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第一話


 ああ、つまらねえ。


 産まれたときから、チヤホヤされた。長じてもいつもモテモテだった。

 欲しいものは、言えばすぐに手に入る。

 車も宝石も、服も家も別荘も。望めば大劇場だってスタジアムだって。

 女も男も? よりどりみどり。

 その上、妻は絶世と言われるほどの美人。

 けれど。

 俺はこんな人生に飽き飽きしていた。




“28歳まで、残りは50年”




「坊ちゃま、本日はこちらに記録を残して下さい」

 執事のジルベールがタブレットを差し出す。

 どういうわけか、俺は産まれたときから、と言うのは正確ではないな。キーボードで文字を自分の意思で打てるようになってからは、毎日欠かさずその日の出来事を記録させられるようになった。

 そして、どういうわけか、俺はそれにあらがえない。

 毎日なんて面倒くさい、今日は一言で済ませてやるんだ! と、特に思春期反抗期の頃は誓いを立ててキーボードに向かうのだが、いつも決して一言では終わらなかった。

 書くことが無性に楽しいのだ。

 俺の天職か? と一度は小説を書いてみようとしたが、作り話は一行も書けなかった。

 どうやら俺は、日々の出来事を、その事実を書くことに異常な楽しみを覚えているようだ。


「もう坊ちゃまって歳でもないだろ」

 肩をすくめてタブレットを受け取った俺は、嫌みでも何でもなく、事実を口にする。

「ええ、・・・いいえ」

「どっちだ」

「貴方にはそうでなくても、私にとっては貴方はいつまでも坊ちゃまですよ」

 少し目の端を緩めてジルベールが言う。笑ったのだろう。まったく、わかりにくい奴。

「はいはい、わかりましたよ。さて、では、今日の出来事を記していきますか」

 もう一度肩をすくめた俺は、朝起きてからの事を順に思い出していく。

「そういえば、ハニーはどうしてる?」

 ハニーとは俺の妻のことだ。名前? なんだっけなー忘れちまった。ハニーって呼んでおけば、うっかり名前を間違える事もないだろ?

 同様の理由で、妻は俺のことをダーリンと呼ぶ。

「奥様は本日、第30別荘でお過ごしです」


 30別荘と言うと、・・・ああ、またあいつと浮気か。

 まあいいさ、どうせ俺には関係ないってこと。




 妻は絶世の美人だが、性格は絶世の醜女だった。


 結婚式の当日。朝早くから起こされてタキシードに身を包み。

 なんだか訳のわからないヤツラが、うんざりするほど何人も祝辞を述べまくり、その後はテーブルにお世辞を言いに来る奴が後を絶たず、長時間にわたった披露宴が終わった頃には、もう疲れが限界だった。

