますね。

 大人しくはいと答えたら今日はすぐに解放してくれた。

 動くのならなるべく男の子がいいかな。

 そうすればきっかけにもなるかもしれない。

 でも、誰とも付き合っていない男の子がいないような気が!


「はぁ……」


 彼氏がいないばかりに万理ちゃんには自由にされるし、中学生にはからかわれるし。

 おまけに松井先生には嫌われているし、あと一週間の間に友達を作れとか言われるし。


「翠ー」

「おー」


 時間的にセーフ、なにかが起こっても小澤くんや佐野くんと出会うことはない。


「あ、彼ピッピを連れてきたよ」

「誰だよそいつ、地味だな」


 え、口悪っ!?

 友達の彼氏さんだから悪く言いたくないけど、よく恋人やっているな!


「もう、何回も話をしたじゃん」

「興味ない、俺はお前以外はどうでもいい」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、親友を馬鹿にされたくはないなあって」

「……悪かった、ちなみにそいつに悪いとは思ってないけどな」


 よくこんな人を好きになったなっ。

 なんでこのタイミングでと思ったが、万理ちゃんを見ている顔を見て分かった。

 心配だったんだ、取られるんじゃないかって、自分がいない間に変なのが近づくんじゃないかって気になっていたんだと思う。


「彼女思いのいい人ですね」

「あ? 分かったような顔するんじゃねえよ」

「素直じゃないですねえ……」

「うるさい、お前もちゃんと万理のこと見ておけ、変なのが近づかないようにな」

「任せてください!」

「ちょ、二人で仲良くするの禁止っ」


 そんなこと気にしなくていい。

 でも、好きになるならこういう人がいいかも。


「あの、あなたと似たような人って知り合いにいませんか?」

「いねえ、俺より万理を愛している奴はいてはならないからな」

「そ、そうじゃなくてですね……彼氏さんが欲しいなと」

「無理だな、お前みたいな地味子は諦めた方がいい」


 やっぱり訂正、こんな人嫌だわ!

