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3(私視点) 変えられるものは

 


 この国の貴族の女性はコルセットというものをはめる。

 前にいた世界にもあったけど、こっちのはかなりキツい。


「お嬢様は細うございますから、締めるところはございませんね。」


 と、そう言いながらぎゅうぎゅうに2人がかりでリボンを縛り上げられる。



「く、苦しい、です」

「我慢してください、さあ息を吐いてくださいませ!」



 ぎゅううう!とがっつり締め上げられ、同じくリボンで締め上げるタイプのブラをつける。


「お嬢様が元々つけていらした下着のほうが着心地がよろしいかと思いますが我慢してくださいませね。」


 あの日は男装とまではいかないが中性的に見えるように胸は少し潰していた。

 スポーツブラのようなものだったので潰し気味にしてもそこまで苦しくはなかった。


 今はアンダーを細く見せ胸を大きく盛って見えるような形のため、比べてしまうとかなり苦しい。胸というか骨が。



 ただ、ここでの流行のドレスというものが、細身に大きな胸の方が似合う。コルセットの重要性も確かに感じる。腰の細さで胸の大きさがよく際立ってよい。

 何度も着せてもらったけれどもう少し詰め物などで盛っても良いくらい。D程度だとこの世界だと小さめだった。


 …以前は胸をいかに小さくするか日々考えていたのに、変な感じがする。


 私がしていた仕事の内容だと胸が大きいとあまり喜ばれなかった。

 色んなタイプの体つきの人が活躍しているけれど、ファッションメインだとどうしても胸が邪魔になることもあった。服の形が崩れるのもよくないし、いやらしく見えてしまってはブランドイメージを損なうこともある。

 特に私は男装をして雑誌やCMで男役として出ることもたびたびあった。背が高く、異国の様々な血が入っていたせいか周りの女の子たちよりがっしりしていた。

 髪も短くし、どちらにも見えるように魅せていた。



 そんな私が今着ているのは胸元は大きめに開きながらも見えすぎないよう薄いレースが重ねられ、腰は細くその下はふわりと広がっていて女性らしさあふれるドレス。

 どこからどう見ても、女だった。男らしく振る舞ってたと言ったら笑われてしまうくらい、女らしい。


「薄茶色の御髪によく似合いますね。もう少し伸ばされるとより宜しいかと思います。」


 派手な色合いのものを着せたがる誰かさんに出来るだけ地味な色合いが良いと希望して、紺色をベースに白や薄紫が使われたドレスは確かに私の髪に合っていた。



 地毛はかなり明るい茶髪で以前は目立って仕方なかったが、黒髪の少ないこの国では普通の色で落ち着いて見えさえもする。二ヶ月前にはベリーショートだったが、今はショートボブくらいにはなっている。


 耳の辺りを編み込みし、ドレスと似た色合いのリボンで出来た花の飾りをつけてもらう。



 化粧も軽く施される。

 おしろいと、チーク、それにリップ程度で目元はあまり色をつけないのが昼時間のマナーのようで、これから行くのは午後のお茶会なのでかなり薄いけれどこれで良いらしい。


 これまで目元をいかに強調するか、という化粧が主流だったからぼやけて見える気がするけど。


「お嬢様は本当にお美しい、何もせずともそのままで宜しいくらいですね。」


 こんな風にベタ褒めしてくれる。



 貴族とか偉い人たちは言葉の裏に含みを持たせるのが常らしいので使用人の人もそうかもしれないけれど、比較的素直にわかりやすく話してくれている。

 私がわかりやすく喋って欲しいとお願いしたせいもあると思うけれど、ここで働く人たちは皆そうらしい。


 屋敷の主人、あの人がそれを望むから、だと言っていた。



「ありがとうございます。あの、やっぱりお嬢様というのをやめていただけたら」

「いえ。お嬢様はお嬢様ですわ。お若くお美しく、まだ未婚の女性ですもの。」


 食い気味に却下される。

 二十を超えているのにお嬢と呼ばれるのは居た堪れない。


 この世界では相手の名前を呼ばないのが良いとされ、特に女性は男性の名前を呼んではいけないらしい。()()()()()()()()()

 爵位や家名を持っていればいいらしいけれど、私はない。苗字はダメらしい、よくわからないけど家名とは土地の名前らしい、どの土地からきた誰なのかを示すもの。

 だから私の名前は”フローリア”という元々の名だけになった。


 使用人の人たちもやはり仕えてる人の名前を呼ばない方が良いらしいので、お嬢様以外に呼びようがないのもあるだろうけど、もぞがゆいような気持ちになる。



 コンコンとノックが響き、準備はどうだ?と声が掛かった。


 片足で杖をついてもまだうまく歩けないので、この世界にも有るという松葉杖を使いたいと希望したけれど、淑女は使わないのだと言われてしまい使用は最低限家の中、出来るだけ部屋内だけと決められた。


 なので出かける際は


「ゆっくり抱き上げます。掴まって」

「はい。」


 この人に抱かれなくてはいけない。


 横抱きにされ、首に掴まる。

 背も高く細身だけれどそれなりの重さのある私の体を軽々と持ち上げ、何でもないように歩くその足取りはしっかりしていて、安心感がある。

 厚みがあり引き締まった筋肉は騎士という職業の厳しさやこの人の真面目さを物語っている気がする。


(償う、とさえ言われなければ…)


 無口なこの人か誠実なことはこの二ヶ月ではっきり感じてる。

 何度も今のように抱えられてるけれどいやらしさや不快感はない。

 壊れ物を大切に運ぶように、優しくそっと触れてくれるし、がっしりしてる腕はおかしなところを触らないようにひどく気を使ってくれている。


 だから、こそ。





 いつもよりほんの少しだけ、体を寄せた。


 息を飲むような音が聞こえたけれど、聞こえないふりをしてそのままいつも通り運ばれていく。



次は俺(騎士)視点です

明日のお昼にアップ予定

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