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番外編2 王は思う

王様の視点になります。

若干残酷だったり性的だったりすると感じる描写があるのでご注意ください。

少々修正しましたが話は変わってません。

 

「陛下、お疲れでいらっしゃいますね」


 セイリーンがそう声をかけてくれてようやく自分がうたた寝してることに気づいた。


「ああ…少し寝不足だったようだ。最近一緒に眠れなくてすまないな」


 そう言って彼女を抱きしめると、優しく抱きしめ返してくれる。



 先月召喚した聖女は、頭のおかしな女だった。

 いや、こちらが勝手に呼び、帰れもしない、拒否権もない、そんな状態で国のために祈れなどと言う方がおかしな話ではあるのだが。


 だが、本当にどこかおかしい、あの女。

 それはこの国のおかしな決まりごとたちの上をいく。


「だいぶお困りのようですわね。聖女様のことでしょう?」


 口に出さなかったが、まぁバレてしまうだろう。

 王妃であるセイリーンにもかなり負担がかかっているのは分かっている。


 セイリーンの堅実さや清廉さと、あの聖女の質は全くと言っていいほど合わない。

 護衛についた兵士たちを寝所に呼び込もうとしたり、私の上に跨って腰を振るように誘った時もあった。吐き気がして切り捨てそうになったが、国のためと血を吐く思いで踏みとどまった。


(あんなのではなく、リア嬢であったなら少しは変わったか。)


 召喚に巻き込まれ私の判断ミスなどが重なり不幸にも足を失ってしまったフローリアという女性の方が何十倍にも好感が持て信頼もできる人柄であった。

 セイリーンも彼女とお茶を楽しむ時間を心待ちにしていた。


 それくらい美しい人。

 聖女という言葉通りの人。


 しかし聖女でなくとも、彼女は素晴らしい逸材のように思う。

 見た目の美しさもさることながら、あの内面。時々だが女王として長く君臨していた祖母のことを思い出す。孤高の美しさは人を惹きつけ、魅了してやまない。


(あの堅物が一瞬にして恋に落ちるくらいだからな。)


 まだ恋をしていると気づいてないようだが、私としてはぜひ彼らに結婚してもらい、フローリアにはこの国に根付いてもらいたい。色んな問題があるから、だけでなく、国に仕えるしか能の無い友人に初めて訪れた春なのだ。

 出来れば応援してやりたい、友として。



 …フローリアが聖女でなく、聖女があのような女だったのは気が楽だとも思えるかもしれない。

 一年経ったら、龍神に娶られるのだから。


(リア嬢だったらあいつが鬼神になっていたかもなぁ。ははは、まあ頑張るしかないな。)


 一年、堪えよう。一年耐えれば、それでいい。






 と、そう思っていたがその後一か月もした頃には、堪えられなくなってしまった。情けないことに、あっという間に限界になった。

 目に余る行為が重なって、恐ろしいことばかりを口に出しすぎた聖女を彼女の部屋に閉じ込めることにした。

 牢という名の部屋に。


 気が狂ったかのようにリアを殺せと叫び続けた。それ以外にも目に映る女たち、セイリーンに対しても死ねと、首を飛ばせと。

 それらが実現したらと思うと穏やかではいられなかった。多少の暴言は笑って済ませるつもりだったが、セイリーンの首をみてそう言ったとき、気づいたら聖女を眠らせる魔法を全力でかけていた。

 目が覚めなかったら危うかった。冷静にいられない自分を恥じた。


 耐性があるのかそれとも聖女は魔法が効きづらいのか、すぐに目覚めて少々ホッとしたが、その様子をみて私に対して体を好きにしていいと言い出す。

 だから牢ではなく普通の部屋に戻してくれと。



 ばかばかしすぎて笑わないようにするのに必死になった。

 私にはアレを抱く気もなければ、そんなことをして国を未曽有の危機に陥れる気もない。



 私が取り合わないとわかると、ターゲットは見張りの兵士たちにかわった。彼らを誘惑しているその様は下品極まりない。


 腰を押し付ける様はされても見ても気持ちの悪いものだった。しかし部屋を牢屋に作り替えた後は直接触れられる距離に行く必要がなくなったため胸をなでおろした…でも。


 先ほど様子を見にきたところ、牢の柵の向こう、すぐ触れられる位置で下着を脱いで股を開いて、見張りを誘っていた。


 今日の見張りは女性に興味を持てないものを選んでいるが、誘惑されはなくとも吐き気は催す。

 真っ青な顔でそれでも仕事にあたる兵士に言葉をかけると、あと数日持ちこたえるだけなので頑張りますと震えながら言っていた。



 終わった後すぐに元通りに働ける兵士がどれくらいいるだろう。

 特別手当を出すだけではもう無理だろう。心の休養をさせなければならない。


 甚大な被害が出ているが、それでも聖女は必要だ。



 国のために。




 聖女召喚は龍神との約束だ。

 子を産む女を用意してくれと言われている。

 異世界人でなくてはならないらしい。理由はわからない。


 聖女は別に生娘でなくてもよい、と聖女のことを龍神に報告した際に言われてほっとした。

 この国に来てからは細心の注意を払っていたので何もないが、すでに男を知っているのはどこからどう見てもわかる。

 咎められたらどうなるかとひやひやしていたが、それはそれで楽しいらしい。この国の男が聖女を汚さなければむしろそれでいい、と好色な龍神は言う。


 100年に一度嫁を欲しがる。代わりに祝福をもらう。そうしてずっとこの国は平和に繁栄してきた。



 異世界人を召喚する儀を行う方法を聞かされ、千年以上続けている。呼ばれた聖女たちには申し訳ないが、こちらも数十万の命がかかっている。小国ではあるが、それでも大事な国だ。



