第4話 それ、源流対策になってないよ
ご覧頂きありがとうございます。
事故の報を聞いたフラン様とおじい様。
早速現場に走ります。
今回は安全衛生から範囲が広がり、業務のカイゼンになります。さて、腕の見せどころです。
ほんっとーに最悪!!
工場での事故は最優先で解決しなければならない大問題だ。
事故があった工場は、領内の麦などの穀物を挽いて粉に加工する製粉工場。製品は領民が口にするのはもちろん、交易品として外貨を稼ぐ重要な資源となる。
農業以外これといって基幹となる産業がない我が領において、まさに命綱とも言える重要な工場でもある。
その工場で事故だという。おじい様の慌てようもわかるというもの。
急ぐ馬車の窓からも見て取れる、町外れの工場にからもうもうと吐き出される白い煙が、焦りを募らせる。熱傷を負った従業員がいるのではないだろうか。心配だ。
「おじい様!」
「うむ、御者よ、急ぐのだ!」
鞭が入った馬車は一段と速度を上げ工場に向かう。
工場はもうもうとした熱気と湿気に覆われていた。
到着するや、工場長が駆け寄ってくる。
「も、申し訳ありません大旦那様! このような事態を引き起こしてしまい、なんとお詫びをしてよいか」
「詫びなど良い! まずは状況を説明せよ!」
ボイラーからタービンへと続く配管が破損し、蒸気漏れしたようだ。一番圧がかかる部分だ。まず間違いないだろう。
運転員たちが状況を運転責任者らしい男に報告している。様々なやり取りがなされていたが、一番気になる報告が飛び込んで来た。
「けが人の状況!」「軽度の熱傷数名のみです!」
状況の大きさに比べて人的被害が少なかったのは不幸中の幸いだ。おじい様共々胸をなでおろす。やけども軽度ならば復帰も早いだろう。
「他のけが人が無いか、念のために点呼を。石炭の熱が落ちるまで待ちましょう。注水は怠らずに。窯が壊れちゃうから」
結局炉の火が落ちるまでに優に半日以上はかかった。石炭だから仕方ないといえる。
あっちの世界だともっと早く冷やせるんだろうなぁ。この辺りは私も専門外だからよくわからない。
「さて、修理はすぐに取り掛かるとして、原因調査よ」
私はおじい様と工場長に向き直って宣言する。
「お、お嬢様? ……大旦那様、これは」
どうやら私の物言いがあまりに大人じみているので、驚いている様子だ。
「はっはっは。ウチの自慢の孫じゃ。少しこの子の話を聞いてみてはくれまいか」
おじい様が工場長にとりなしてくれた。彼は「はぁ」といって私に向き直る。
「しかしお嬢様、原因は配管の破損です。それ以外に」
「工場長、それは原因でなく、現象です。起こったことです」
はっ? と工場長の頭の上に大量の「?」が浮かんでいるようだ。
「しいて言うなら、配管の破損が『原因』で、運転員が熱傷を負った、とは言えるわ」
言い換えると工場長は合点がいったようで、表情が明るくなった。
「いい? 今回の配管の破損はなぜ起きたのか。それをしっかり深堀りしないと、すぐに事故は再発するよ?」
さあ根本原因の探索、スタートだよ! とはいえ、これは私がやっては意味がない。
「さてこの原因の深堀り。私がやってもいいんだけれど、それだとまた別の問題が起きたときに対処できないでしょ? だから今回はやり方を教えるから、みんなで考えていこうね」
「んなこと言ったって、お嬢様。配管なおせば万事オッケーじゃねぇんですかい?」
運転員の一人が仕込みのように疑問を呈した。ありがとう。
「いい質問ね。確かに今回の場合、配管を直せば元通りになるわ。けどそれは言葉の通り『元通り』になるだけ。そのまま再稼働したら間違いなく事故は再発しちゃう。同じ不具合を起こさない。源流対策の重要性はそこにあるの。そうしないと、今度は軽傷じゃすまなくなる」
断言する私の声に、周囲はざわめいた。
「さて。脅すのはこれくらいにして、実際の原因の深堀りを始めよ?」
そういって私は黒板に向かうがここではたと気づく。
「……あの。だれか踏み台を準備してくれたらうれしい」
「といってもどう話を進めていけばいいんでしょう?」
工場長が首をかしげる。
「まずはそれぞれ、思いつく要因を上げていかない? みんなで議論したらいい結果が生まれると思うの」
「どういう観点で挙げていけばいいんで?」作業員が手を上げる。
「考える要素としては人、設備、やり方、材料、計測の五つの目線で考えると良いとされてるよ。5Mって言われるわ」
開いた私の右手をみんながポカーンとした顔で見上げる。ふふ、ひよこみたい。
「他にも環境や管理なんかも入れるべきと言われてるけど、ここはそれ以前だからとりあえず置いておきましょう。ウンチクはともかく、まぁ、まずはやってみよ」
「そりゃお嬢様、気合がたりねーんでさ!」
早速出た言葉に数名がうんうんと頷く。
「気合で事故は防げないよ。人に原因を求めちゃダメ。でないと、全部結論は『気合を入れ直す』ってことになっちゃうよ」
私が腰に手を当ててため息を付くと、「そりゃたまんねぇ」などと作業員から笑いが起こった。
「あの、操作を間違えた……というのはダメなんですか?」
年若い作業員が恐る恐る手を挙げる。
「ダメじゃないよ。それは人に原因を求めてないからね」
「へ? 操作を間違えるのは人でしょうが」
私が肯定すると、中年のおじさんがツッコミを入れる。
「ううん、違うよ。操作を間違えるのは、方法を『知らない』、『無視する』、あるいは方法が『決まってない』、か『間違ってる』。理由はこのどれかだから」
そんなもんなんすねー、とおじさんが関心する。
「設備の設計そのものが悪いというのは、どうなんですかね?」
「んー、筋としてはちょっとツラいんだよね、そっちに行っちゃうと」
私の苦笑いに、その神経質そうな男は首をひねった。
「だって、それすごく大変なんだもん。どうしてか、わかる?」
今度は目一杯、笑顔でたずねてみた。男は一度目をパチクリさせてから顎に手をやった。
最後までありがとうございます。
さて、なんで設備に原因を求めたら辛いんでしょうね?




