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第0話 序章
愛する者たちへ
これは、今まで僕が見てきたことの記録だ。
長きに渡る彼女と彼と、そして彼の者たちの愛憎渦巻く記録だ。僕はその一端に触れただけに過ぎない。
彼女は僕の一生を大きく狂わせた。
そして彼女もまた、彼や彼の者に一生を狂わされた一人だ。
いや……彼女の一生とは誰が推し量れるものでもないのかもしれない。
あれほどまでに美しく、そして気高く生きるには並大抵の一生ではない。
この物語がどこまで語り継がれているのかは解らない。
しかし、彼女の狂気とも紛うほどの愛情が、人間という生物の未来を大きく変えることになったことはどうか覚えておいてほしい。
そのための彼女の血に濡れた努力や、推し量ることすらできないほどの悲しみ、苦しみ。痛み。それを背負う覚悟。
それをここに記そう。
そして彼女の願いがどうかすべての人の心に届きますように――――……