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1(私視点) なくなったのは私の足だけ

この話はフィクションです。出てくる人物や思想等はすべて作り物です。

誤字脱字等お許しください。

欠損表現があります(具体的な描写はございません)ご注意ください。

追記で少々表現を変えましたが話は一切変わってません。

 

「俺に、あなたを一生守らせてほしい。」



 これがもし、恋人からの言葉だったなら。

 素敵プロポーズに聞こえたかもしれない。




 でも。

 これはそんなんじゃない。全然、別物。



「その足は俺の責任だ。償わせてほしい。一生側で支え続けると誓う。」


 彼は私の右足があった場所を見つめてそう言った。


 ベッドに腰掛けている私が今着ているのはネグリジェのような薄い生地の寝間着で、足があるあたりに不自然な凹みがある。



 左側はそうでもなく右側だけ。膝よりもずっと胴体寄りの場所で、スカート部分がふくらみをなくしてペシャリと潰れている。



 もう右足の感覚すら思い出せない。




 彼は片方の膝をつき低い姿勢をとっている。おそらくかなり畏まった体勢をしてると思う。

 たぶん、だけど。


 それがどれほどのことなのかよくわからないのは、私がこの世界の住人じゃないから。


「十分良くしていただいています。」


 動く気配のない彼にそう声をかける。





 償いのために守りたい、などといわれそれを受け入れ生きていくなどバカバカしいと私は思ってる。

 すでにこの世界と足に慣れるまでの生活の面倒を見てくれていて、だいぶお世話になっているけど、もう十分。


 何度それを説明しても、この人は頷くことはない。


「俺のミスであなたは足を失った。知らないこの世界でその体で生きていくことの難しさは計り知れない。あなたの為に尽くしたいのです。」


「ミスなんて誰にでもあります。それに、あの場合は仕方がなかったと陛下から聞きました。

 大事なのは私ではなく彼女、聖女様なのでしょう?」



 それを言えば彼は黙る。


 ここ最近毎日のように同じ問答を繰り返してる。償うだの守るだの、本当に飽きない人だ。


 この国の王様、陛下はもっと端的で分かりやすくてよかった。






 ---聖女を襲う悪漢だと思い切り捨てるよう指示をした。


 陛下はそう言った。

 立場的なものなのかはわからないが謝罪の言葉はなかった。

 公の場で王様が下手な事言ったり頭を下げたりしたらきっと問題になるだろうと思うし、取り繕われるよりよほど分かりやすくてよかった。腹は立ったけど。




「私にとってはあなたの方が…」

 言いかけて黙り込む。


 聖女を軽視する発言はきっと出来ないだろう。この人だけじゃなく、この国の全ての人間がそうなんだと教わった。


 二ヵ月もこの国にいれば、だいたいの価値観や常識がわかってくる。

 教えてくれとお願いしたこともあり、何となくでもわかることが増えてきて、以前とは違うところの多い生活様式にも慣れた。



「それは聞かなかったことにします」



 聖女信仰。

 今の私がこの国を一言で表すとそうなる。

 全てにおいて聖女信仰を中心に置いている。

 聖女を崇め奉り、祈りを捧げ、何かあれば聖女に感謝し、聖女に赦しを乞う。


 なんとなく、王や偉い人達よりも平民とよばれる庶民の人達のほうがその傾向が強いようだけど、それでも陛下は聖女に頭を下げ手の甲にキスをする許しを得ると恍惚な笑みを浮かべていた。



 異常。

 素直に言えばそれが本音。こういう文化に触れていなかったから、と言ってしまえばそれまでだけど、異世界から来てしまった私にとってこれはかなり異質に見える。



 でも、以前だって国が変われば価値観が真逆になることもあったし、海外にいって困ったこともたくさん経験して、そのうちに慣れた。

 世界すら変わってしまった今だって、時間さえ過ぎていけばその異質さだっていずれ当たり前になるのだと思う。




 どうせ、帰れないのだから。


「また明日にしません?お疲れでしょう。」


「お気遣い感謝する。しかし俺よりあなたの方が大事です。」


「では、もう休むのでまた明日にしてください。」


 そういうと彼は渋々といった顔で立ち上がって。



「おやすみなさい。」


 私の手を持ち上げ、手のひらにキスをして部屋を出て行った。






 手のひらのキスは懇願、だった。

 前の世界では。


 この世界ではどんな意味があるのか。


 知るのが怖くて、まだ聞けていない。






 あの日私はオフだった。

 一時期仕事が減り、苦しい時もあったが徐々にまた忙しくなって。

 あの日、久しぶりのオフに少し浮かれていた。



 少し変装し男性に見えるような格好で街中をぶらつき、のんびり過ごして。


 そろそろ帰ろうかとした時、目の前にいた女子高生のいく先に穴があるようにみえた。

 あと一歩進んだその先が、真っ黒く円形に抜け落ちていた。

 マンホールか何かだと思い、危ない!と慌ててその子の腕を掴もうとしたが、それと同時にその子はすでに穴のところに足を踏み出していたために、私も一緒に落ちてしまった。





 落ちると思ったのに、痛みも何もなく。

 気付いたらこの国に来ていた。


 今までとは全く違う場所、異世界にあるこの国に。





 女子高生は聖女で、私は単に巻き込まれたのだと後で説明されて分かった。


 もう戻ることはできないとも教えられた。



 戻れないならば、異世界のこの地で生きていくしかない。

 生活のため私は仕事を求めたけれど、良い返事は返ってこなかった。


 言葉は通じるが文字の読み書きはできず、この国の常識を知らず、マナーや礼儀もそこまで通用するものではなかった。

 さらには片足になってしまった私に、出来る仕事はなかった。



 なくなったのは、右足の太腿上部あたりから下。

 魔法があるこの世界では、怪我などは回復できるしもし足が綺麗に残っていたらくっつけることも可能だったらしいけれど、私の足は切り落とされ燃やされてしまい無理だった。

 とても綺麗に直してもらい、痛みなどもないけれど、二度と足は戻らない。




 ただ、足を生やせるかもしれない方法があると聞いて、喜んで教えてもらったけれど、私には無理な方法だった。



 あの聖女に頼るのは、片足のまま生きるのと天秤にかけても嫌だった。




次回は俺(騎士)視点です

今日の21時頃上がります。

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