 二人と別れて一人で帰路につく。

 ああいう系でも限度がある、万理ちゃんの彼氏としては正しいんだけど。

 だけどその彼女の友達に厳しく当たるのはちょっとね。


「――で、なんで私は君とこうして会っているの?」


 もう二十時を過ぎてしまっている。

 響子さんと会った公園でふたりきりだった。


「俺が呼んで花田さんが来てくれました」

「そうだね、律儀な私が偉いね」


 この時間をその気になる子に使えばいいと思う。

 学校ではなく外で会えばふたりきりだ、少なくとも小澤くんに邪魔はされない。

 まあただ小澤くんはそういうつもりで動いてはいないだろうけども。


「佐野くんさ、他のことに時間使いなよ」

「まあそれはいいじゃないですか」


 ブランコに乗って時間をつぶす。

 これぐらいの積極性を見せてあげればその子も意識してくれるというのが私の予想。


「学校は楽しい?」

「楽しいですよ、優がいなければもっと楽しめてますが」

「またまた、親友なんだからそんなこと言っちゃダメだよ」

「たまに真剣に思いますよ、なんでもあいつに注目が集まりますからね」


 いいじゃんか、悪目立ちするより。

 なにかをすると「花田がまた変なことしてる」と言われるんだぜこちらは。

 その点、他の誰かに意識が集まってくれるのなら理想の生活だ。


「花田さんは分かると思うんですけどね」

「うーん、他の子が注目されて困ることがないからね」


 例え万理ちゃんに集まってもさすがだとしか思えない。

 そのように嫉妬してしまうのはやはり気になる子がきゃーきゃーと盛り上がるからだろう。


「それに佐野くんは気づいていないだけだと思うよ、そういう子じゃなくて君みたいな子を好きになる子も絶対にいるよ」

「花田さんですか?」

「まさかっ、私は同級生か年上狙いなの!」


 もうちょいマイルドにしてくれれば彼氏さん、拓馬たくまさんみたいな人がいいかな。 

 なかなか見つからないだろうけど、一途に愛してくれるような人が見つけられればいいと思う。


「君が同級生だったら好きになってあげても良かったけどね」

「失礼な話になりますけど、花田さんは選ぶ側ではないと思います」

「うるさいっ、生意気な中学生めー」

「ちょ、髪に触れないでくださいよっ」

「ざまあみろぉ、ぐしゃぐしゃにしてやるぅ」


 数分後、髪の毛がぐしゃぐしゃの佐野くんが目の前にいた。


「ぷっ、あははっ、ださーい!」

「むかつくっ」

「それじゃあねっ、気をつけなよ!」


 舐められたままではいられないのだ。

 どちらが年上なのかを分からせておかなければならない。

 髪のことを気にしているのなら、こちらを悪く言ったらされると刻み込まれただろうし。


「ふぅ」


 帰ってすることは報告会だ。

 今日はこちら側ばかりのものになってしまったが。


「どう思う? 中学生のくせに生意気じゃない?」

「いや、佐野くんは的を射ていると思う」

「うぐっ、そうですよ、どうせ待つしかないだけですよ」


 このままだとずっと独り身のままになってしまう。

 いまだって母から彼氏云々と毎日言われるぐらいだ、もしそうなったら大変恐ろしい。


「この際だからプライドとか拘りを捨てて範囲を中学生に絞ったら?」


 絞ると言っても出会えたのはたった二人だけ。

 小澤くんは知らないけど佐野くんは気になる子がいると言う。

 頑張ったところで無様なところを見せるだけだろうに。


「というかさ、連日会おうとするってその気があるんじゃない?」

「まさかっ、佐野くんに限ってそれはないよ」


 小生意気な子だしね、頑張る女の子を平気で笑いそうでもある。


「今度三人で出かけよっか」

「そんなことしたら拓馬さんに怒られるよ」

「じゃあ四人で出かけよう、ちなみに明日の午後からね!」


 勝手に決められてしまった。

 一時間後、佐野くんからもオーケーをもらってしまったのだった。




「へえ、この人が万理さんの彼氏なんですね」

「おい、お前が名前で呼ぶんじゃねえよ」

「いいじゃないですか、減るもんじゃないですし」


 集まった瞬間にこれはやめていただきたい。

 拓馬さんは「万理、俺はこいつが嫌いだ」とぶつけていた。

 佐野くんはあくまで余裕そうな顔で「嫌われてしまった」と呟くだけ。

 特にどこかに行く予定はなかったらしく、選ばれたのはあの公園だった。


「ちょっと佐野くん」

「別にいいじゃないですか」

「もう……」


 一応形的には私の知り合いということになるんだから言動には気をつけてほしい。

 いまだって拓馬さんから冷たい目で見られているんだよぉ、万理ちゃんも止めてくれないしさ。


「で、なんで俺らは集まってるんだ?」

「うーん、特にないかな」

「は? それならもう行こうぜ、クソ中学生と地味子は放っておいてな」

「そうだね!」


 なるほど、元々こうするつもりだったのか。

 二人があっさりどこかに行ってしまったものだから笑っちゃったよ。


「ごめんね、巻き込んじゃって」

「いいですよ、部活はさっき終わりましたし」

「その割にはいい匂いがするね、お風呂に入ってきたの?」

「当たり前じゃないですか、汗をかいたまま異性になんて会えませんよ」


 その割には最初に出会った日なんかもそのままだったけど。

 女扱いすらされないなんて虚しいね、クラスの子とかも同じ心理か、あはは。


「これからどうする? 佐野くんに合わせるけど」

「それなら少し歩きましょうか、もう解散ではあまりにつまらないので」

「いいよー」


 休日が暇な高校生としては(私だけ)ありがたい。

 普通に友達にぐらいならなってもいいからね。


「姉はどうでした? 暴れていませんでしたか?」

「うん、君のことを教えてくれたよ」


 佐野くんは小さい声で「だからあの時ああ言ったのか」と呟いていた。

 変に勘違いされても嫌だからね、それに年上ならしっかり言えなければならない。

 あれが最善な対応だった、ちょっと佐野くんが怖い顔をしていたとしても関係はない。


「それより地味子と言われたままでいいんですか?」

「しょうがないよ、事実だもん」

「ちなみに俺もそう思います、優の側にいる女子たちの方が可愛いです」

「あっそ、別にいいし」


 両親にだって地味だと言われるぐらいなんだからね!

 舐めるなよ、拓馬さん風に言うならクソッタレがって感じ。


「万理さんっていいですよね、明るくて。あなたと違ってすぐに諦めてしまうということもないでしょうし、だからこそああいう人を振り向かせられるんでしょうね」

「万理ちゃんはすごいよ。いつでも明るくて周りに人がいてさ、もちろん全てに対してではないけど、こうだと決めたことは絶対に曲げないからね、私相手でも一切遠慮をしないし」


