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メンタル・ディスオーダー  作者: 毒の徒華
48/62

第47話 兄弟喧嘩




僕の身体は目覚めてから数時間で、かなり自由に動けるようになった。

区代表や渉さんたちが武器の準備をする中、緋月様の部屋に僕だけ呼ばれた。移動中に僕が気絶していたときのあらましを緋月様から説明された。

緋月様の祖父の話、アダムとイヴのあらまし、赤紙の経緯等、僕には起きてからのことの何もかもが唐突過ぎて、すぐには飲み込めないことばかりだった。

魔女の話も全然ピンとこないけれど、実際に存在していると真面目に言われると信じざるを得なかった。

部屋について緋月様に悪魔細胞の使い方を教えてもらったけれど、感覚的なところが大きく、口で説明されても難しくて理解ができない。

実際に自分の身体を変形させてみようと色々試してみて、少し感覚がつかめてきた。


「智春……本当にごめんね。こんなことになって」

「いいんです。僕は生きていたことにホッとしてます。これで、一緒に戦えますから」

「……いくら完全適合者とはいえ、まだ戦うのは早いと思うけど」

「自由自在ってわけじゃないですけど……ある程度、自分の身体になじんできたと思います」


僕が自分の手の爪を鋭く尖らせて緋月様に見せると、複雑な表情をしていた。


「…………」

「緋月様のお身体は、大丈夫なのですか?」

「うん、もうほとんど普通に動かせる」


何度か血の裁量を出したり収めたりする動きをして体調を確認していた。


「それ……どうやって出しているんですか?」

「あぁ、これはなんていうかな……こう……細胞3割、血液7割な感じかな? “こうしたい”っていう明確な想像が大切というか」

「えーと……まず自分の皮膚を変形させて……血液を硬化させて……」


口で言いながら順番にやってみるものの、なかなか緋月様と同じようにはできない。


「うーん……」

「……そんなこと、本当はできなくてもいいのに」


自分の血の裁量を手で触りながら、悲し気に彼女はそう言った。なだらかに滑らせるその手は白く、爪が少し伸びていた。緋月様は震えているように見えた。


「緋月様、これが終わったら休暇を取られたらどうでしょうか」

「休暇? いやいや、黒旗の問題も放り出したままなのに、休暇なんて取ってられないよ」

「それは解りますけど……それは区代表や僕らでなんとかしますから」


相変わらず緋月様は休みも取らずにずっと働くつもりのようだった。この大きな仕事を成し遂げたら、僕は緋月様に休みを取ってもらいたかった。


「…………もう、私が命を差し出すことでしか、収まらないよ。差し出し方、解らないけどさ」

「そんなことありませんよ……! 国民も、イヴを倒すことが目的だったと解ってくれます」

「……私が殺した人数と、イヴが殺した人数、どちらが多いのかって……たまに考えるよ。結局、私もイヴも同じ、殺人鬼に変わりない……」

「それは違います……緋月様は正義の為にやったんですから、人を無差別に食い殺すような悪魔とは違いますよ」


緋月様は諦めたように笑っていた。そんな風に笑ってほしくなかったけれど、他にどんな言葉をかけても緋月様の考えに変わらないと僕は悟った。

それが酷くもどかしく感じる。


「今はイヴを倒すことだけ考えなきゃね。武器の準備が整ったらすぐに行かないとならない。これを最後にしたいんだ」


銀色の髪を一束にまとめると、邪魔にならないようにくるくると巻き付け、ほどけないようにピンでそれをしっかりと留めた。


「行く前に弟さんと会っておく? ちょっと……ショックが大きかったみたいで、落ち込んでるみたい。今は一時的に特別隔離室に入れてある」


――特別隔離室……


冷たい鉄格子で仕切られた中に入れられて肩を落とす弟の姿を考えると、複雑な気持ちだった。

緋月様を目の前で殺そうとしたのは間違いない。拘束されても文句は言えない。


「……いえ、今は非常事態ですから」

「非常事態だからこそだよ。私は……喧嘩別れしちゃったからね……私たちが負けたら弟さんもいずれは殺されるだろう」

「…………」

「お兄さんとは折り合いが悪いみたいだけど、雪尋は家族思いの優しい子だよ? この国を良い方向にしていこうって前向きだし。ちょっと……過激だけど」


緋月様は僕よりもずっと弟のことを知っているのだろう。

黒旗の教祖として接していた雪尋は、きっと僕の知らない面を沢山見せていたはずだ。


「今、雪尋を支えられるのはお兄さんだけだと思うけどね。兄弟でいがみ合ったり殺し合ったりなんて、嫌でしょ? 知ってるよ。ずっと雪尋の心配してるの」

「そうですね……じゃあ……僕、ちょっと様子を見てきます。1区の特別隔離室にいるんですよね?」

「うん。17時には全員集まるから、それまでには帰ってきてね」

「はい」


僕は一礼し、扉を勢いよく出て赤紙内の特別隔離室へと走った。




◆◆◆




特別隔離室に到着したのは16時だった。

暴動を起こした人数は多く、特別隔離室はパンク状態だ。本当なら1部屋に1人を一時的に入れる程度だが、狭い1つの部屋に6人、7人は押し込められている。