 国としてあり続けるために、必要な犠牲だと割り切って召喚の義を行ったときは罪の意識で平静ではいられなかった。

 少々ミスがあったこともあり、フローリアに対して判断を間違えた。足を燃やすまでしたあれも同じだろう。




 今となってはそんな気持ちを抱いた聖女に対して、一刻も早く消えてほしいと思っている。

 私の罪の意識など、偽善だったのだとよくわかった。


 今はただ平穏な日々のためだけに動いている。


 部屋に閉じ込めた後早急に龍神に謁見し、此度のことを報告の上早急に召し上げていただけるようにお願いしたら、想像外に喜ばれた。


 それどころかどうやらかなりお気に召しているらしく、あれから毎日様子を見に来ている。

 聖女の戯言を龍神はきれいな顔でニヤニヤと笑って聞いている。

 

 今は人に似た形をとっているが龍にもなる。燃えるように真っ赤で、銀の立て髪が美しい龍だ。

 人の形になっても美しい銀髪に、所々赤い鱗が見える。ツノもあり、目も人のものとは違う動きをする。


 聖女は最初はその見た目に困惑していたが、いけめんという範疇だったのだろう。嫁になり子をなすことも了承し、数日後に迫った儀式のために祝福の言葉を練習することもし始めた。


 ようやく、少しだけ休めるようになった。

 あと少し、あと少し。





「ああいうのが聖女と言えるのだ。我にとっては。お前たちヒトには難しいかもわからんな。」


「私にはよくわかりません。」


 儀式と聖女出立の催しを明日に控え、思わず龍神にあの聖女をどう思うか聞いてしまった。


「お前たちには荷が重いだろうな。特に今回はとても良いから一年持たなかったとしても我は責めぬ。むしろ汚すことなく今日まで守っていたことを誇ってよい。」


「ありがたきお言葉、心より感謝申し上げます。」


「ははは、かしこまらんでいい。子供のころは我の背中に乗って遊んでいたではないか。ヒトの成長は早いものだな、見た目はもう我と同じ年のころに見える。」


 聖女召喚の義を担う世代ということで幼いころから龍神に謁見し、怖いもの知らずだった私は龍神と遊んでもらうことも多かった。

 

 子供のころは龍神のその懐の広さや人と違う考え方に感銘した。今も崇拝しているし畏怖の念もある。


 だが、女の趣味だけはよくわからない。異世界人ならどう見てもフローリアのほうがいいだろう。見た目も心根も美しい。足の一本など気にもならん。


「我は混血は好まんよ。もう1人はあの坊主がすでにもらったのも分かっている。それで良い。」


 心を読まれたのか、とゾワリとする。


 気安く話してくれてはいるものの、一瞬でこの国どころか世界丸ごと焼き尽くすこともできる神。

 睨まれたらひとたまりもない。


「よいよい。あの坊主は我の血が入っているうえに性質を濃く受け継いでいる。いい相手に巡り合えたようで何より。きっと我と同じように妻を大切にするだろうなぁ。たくさん子を産み繁栄してもらいたいわ。」


「すでに大切にしているようです。目に入れても痛くないと。」


「ははは、まあヒト同士、我のように食べてしまいたいと思っても少し噛みつく程度だろう。可愛いものだな」


 美しすぎてぞっとする笑みから恐ろしい一言を残して、明日が楽しみだと高笑いながら龍神はあっという間に龍に姿を変え、青空に溶けるように飛んでいった。




「…大丈夫だといいが。」


 龍神と同じように愛されるとは…拷問だと感じていなければ良い。確かに食いはしないだろうが、閉じ込め外に出さないくらいはやりかねない。

 男の視界に入ることすら許さず、手でも出す不届き者がいたら殺してしまうかもしれない。

 早めにそれは犯罪になると強く言っておかねば。わかっているだろうが…いるだろうか?


 不安になってきた私は、結婚祝いは盛大に振る舞おう、リア嬢に喜ばれるものをセイリーンと真剣に選ぼう、と強く心に決めた。


 幼馴染として育ち、王と騎士と立場は分かれたものの、大切な友人には変わりない。

 あいつが独り身に戻らぬように、犯罪者にもならぬように、出来る限りのことをしよう。




 ようやく明日、この国は聖女の祝福を受け、安泰の次の100年を歩み始める。

 私も、この苦痛から幾分かは解放されるだろう。



番外編三話目は夕方くらいにアップします。

次の話は少しエグイかと思うのでご注意ください。ほんの少しだけざまぁな回。

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