2(俺視点) 償いの
痛々しい表現があります。
欠損した際のことが書かれています。えぐくはないと思いますが痛々しいことには変わりがないのでご注意ください。
彼女が美しい足を失ったのは全て俺のミス、怠慢だった。
あの日、聖女召喚の儀が行われた。
儀式は王都のすぐ側にある聖女の森と呼ばれる広い森の中心の開けた場所で行われた。
100年毎に儀式は行われ、平和の為の祝福をかけていただく役割を担う聖女を異世界より招く。
森は神聖な場所で魔物なども現れない。安全だからとたまに浮浪者などが住み着くこともある。
100年に1度の儀式を邪魔する可能性があるため、住み着いているものがいないかどうか1週間ほどかけて騎士団総出で森中を歩き、問題がないことを確かめた。
はず、だった。
それなのに。
召喚して出てきたのは聖女だけではなかった。
召喚の際には光や靄が発生した。
眩しさに目が眩み、白さで周りがよく見えず。
それらが落ち着くまで俺も含めて儀式に参加したものたちは動かずじっと待っていた。
やがて靄が晴れると、なぜか2人そこにいた。
女と男。はじめは抱き合っているように見えたのだが、女が急に血相を変え、思い切り男を突き飛ばした。
もしかしたら見逃してしまった浮浪者などがここに入り込み、光や靄に乗じて聖女を襲ったのか!と誰もが思っただろう。
「斬れ!」という陛下の声に反応し、俺は飛び出し剣を振り男の足を斬り捨て、治されぬように体から離れた足を燃やした。
その瞬間甲高い悲鳴が響き渡った。
明らかに、女の声。
もう一人は声を上げていない、叫んだのは足を切られた人物だけ。
まさか…と恐ろしい事態を想定し震えながらもよく見ると、その人は男のような格好をしているだけで、女だった。
まさか、まさか、まさか。
聖女を切りつけてしまったのか!?
俺だけでなくその場にいた者はみな慌てていた。
すぐに治癒魔法をかけたが、燃やした足が戻ることはない。そのため燃やしたのだから当然だった。
断面をできる限り綺麗にし、痛みを和らげ炎症が起こらぬように治癒させることしかできなかった。
もう1人の女の方は呆然としていて、その光景を眺めているばかりだった。
その騒ぎが収まり、陛下が調べたところ足を失ったのは聖女ではなかった。
突き飛ばした女が聖女だった。
もう一人は、単に召喚に巻き込まれてしまっただけ。
後で話を聞けば聖女が穴に落ちそうに見えて助けるために腕を掴んだのだと言う。
心優しきその人物は、巻き込まれ元の世界に帰ることもできなくなっただけでなく、足までも失った。
俺のせいだ。
心当たりがあった。
陛下には後に報告したが、森の一部に流れる川が氾濫し浸水していた箇所があり、その部分の捜索が思うように進まなかったと儀式の直前に部下から聞いた。
あまりにもギリギリだったこと、その場所が儀式をする場からかなり離れていたことで、陛下に進言するのを躊躇い、儀式の後に、としてしまった。
部下は自分の責任だと除隊を希望したが、俺はそれを許さなかった。
部下のミスではなく、どう考えても俺のミスだ。俺が判断を誤り、進言しなかった。怠慢以外の何物でもなった。
もしそれを伝えてさえいれば。
儀式の予定日はあと2日あった。ずらすこともできた。
それなのに、まぁ大丈夫だろう、遠い場所なのだから、と決めつけた。
決めつけたけれど心にこびりついたその不安が陛下の言葉に過剰に反応した。
やりすぎた。
騎士団近衛第二部隊の部隊長だった俺は陛下に全て告白し部隊長の任を解かれた。
同時に第七部隊に移動となった。
第七部隊は別名聖女隊と呼ばれ、召喚の後聖女をお守りしお役目を支える。
そこで俺は聖女の護衛と同時に、巻き込まれた彼女の生活の面倒を見ることとなった。
当然だ。
任されなければ進言するつもりだったし、もし除隊となっても彼女一人を支え生きていくのに申し分ない程度の金や環境はそろっていた。
誰に何を言われなくても、彼女を守り続けると決めていた。
当然だ。
俺のミスで彼女の美しい足は消えたのだから。
彼女は、それはそれは美しい人間だった。
モデルという仕事をしていたのだという彼女は髪の毛1本から爪の先までも全てが美しかった。
詳しい内容はよくわからなかったが美を魅せることがその仕事なのだと理解した。
彼女にふさわしい職であると何度も頷いた。
振る舞いも佇まいも美しく凛として見事で、何度も見惚れてしまった。
彼女に跪き、支配されたいとさえ思う美しさをもつその彼女の残った足は、歪みも傷もなく美しく整っていた。
両の足が揃っている様を見たかったなどと口が裂けても言えない。
そう思う自分を恥じた。
奪ったものが、大きすぎた。
だが、償うことすら彼女は許さない。
当面の生活は頼ってくれることを了承してくれ、同時にこの国を知るための勉強をさせてくれと頼まれた。
ならばと俺の屋敷に住んでもらい、暮らしに慣れながら家庭教師をつけて学んでもらうことにした。
侯爵家に生まれ、俺自身もいくつかの爵位をもらっているため王都の屋敷は広く、使用人も多い。
妻もいないし親は侯爵家の屋敷に住んでいる。
慣れない生活を支えられるだけの環境がここにあったし、無ければ何もかもを準備するつもりでいた。
いつまででも居てくれたら良い。
結婚の予定はないから屋敷に居づらくなることも、彼女が浪費家だったとしても金が無くなることもないだろう。
でも、どれもそんなに必要がなく、今だけ支えてくれればそれで良いという。
慣れたら仕事を探して出ていくと。
あの足で、知らない世界で、難しいと何度話しても。
償うことは許されない。
俺に許されてるのは、ただ手のひらにキスをすることだけだった。
次回は私視点になります。
夜0時くらいに上がります