僕は全体の収容者名簿を確認すると、雪尋は13号室にいるようだった。一番奥の部屋。どうやら雪尋は1人で入れられているらしい。


――なんて声をかけたらいいか、解らないまま来ちゃったな……


戻る時間を考えても、20分程度しか話はできない。僕はできるだけ心を落ち着かせて雪尋のいる部屋の前にたどり着いた。

分厚い金属の重々しい扉で中と外を隔てている。中の様子は扉についている小さな小窓から見える。

その小窓を見ると、雪尋は簡易ベッドに浅く腰掛けて顔を下に向けていた。


コンコンコン……


「開けるよ」


僕が中に入っても、雪尋はうなだれたままだった。


「俺は何も喋らないぞ」


顔を上げないまま、雪尋は脱力しきった声でそう言った。どうやら声だけでは僕だと解らないらしい。

やはり、兄弟でも声で判別されないというのは悲しい気持ちになる。


「雪、僕だよ」

「!」


俯いていた雪尋はハッと顔を上げて僕を見た。まるで幽霊でも見たような顔をして驚いている。


「兄貴……生きてたのか……?」


座っていた雪尋は立ち上がって、僕の方に2歩、3歩程度近寄ってきた。


「本物か? 信じられない……心臓をぶち抜かれてたのに……」

「僕は……悪魔細胞と適合して生き永らえたんだ」

「は……?」


僕が生きていたと解った時よりも驚いた表情をしていた。

無理もない。雪尋は緋月様を「化け物」と嫌厭していた。当然僕のことも受け入れられないはずだとは思っていたが、予想通りの反応が返ってくる。


「どういう……ことだよ」

「致命傷だった傷を塞ぐために、僕はアダムから悪魔細胞を移植され、適合したんだ」

「それじゃ、兄貴はあの化け物と同じになったのか?」


その“化け物”という緋月様の蔑称に僕は嫌悪感を抱き、無意識に眉間にシワが寄る。


「……雪、そういう言い方、良くないよ」

「身体を自在に変化させて、若い女から老人にまで化けられる……それに、あの赤い触手……200年も生きてるなんて『化け物』以外になんて呼べばいいんだよ?」


僕は雪尋の無情な言葉に苛立ち、ギュッと拳を握りしめた。

緋月様は自分の意思で適合したわけじゃない。右も左も分らない赤ん坊のときにやむを得なく適合させられたんだ。

そう考えると心の中にもやもやした気持ちがどんどん広がっていく。


「緋月様は……好きでそうなったんじゃない」

「知らねぇよ。あんなに人を殺して平然とヘラヘラ笑ってるような独裁者なんか――――」

「雪!」


気づけば、僕は怒鳴っていた。

いきなりの怒声に、雪尋は目を見開いて口を閉ざす。

緋月様のことを侮辱されて、僕は我慢できなかった。きっと、渉さんや光さんも同じ気持ちになるはずだ。特に渉さんはこんなとき、雪尋をねじ伏せて激高するだろう。


「あの人のことを何も知らないのに……悪く言うな!」

「はぁ? 知りたくもねぇよ! あの化け物の奴隷に成り下がったクソ兄貴が!」


雪尋が右こぶしを振り上げたのが見えた。それを僕の右頬に向かって振りぬいてくる。それがやけにゆっくりに見える。

パシンッとその拳を僕は軽々と受け止めた。


「なっ……放せよ、クソ兄貴……!」

「緋月様のこと、訂正してよ……あの人は! 人を殺して平然とヘラヘラしてるわけじゃない! 毎回、処刑の度に心を痛めている……」


僕が手を離すと、雪尋は興奮している様で肩で息をしていた。


「心があるなら、あんな残虐なことできるわけがねぇだろ! あの化け物が飼ってるペットは人間をエサとしか見てない悪魔だ! 国王は緋月の恐怖政治に委縮してるだけだ! あの化け物がいなくなれば国は正しい方向に行けるんだ!」

「緋月様を化け物と呼ぶなっ!」


雪尋の胸ぐらをつかみ上げると、思ったよりも力が入ってしまったようで片手で雪尋の身体を浮かせてしまう。

バタバタと手足を動かして逃れようとするが、雪尋が僕を振り払うことは出来なかった。


「緋月様は……日常生活の何もかもを放り出して、研究と仕事ばかりをしてきたんだ……200年もずっと戦ってきたんだ! ずっと独りで……!」

「何と戦ってんだよ!? この世の悪とやらか!?」

「そうだよ! 人の中に紛れ込んだもう1匹の悪魔と戦ってるんだよ!」


お互いに怒鳴り合いになり、雪尋もより一層抵抗して暴れる。


「なんだよもう1匹の悪魔って!?」

「雪も見たでしょ!? 雪と緋月様を殺そうとしたあの悪魔だよ! 白い髪で、赤い眼をしていたあれだよ!」

「あれはなんなんだよ!? 意味わかんねぇよ!」

「僕だってずっと知らなかったんだ! 緋月様が国民が混乱しないようにずっと隠してた……ずっと……独りで……っ……戦い続けてっ……!」


僕は言葉の途中で目頭が熱くなり、泣いてしまっていた。僕が泣き出したのを見て、雪尋は動揺して押し黙る。

掴みあげていた雪尋をゆっくりと降ろして僕は涙を拭う。怒鳴り合いなんて、大きくなってからしたことなんてなかった。喧嘩らしい喧嘩なんて今までしてこなかった僕らには、怒鳴り合っていてもどこかお互いに戸惑いがあった。

お互い戸惑いながらも、感情に任せて言い合う他なかった。


「あれは人の姿に成り代わって人を食べる悪魔だよ……。そんなのがいるって国民中に知れたら、皆疑心暗鬼になって殺し合いになりかねないからって緋月様がずっと隠していたんだ」

