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第一話


 ここは、あの世とこの世の中間にある世界。

 これは、そこで生まれ変わりを待つ人に、人生のシナリオを書いているシナリオ屋のおはなし。

 の、はずなのですが・・・

 さて、今回は、シナリオ屋がたいそうお世話になっている、如来さまとその周辺の方々が繰り広げられる、ちょっと、いや、たいそう不思議なおはなしです。



(一)


 本来なら、時間とか、空間の隔たりというものはないものなんでございますが、それだと娑婆のお方たちには、訳がわからなくなっちまいますんで。

 仮に、と言うことで、時は昔々、そしてですね、えーっと、皆さんは銀河というものをご存じですよね。

 皆さんの娑婆があるのは、天の川銀河と申すところだそうで。

 この銀河ってやつは、実は如来さまがお創りになった浄土や、神さまがおられる天上や、そのほかこれから産まれようとする何か、また、役目を終えて消えゆく何か、が集まったものなんですが、皆さんにはただ星が集まったように見えているらしい。


 その天の川銀河のあるところに、薬師如来さまが苦労して創られた、浄瑠璃浄土という、それはそれは美しい瑠璃るり色をした世界がございやす。

 浄土というのは、如来さまが修行場として置いたところです。

 そこに行かれた方々は、娑婆のように着るものや食べるものを手に入れるためあくせく働く心配もなく、また、老いていく身の心配もなく、永遠に近い寿命のなかで、心ゆくまで修行ができる、それはそれは尊い所なのでございやす。

 薬師如来さまは、お名前に薬がついているとおり、銀河で一番の医術をもたれているお方です。また、そのお手にかかれば、どのような症状にもどんぴしゃりの薬草を組み合わせた薬をお作り下さるんです。なもんですから、浄瑠璃浄土にはさまざまな薬草が瑞々しく生い茂り、いつ何時何があっても良いようにその出番を待っているというわけです、はい。

 修行場では、そんな薬師如来さまに教えを請う大勢の薬師くすし志望の方々が、日々修行に励んでおられます。


 そんなあるときのことでした。

 とある如来さまの眷属さんが、浄瑠璃浄土にお越しになりました。

 如来さまや菩薩さまなどの、御仏みほとけと呼ばれる方はいつでもどの浄土にも自由に行き来が出来るんでございます。大事なご用事があるときはもとより、ちょっと隣の浄土に来たからとか、美味しいお茶が手に入ったからご一緒にとか、はては湯治のついでにとか、まあ、娑婆の皆様とあまり変わりのない理由で、ひょいひょいと浄土を行ったり来たりしてございます。

 大事なお話しがおありでも、如来さまの都合がつかないときは、今のように眷属さんにお使いを頼む事もあるんでやんす。


「おや、宝生の使いか、どうなされた」

「はい、我が如来さまより薬の依頼を受けまして、参りました」

 その眷属さんは、宝生如来さまのお使いでいらしたご様子です。

「それはご苦労なこと。さて、どのような薬を所望される」

「はい、実は、大変申しにくいお願いなのですが・・・、108(ひゃくやっつ)下界の者どもに、流行病のお薬を・・・・」

「・・・」


 薬師如来さまは、108下界と聞いて、言葉を失われました。


 いえね、ちょっとここで説明させて頂きやすと。

 あっしは産まれてこのかた、あの世とこの世の中間世界から出たことはないし、ここでシナリオ屋の暮らしをするのが性に合っているんでね、他へ行こうとは思いません。

 ですが、実はこの世界は上下に分かれていて、(皆様にわかりやすいように上下にと表しておきますが)それぞれの隔たりはとんでもなく厳密で、でもって途方もないほどの段階に分かれているんでございますよ。


 上の方には・・・。

 大神さまの世界が、あるんだと思います、たぶん。

 いや、あっしなんかが行ける世界じゃあ、ありやせんしね、実際。

 ですが、たった一度だけ、その大神さまと呼ばれるお方が降りてこられるってんで、あっしらみたいな下っ端はやんやの大騒ぎ。そんでもって、そりゃあたくさんの如来さまや菩薩さまの陰に隠れて、後ろの隙間から拝ませて頂いた事があるんです(なんでそんな後ろからって? いや、あなた、大神さまをまともになんて、あっしらの目がつぶれちまいますよ。それほど神々しいんですから!)お姿を見せたと言っても、指の先? いや、ほんの爪の先をちらとお見せになっただけだったんですがね。

 その神々しさ!!!

 荘厳さ!!!

 いや、大きいなんてもんじゃない、あっしは身体がガタガタふるえだして、止まりゃあしやせん。なんにも隠し立てできない、すべてを見透かされているっていう畏怖。

 目の前に立って下さっていた、いつも遊びに来られる如来さまがあっしの手を取ってキュウと握ってくれなけりゃ、気が変になっちまってやしたよ、ほんと。


 で、下の方には・・・。

 まあ、地獄があるんでしょうな。

 こっちもあっしは行った事がありませんので、それがどこまで深くて暗くておどろおどろしいかはわかりやせんが。


 そして実のところ、下の段階からは1つだって上の段階へは行けません。ええ、1つだってね。上へ上がりたければ、その段階にある修行場で、コツコツと修行するのみです。

 上からはとりあえず下へは自由に降りられますが、好んで降りられる方はそうそういやしません。だって、ここで言う段階ってのは、魂がどれだけ綺麗かって事ですから。



 で、先ほどの108下界に戻ります。

 108下界って言うのは、108(ひゃくやっつ)の煩悩を持つ者が住む世界。まあ、皆さんのような、食べたり飲んだり、寝たり起きたり、あくせく働いたりしなけりゃ生きていけなくて、しかも重い身体を持ってる世界の事です。

 浄土から見れば、かーなーり、下の方ですわな、当然。

 そして、なぜ薬師如来さまが言葉をなくしたのかというと、浄瑠璃浄土の薬草は、108下界の人間には、使えないんでやんすよ。

 使いたくないから意地悪してるんではなくて、薬が繊細すぎて重い身体を通り抜けてしまうんです。なんて言えば良いんでしょうかね。幽霊に触れないみたいに、というのはちと怖いですな。虹は見えるけれど触れない。光も見えるけれど手には持てない、ってやつですか。


 なので、浄土でどんなに良いお薬を作っても、108下界では役に立たないって事です。

 だったら下界に降りて作るとか、処方を渡すとかすれば良いとお思いでしょうが、残念なことに、108下界にはそんなにたくさんの種類の草木がありやせん。

「無理を承知で、と言いますか・・・、実は如来さまはわたくしに依頼などしておりません」

「おお、なんと」

「作れないことは、如来さまが一番ご存じなのです。なのでお諦めになったのですが、日々、108下界の様子を垣間見てはお心を痛め、涙を流されるお姿に耐えきれず、勝手にこちらに来てしまいました。そして、私も下界の人間を助けたい。何か手立てはないものでしょうか」

 眷属さんの思いに、薬師如来さまも心を打たれたご様子です。

「そうさな・・・ちと暇をいただけますかな。なにか方法がないか、考えてみます」

「ありがとうございます。私も知恵がおありの方に伺ってみます」


 そのあと眷属さんは本当に嬉しそうに何度も何度もお礼を言って、宝生さまの浄土へ帰って行かれたのでございやす。




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