 新婚初夜か。

 花嫁を満足させられる自信がない、と、とりあえず入ったスイートルームのドアを閉めた途端、その心配は皆無だったことがわかる。

「ねえ、これにサインして」

 妻が取り出してきたのは婚姻届。

「なんだよ、こんなもんいつでもいいじゃないか」

「ダメよ。私、一刻も早く貴方の妻になりたいの」

 上目遣いで甘えるように言ってくる美女には、あらがうすべがない。

 俺は仕方なくペンを取って夫の欄にサインする。妻の欄には当然あいつの名前がご記入済みだ。

 満足そうに頷いたあいつは、内線電話でジルベールを呼んだ。

 驚くような早さでジルベールがやってくる。こいつドアの外にいたのか? ってほど。

「ジルベール相変わらず早いわね。じゃあこれ、超高速で出してきて。受理されたら必ず連絡入れるのよ」

「かしこまりました」


 そう言うとジルベールは部屋を出て行く。

 俺とすれ違いざま、妻に見えないところでこちらに微妙なまなざしを向けていく。

 ? この既視感は。

 ガキの頃、誰かに言われるまま考えもなしに行動して失敗したとき。よく見て、よーく考えれば、きっとわかるような間違いをしてひどい目に遭ったとき。

 奴はきっとこの目で俺を見ていた。

 なんだよ、何か間違ってるのかよ。

 閉じられたドアを睨んだあと、振り返ると、妻はすでにバスルームに向かったようだ。

 俺も入るべきか、少し迷ってたどり着いたバスルームのドアには、きっちりと鍵がかけられていた・・・。

 出てきた妻と入れ違いにシャワーを浴びて出てくると、あいつはリビングの椅子に腰掛けて俺を手招きしている。テーブルにはなぜかタブレットが置かれている。

「?」

 訳がわからず首をかしげていると、妻はいらだったように言った。

「早く座って。今後のことを話し合っておきたいの。ちょうど貴方がシャワーを浴びてる間に、ジルベールから連絡があったの。婚姻届が受理されたってね」

「?」

 俺は、椅子に座りながらもまだ状況が飲み込めていなかった。

「これで私は、法律上正式な貴方の妻! と言うことは、貴方が持っている財産の半分は私のものよ」

「え?」

「ああ、なんて素敵! 資産は無限大なのよね! 今日から私はすべて思うがまま!」

 真っ白になった俺の脳裏に、妻の嬉しそうな声が響き渡る。

 何言ってんだこいつ。

「財産目当て・・・」

 ふとつぶやいた俺の言葉に、妻は当然のように言う。

「あら? 当たり前でしょ? 貴方にたかってくる女なんて全員そうよ。蹴落とすのにどれだけ大変な思いをしたと思ってるの。でもその苦労が報われたわ、ねえ、ダーリン?」

 俺は今すぐこいつを窓から外へたたき出してやろうと思った。

 だが、妻の方が一枚上手だった。

「今、私をたたき出そうと思ったでしょ。残念、私がなんの保険もなしにこんな話をすると思って? はい、これ」

 差し出されたのは置かれていたタブレット。見てみると、何かの契約証らしきものが画面に映し出されている。それは、彼女があらかじめ弁護士と作成した、婚姻届け提出と同時に発生する様々な決めごとだった。

 細かいことは、もうどうでもいい。

 要するに、俺は妻にだまされてたってわけだ。

 絶世の美人は悪いことをするはずがないって言う、世間一般の男が持つ、女に対する甘い考えに、だ。


 そしてこいつは自分の容姿に絶対の自信を持っている。自分になびかない男などいないと思っている。・・・ま、まあ俺もそのうちの1人なんだが。

 だからこいつは、結婚前も結婚後も、男をとっかえひっかえだ。俺と結婚するために、他の女を誘惑させたりもしていたらしい。

 くだんの弁護士もこいつの手中に落ちた1人。

 おーい、そんなに奔放でいたら、そのうち大変なことになるぜー。とは言え、こいつほどではないけれど、俺も結構なことをしてきたからまあ言えた義理ではない。

 で、妻の本性がわかった後で、こいつがジルベールにまで手を出そうとしていたことが発覚した。さすがの俺も、あまりいい気はしなかったぜ。

 ただ、そのことを問い詰めると、妻はなぜかいきり立った。

「ジルベール? あんな失礼な奴! 使い走りだけで十分よ! 」

「え? 寝たんだろ?」

 夫にしては大胆な事を聞いてしまったが、もうこの時には愛情のあの字もなかったからな。そのセリフを聞いた妻は、殺意をみなぎらせた目で俺を見て、無言で立ち去っていった。

 で、俺も大概なんだが、あとでジルベールに事の真相を聞き出してみると。

「はい、お誘いを受けました」

「へえ、で? どうだった?」

 ジルベールは、この坊ちゃまは、自分の妻と使用人がよろしくやっていてもなんとも思わないのか、と言うような、ちょっとだけ憐れみの混ざったまなざしで俺を見ていたが、仕方なく問いに答える。

「奥様の香水があまりにも強烈でしたので、そのことを申し上げると、烈火のごとく怒られて部屋を出て行くように言われました」

「ああ、香水ね」

 そんなことで烈火のごとく起こるものなのか?

「で、なんて言ったんだ?」

「臭い、便所のようなにおいだ、と」

「???、ぶっ、くくく、うわっハハハ、そりゃ烈火のごとく怒るよな、ははは、よく言ったぞジル!」

 俺はジルベールの背をバンバンしながら大笑いした。

 けれどあいつはそのあと、釘を刺すことも忘れない。

「いまさら何を言っても遅いですが、よく見て、よーく考えてから事を起こしなさいと、あれほど申していましたのに」

「だったらなんであいつがお前に手を出したときに言わなかったんだよ」

「言えば坊ちゃまは、余計に意固地になって意地でも結婚すると言ったでしょうから」

「うぐ」

 こいつは俺の性格を良く把握してるな。まあその通りだ。


 そんな経緯で、結婚に夢破れた俺がここにいるって事だ。




第二部始まりました。

えー、言っておきますが、シナリオ屋です。

このあともこんな感じで、「俺」主演のお話しが続いていく予定です。

で、俺が誰かはもうおわかりですよね。

絶世の美男子、超お金持ち、絶世の美女と結婚、ううむ、出された条件にはバッチリ合っていますね(笑)さて、この後どうなっていくのでしょうか。


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