「…………」

「その悪魔は緋月様とアダムを殺そうと狙ってる。200年以上も。黒旗を緋月様が作ったのは、赤紙の対抗勢力にその悪魔が接触してくると踏んでのことだった」

「まだ、俺は信じられねぇんだ……雉夫様があの女だったってこと……」

「僕だって……突飛な話で何が何だか……でも、人喰いの悪魔は実在する。これから、そいつを倒しに行くんだ」

「兄貴も行くのか……?」

「僕は完全適合したから、前よりは緋月様の役に立てるようになったよ」


それを聞いて雪尋はギリッ……と歯を食いしばった。

僕はゆっくりだが緋月様のように血の裁量……のようなものを出して雪尋に見せる。

それを自分で見て、これはまだ戦いに使えそうにないなと感じた。


「……俺は……別に庇ってほしくなんかなかった……」

「え……?」


か細い声で言われたので、僕は全部を聞き取れずに雪尋に聞き返した。雪尋は僕の質問には答えずに、俯いて肩を小刻みに震わせる。


「俺を庇ったせいで……兄貴はそんな身体になっちまったんだろ……!?」


顔を上げた雪尋は、涙ぐんで叫ぶようにそう言った。堪え切れなかったのか、涙は頬を伝い落ちる。

僕が咄嗟に突き飛ばさなかったら雪尋は死んでいた。


「雪のせいじゃないよ……」

「見捨てればよかったんだよ……なんで俺なんか助けたんだよ……っ! この期に及んで家族だからとか言うんじゃねぇだろうな!?」


なんで助けたかと問われ、僕は少し考え込む。

家族だから僕は雪尋を助けたのだろうか?

もし、殺されそうになっていたのが園さんでも、僕は助けた……?