 よく分かっているな、たった一週間で諦めてしまったことがある。

 自分は○○だからって言い訳をして無理やり納得させたこともあった。

 でもそのおかげで潰れずにここまで生きてこられたと思う、万理ちゃんとも友達でいられた。


「私みたいになるなよ、少年」

「はい、そうします」


 年上がすぐに怒ってしまってはいけない。

 弱いところを指摘されて怒鳴るなんて最低のことだ。


「佐野くんのことを聞かせてよ」


 結局それは聞かせてはくれなかった。

 はぁ、悪用しようとなんてしていないんだから教えてくれてもいいのに。


「あ、優だ」


 いつ見ても大きい、今日は一人のようだ。

 あんなことを言っていたくせに駆け寄っていく、男の子版ツンデレのよう。


「こんにちは」

「こんにちは、航平とだったんですね」

「うん、本当は四人のはずだったんだけどね」


 一緒に並んで歩いていると私が一番歳が低いみたいに見えてると思う。

 しかも二人だけで楽しく会話を始めてしまったからストーカー女みたいだし。


「おぉ、今度の試合に出るんだな」

「まあ、足を引っ張らない程度に頑張るよ」

「嘘だな、航平は寧ろ負けてても止まらない男だろ」

「どうだかな、そんなのやってみなければ分からないだろ」


 そうだね、話してみなければ分からないね。

 敬語じゃない小澤くんと佐野くんの二人。

 このまま消えてもなんにも問題はないだろうな。

 それにしても試合か、最後まで出られないままだったな。

 それが嫌だとも思っていなかった、楽しくできれば良かった。

 でも、その楽しくやることすら無理で、足を引っ張らないように消極的に活動をしていた。

 ああ、この時点で諦め癖があるということだ、猛烈に恥ずかしい。


「あ……」


 意図的に離れるまでもなく歩幅の関係で距離ができた。

 うーん、年上としてなにも言わずに去るのは違うよなあと挨拶をしてから二人と別れる。

 とりあえずいまは友達を作らないといけない。


「ただいま」


 おいおい、せっかく休日に出て痛いところを突かれただけかい。


「あ゛ぁ……」


 ソファにうつ伏せで転んで適当に意味のない言葉を漏らしていた。

 数時間に帰宅した母に怒られたことによって部屋に戻ったけどね。


「ソファでぐらい寝かせてくれてもいいのにねぇ」


 ただまあ、一応私のことを考えてくれているのは分かる。

 中途半端な時間に寝ると寝られなくなる性質だからね自分。


「翠」

「はい、なんでしょうかお母様」

「彼氏はできそう? いや、できると言いなさい」

「で、できりゃい」

「は?」


 そんなの分からないよ。

 家に帰る度にそう言われても困ってしまう。

 母だって大学生の時にお父さんと出会ったって言っていたしさ。

 まだまだこれからなんだ、急ぐとなにもいいことがない。


「男の子が苦手なの?」

「ううん、前に頑張ったら変なやつ扱いされちゃったんだよ」


 ただ仲良くしたいから一緒にいただけなんだけどね。

 あ、お弁当を作ったりしたのが悪かったのかな、時期早々だったのかも。


「それにね、私は同級生か年上がいいんだよ」


 いまは年下も年上もいいイメージはないままだけど。


「それは分かるわ、私は年上でなければ嫌だったから」

「お父さんは一歳年上だもんね」

「ええ。でも、あなたは拘っている場合じゃないわね」

「はい……」


 月曜日から頑張るよ。 

 同級生が一番簡単だし、私の理想でもある。

 問題なのはクラスの子全員に変なやつ扱いをされていること。


「友達になってっ」

「嫌だ、こっちまで変なやつ扱いされるからな」


 だからすぐに全滅した。

 松井先生の要求は同性異性問わず友達を作るということだったから女の子にも声をかけた――が、彼氏と忙しいから、他の子と忙しいから、やだというのがみんなの答え。


「松井先生、もう諦めてください」

「はい? あなたは了承しましたよね? 必ず守ってもらいますよ」

「それなら松井先生がなってください」

「は? あ……いえ、私とあなたは対等ではありません、故に友達にはなれません」

「それなら諦めてください、私はなにもせずにこう言っているわけではありません。疑うなら一人一人に聞いてみてください」

「はぁ……分かりました、先程見ていましたからね」


 うん、行動力はあると思うんだよね私。

 あとはなにを言われてもへこたれないメンタルがあれば十分。

 万理ちゃんは決して拓馬さんばかりを優先することなく私といてくれるし。


「あの、私のことが嫌いなのは分かりますけど、もう少し周りと態度を変えないようにしないと」

「ふざけているんですか?」

「いや、あからさまに私ばっかりでしたからね、まあ、これで失礼します」


 チンケなプライドを捨ててしまおう。

 相手が中学生であろうと、唯一、変なやつ扱いせずにいてくれる子たちだから。

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