番外編1 その後の私は
番外編1 短いです。
若干性的な描写があります。
欠損に関連する話があります。
苦手な方はご注意ください。
「やっぱりそこばかり触れますよね?」
聖女を傷つけたことは罪に問われず、娼館に行くこともなかった私は彼のプロポーズを受け入れた。
結婚は来年の春。それに向けて今は妻としての仕事を勉強してる。とはいえ主にこの屋敷の運営と彼の仕事関係を中心とした付き合いのある方々を把握するくらいのもの。大変だけど予想よりは、という感じ。
王妃様のお話を聞いた限り、貴族の皆さんはとても忙しいらしい。領地とか、仕事とか、社交とか、お金のことから人付き合いまで本当に細やかな心くばりが必要らしい。
だけど、彼は領地は持ってなかった。褒章などで授けられるたびに身内に渡しているらしい。面倒くさいってことらしいけれど、資産や財産でもあるそれらをぽんぽん渡せるくらいには、騎士のお仕事は安定してるみたい。
私はこの家のことさえわかっていればそれでいいのだとはっきり言われ、かなり安心した。
「…やはり少しおかしいだろうか?」
腫れ物に触れるように扱われるのが嫌だったのでそれを何度も言ったが、結局そう思っていたのは勘違いだとも分かってきた。
いろんな風習がある、そう思っている。それだけじゃないとやはり思うけど。
流石に足のことを忘れてほしいといっても、難しいんだとは思う。
片足1本まるっと勘違いで切り落とし、戦場よろしく切った足を消炭にした。戦争なんてほとんど行ったことがないのに、訓練の成果をしっかり発揮してしまったらしい。
燃えてなければ足を繋げ、走れなくても歩くくらいは出来た筈だとなれば、悔やむなと言っても難しいのは分かってる。
ただ、それを差し引いても彼はちょっと、なんというか、おかしいかもしれない。
「まぁ…いいですけど」
贖罪のつもりだと思ったり責めたりしたこともあったけれど、そうではないらしい。
とにかくここを優しく触れたいらしい。
いまいち、よくわからない。
「嫌がられてもいい…が、我慢はできないな。」
そう言ってなくなった右足の、くっついてたであろう場所をそっと触って。撫でて、キスをして、時々舐めて。
触られてる感覚はあるものの、はっきりとしたものではなくぼやけていて、モゾモゾする感覚があるだけ。
実は怖くて自分でそこを見たことはない。自分の体だと分かってるし受け入れてもいる、けど怖い。怖いものは怖い。触るのも出来るだけ最小限にしている。
自分で確認はしてないけれど、綺麗に治してくれてるのも、筋肉などがおかしくならないように処置されてるのも知っている。この世界の魔法は素晴らしい。
なくなった部分の治癒力を高め、自然とよい状態になるように体を導いてくれた。
斬られたときは死ぬほど熱く痛く、意識を保つので精一杯、むしろ気絶して痛みから解放されたいと思うくらいだったのに、治癒魔法をかけられたらすぐに痛みは緩和された。
処置されたあと、感染症なども起こらなかった。
幻肢痛のようなものも今のところない。
屋敷内だけなら松葉杖を使って動けるので、あとは義足などがあればかなり助かるのだけれど。
「くすぐったいです」
「ああ」
「そろそろやめません?」
「もう少しだけ」
この調子だと義足がこの世界にあっても教えてくれなさそう。
欲しがっても嫌だと言いそう、この人。
欠損とか傷痕に興奮する性分なのかと思ったけれどそうではないらしい。私の中に自分を感じると言っていた。それが美しいんだと。
よく分からないけど、
「そろそろ、足以外にもキスして貰えませんか?」
「!!ああ、リア、俺のフローリア。愛してるよ。」
もう少し私自身に構ってほしいと思う。
足だけじゃなく、全部愛してくれないと。
大切にしていると、ちゃんと示し続けてほしい。
気付いたら私は随分わがままになっていた。
いや、最初からそうだったかも。
ねだればすぐに足から離れて、でも少し名残惜しそうにしてる彼は、厳つく人を怖がらせるような見た目をしている割に素直で可愛らしい人。ちょっと変だけど。
だけど、私も同じね、きっと。
素直じゃない。
ちゃんと言ってと強請るくせに自分は言わないの。
それに。
彼が足に触れるその様を、愛おしく思ってもいる。
優越感、が近いのかもしれない。
足元に臥せるようにして足に触れる彼を見ると、ぞくぞくとした衝動に駆られる。
私は随分、この国に馴染んだんだろう。
執着と束縛にまみれた彼の愛を心地よく思うだけでなく、もっともっとと欲しがるのだから。
続きは明日のお昼予定。
遅れるかもしれないです