そう考えると少し悩むが、たとえそれが園さんでも僕は助けたと考え直す。


「…………それも、もちろんあると思う。でも、たとえ誰だったとしても助けたと思う」

「なんでだよ……」

「それが、僕だから……かな?」

「は?」


何を言っているのか解らないといった様子の顔をして、雪尋は僕を見た。


「僕は特に何ができるわけじゃないけど、人を助けたいんだ」


胸の内を雪尋に面と向かって言うのは気恥ずかしかったけれど、正直に僕は言った。


「それに、緋月様の役に立ちたいんだ。僕の命の恩人だし……僕に生きる道を示してくれた人だから」


僕が自殺未遂で路頭に迷っていたとき、緋月様が現れなかったらと何度も考えた。

ただ命を助けられたとしても、僕はきっと路頭に迷ってしまっていただろう。

緋月様よりも水鳥麗を早く知っていたら、もしかしたら僕も心のよりどころを求めて黒旗に入っていたかもしれない。


「だから、あの人のことを悪く言わないでほしい。これが終わったら、一緒に国を良くして行こう」

「…………でも、俺は……その……緋月を殺そうとした大罪人としてここにいる。事が終わったら処刑されるか、7区以下の区に収容されるだろうよ」

「僕が……緋月様に進言するから」

「無駄だろうけど……な」

「そんなことない。緋月様は話せばわかってくれるよ。これからは罪人にそんなに厳しくしなくて済むようになる」

「どうだか……」


諦めたような言い方をする雪尋を説得したかったけれど、僕はもう戻らなければならない時間になってしまっていた。


「僕、もう戻らなきゃ……全部終わったら、きちんと話そう。父さんのことも」

「……ちゃんと戻ってこられるのかよ」

「死なない身体になったからね。大丈夫だよ」


そう言うと、気まずそうに視線を逸らした。やはり負い目を感じているのだろう。


「雪、僕はこの身体になったこと、後悔してないよ。それに、雪のせいじゃないから。終わるまで待ってて」


重々しいその扉を僕は出て、再び外から施錠した。


――雪……待っててね……


僕は緋月様の部屋に向かった。




◆◆◆




集まった面々は区代表全員と、国王……それから日下部さんとアダムだ。

辺りを見渡したが、その中に光さんはいなかった。


「渉さん、光さんは?」

「光は部屋に閉じこもってるようです。この大事な時に……」


自分の全身装備の可動性を確認しながら、渉さんはそう文句を言っていた。


「そうですか……」


どうやら緋月様と仲直りしてないようだ。こんな緊急事態のさなかに仲間割れをしてる場合ではないけれど、気持ちがついて行かない気持ちは僕も解る。

緋月様に恋人がいるということは僕にとっても、他の緋月様が好きだった人たちにとってもかなりの衝撃だっただろう。


「おい緋月、こんなときに言うのもなんだが、その人は誰だ?」

「達美はやっぱり気になる?」

「当たり前だ。この重役ばかりの場で関係のない人間を連れてくるな。統率性が下がるだろう」

「えーと……関係者なんだけどね。彼女は日下部れい華」

「名前を聞いてるのではない。どういう存在なのかということを聞いている」


達美さんに詰め寄られた日下部さんは、言いづらそうに目を逸らした。明らかに「面倒だな」と思っている表情をしている。


「達美、怖がってるじゃない」

「は?」

「わかったわかった。この際、ハッキリ言おうか。みんな、時間がないからよく聞いて」


緋月様の言葉に、全員が耳を傾けた。日下部さんは緋月様を見て短いため息をつく。


「彼女は10区代表、死刑執行人だ」

「なに!?」


意外な言葉に達美さんを含め、全員が唖然としていた。僕もその1人だった。日下部さんのような華奢な人が10区の死刑執行人だなんて到底見えない。

緋月様が死刑執行人をしているものだとばかり思っていた。

ポンと緋月様が日下部さんを押すと、彼女は嫌がりながらも緋月様から1歩前に出る。


「……私は緋月と一緒に前線で戦う」

「この際10区代表ということには言及しないが、今度の相手は人間ではないぞ。普通の人間が太刀打ちできるのか?」

「私は……人間じゃない」


ズルリ……と彼女の細い腕が変形し、おぞましい形へと変貌する。幾重にも重なる刃が鋭く光を反射してギラギラと光った。


「ラファエルの人と同じ、部分適合者」


――日下部さんが……?


黒旗内部でのあの身のこなしは、悪魔細胞のなせる業だったのかと僕は妙に納得した。日下部さんはガラスケースを素手でたたき割ったのは、悪魔細胞のおかげだったらしい。


「ってこと。納得してくれた? じゃあイヴを仕留める為の最終確認をするから、よく聞いていてね」


日下部さんは自分の腕を元に戻し、緋月様の話をけだるげに聞いていた。


「まずは……みんな、巻き込んでごめんね」


渉さんも、赤紙の人たちも、王も全員同じ気持ちでそれを聞いていたに違いない。緋月様は本当に申し訳なさそうな顔をしていた。


「いつもお前には巻き込まれている。今更だ」


達美さんがそういうと緋月様が苦笑いをする。本当は自信のない虚勢だということは見抜いているからなのだろう。


「場所はアダムの嗅覚で解る。私とれい華、智春で向かって仕留める。一般市民の避難は?」

「一般市民は緊急外出禁止令を出したので、全国民が家にいます。赤紙職員が市街を巡回してます」

「よし。それじゃ、全員麻酔銃を持って少し離れた場所で待機。成り代わられたときのために合言葉を決めておこう。誰かと合流したら必ず合言葉を確認すること。“アダムの角は?”と言ったら“3本”と答えること」

「どう見ても2本だろう」

「どう見ても2本だから3本って答えるの。最新型の無線機を配るからそれでも確認できる。とにかく、イヴを仕留めたって私が通達するまで、近づいてくる者は知った顔でも疑う事。もうすぐ夜だから、必要なら暗視スコープを使って」


緋月様は人数分その通信機を渡していた。そして配り終えた緋月様は改めてみんなの顔を見渡す。


「もしイヴが近くに来た場合は麻酔銃を打ち込むこと。あと、この悪魔細胞の活動を抑制する煙玉を投げる。見かけたらまずすぐに私かれい華を無線で呼ぶこと。危険を感じたらすぐに逃げる事。いいね?」


全員が首を縦に振って首肯した。


「全員、武装はしっかりしてるね? 気休め程度の武装だから、絶対に無理しないでほしい」

「弱音を吐くな。お前が確実に仕留めれば問題ないだろう」

「あはは、そうだね」


緋月様はいつも出て行く大窓を全開にして外を見ると、もう日が落ちて夕方になっていた。赤い空がやけに不気味に見える。


「アダム、頼んだよ」

「わかった……」


ポンポンと緋月様はアダムのお腹を軽く叩く。


「あと……個人的な話になって申し訳ないんだけど……」


緋月様はゆっくりと僕と日下部さんを血の裁量で身体を掴んでから、言いにくそうに口を開いた。


「私、この戦いが終わったら引退するよ」


聞き間違いなどではない。

緋月様は確かにそう告げた。




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